「推し旅」と呼ばれることもある「コンテンツツーリズム」。一般にはアニメや映画の舞台となった土地などゆかりの場所を訪れる観光として注目されているが、鹿児島県阿久根市では新たな形のコンテンツツーリズムが展開されていた。

デジタルと港町が生み出す新しい観光の形

鹿児島県阿久根市 雄大な海と豊かな山に囲まれた港町
鹿児島県阿久根市 雄大な海と豊かな山に囲まれた港町
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鹿児島県北西部に位置する阿久根市。東シナ海に面し、雄大な海と豊かな山に囲まれたこの港町で、「よかとこ阿久根」と名付けられたデジタルスタンプラリーイベントが開催されている。特筆すべきは、このイベントが大手VTuber事務所「にじさんじ」とのコラボレーションによって実現していることだ。

「今日も元気にオープン!Speciale (スペシャーレ)の朝担当 七瀬すず菜です」
「Specialeの夜担当 酒寄颯馬です」
「よろしくお願いします」

東シナ海を望む国道3号沿いにある「道の駅阿久根」に設置された男女のVTuberキャラクターパネルは、YouTubeで配信活動を行う彼らの姿が描かれている。事前のPR配信では阿久根市の特産品の食リポや観光のモデルプランなども紹介され、「食」に対する興味が強い2人が阿久根市の魅力を存分にアピールした。

阿久根市と「にじさんじ」のコラボイベント!
阿久根市と「にじさんじ」のコラボイベント!

担当者の思いがきっかけに

一見デジタルとは無縁に思える阿久根市でこのイベントが実施された背景には、市の担当者の熱意があった。

イベントを企画したのは阿久根市商工観光課・小山真央さん。「私が元々、VTuberのライブ配信をよく見ていたというのもあり、情報発信力やPR力は凄まじいものを感じていた。まずはこの企画を通して阿久根を知ってもらい、阿久根に一度足を運んで、阿久根の良いところを体験してもらうのが一番の目的」と語る。

イベントを企画した小山さんの熱意がきっかけとなった
イベントを企画した小山さんの熱意がきっかけとなった

VTuberによるコンテンツツーリズムの特徴

観光学が専門の近畿大学・岡本健教授は、VTuberを活用したコンテンツツーリズムの特徴について次のように指摘する。

「例えば、映画やアニメのロケ地観光であれば、まずその作品のロケ地になっていないと、なかなか観光振興は難しいが、VTuberはどこでも一緒にコラボできる点で可変性、自由度が高いと言える。大切なのは、そういうきっかけで来てくれたお客さんにどれだけ周遊してもらえるか、どれだけその地域の他のものを知ってもらえるかという工夫、その工夫は地域側の試されるところ」

「イベントを機にその地域の他のものを知ってもらう工夫が大切」と語る近畿大学岡本健教授
「イベントを機にその地域の他のものを知ってもらう工夫が大切」と語る近畿大学岡本健教授

スタンプラリーが呼び込む観光客

イベント開始後の3連休には早速多くの観光客が阿久根市を訪れた。阿久根市内の20カ所に設置されたQRコードをスマートフォンで読み込み、スタンプを集める仕組みだ。

肥薩おれんじ鉄道の阿久根駅や道の駅阿久根では、朝からスタンプラリー目当ての観光客の姿が見られた。熊本からやってきた観光客は「今からスタートして回っていこうかなと。こういうイベントは出かける機会になっていいと思う」と話す。

QRコードをスマートフォンで読み込み、スタンプを集める
QRコードをスマートフォンで読み込み、スタンプを集める

鹿児島市から来た宮内さん一家は夫婦でVTuberのファン。「配信で阿久根とコラボすると話していたので『え!そうなんだ!』と」と夫の俊亘さん。妻の彩さんも「知っている人がコラボしていると、見に来たくなる」と話す。

夫婦でVTuberファンの宮内さん一家 鹿児島市から阿久根を訪れた
夫婦でVTuberファンの宮内さん一家 鹿児島市から阿久根を訪れた

新たな魅力発見の機会に

スタンプラリーをきっかけに阿久根市を回った宮内さん一家は、地元でとれた新鮮な魚に舌鼓を打ち、市内を満喫したようだった。

「阿久根はすごくいいところ。海もきれいだし、また来たい」「旅行のきっかけをくれたにじさんじに感謝しかない。きょうは子供(生後3カ月の男の子、智迅=ちはや=ちゃん)と出かけるのが初めてだったので、すごく良い思い出になった」「若い人向けのコンテンツを使って自治体の素晴らしさを広めることは、自治体にとっても、若い人にとってもプラスに働くと思う」と宮内さんは語った。

「阿久根はすごくいいところ。また来たい」と話してくれた宮内さん
「阿久根はすごくいいところ。また来たい」と話してくれた宮内さん

この反応に小山さんもほっとした様子で「すごく良い反応だったので安心した。今回の企画で阿久根に来て、体験した人がもう一回阿久根に来てみたいとか、地域の魅力を感じてもらえるような街になっていったら」と期待を寄せている。

良好な反応にほっとした様子の小山さん
良好な反応にほっとした様子の小山さん

11月21日から始まった「よかとこ阿久根」は、わずか5日間で328人が参加したという。イベントは12月21日まで開催される。

何かを「好き」という気持ちから生まれるエネルギーを活用した「コンテンツツーリズム」は、多様化するコンテンツを生かした新たな地域のPRの形として今後も広がりを見せていきそうだ。

鹿児島テレビ
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