5年に1度、日本全国の和牛の質を競う「全国和牛能力共進会(全共)」。"和牛のオリンピック"とも称されるこの大会で、鹿児島県は2017年の宮城大会、2022年の鹿児島大会と2大会連続で日本一に輝いた。次は2027年8月に北海道で開催される。3連覇という前人未到の偉業に向け、肥育農家、技術者、そして運営チームがそれぞれの持ち場で動き出している。
「期待しかしていない」――子牛の競りからすべてが始まる
2026年4月、霧島市の姶良中央家畜市場。大会への出品候補となる子牛の競りが行われた。各農協などから推薦された県内18の腕利き肥育農家たちが集まり、品定めを行う。競りとはいえ、入札額が同じ場合は抽選となる。それぞれの肥育農家には、獲得した子牛の肉質をこの1年間で向上させていく責任が課される。

「生産農家がすごくいい牛を育ててくれているので、能力を出せるように我々は補佐するだけ」「食いを安定させながら飼育していくことに気を遣いながら管理していかないといけない」。競りに参加した農家たちは、そう口をそろえる。
子牛を獲得した肥育農家の一人が、曽於市の加治佐龍さんだ。加治佐さんの農場では500頭の牛が飼育されており、そのうちの4頭が今回競りで獲得した子牛である。父親の後を継ぎ、18年前に肥育農家の道に入った。
実は加治佐さん、2022年の鹿児島大会にも県代表として出場している。しかし結果には満足できなかった。「成績的には『ちょっとふがいないな』『もうちょっといいところにいきたかった』と思うので、リベンジしたい思いもある」。その悔しさが、今の原動力になっている。

子牛たちを前に、加治佐さんはこう語った。「一頭一頭性格も食欲も食べ方も違うので、まだどういう風になるかわからないが、ただ期待しかしていない」。静かな言葉の中に、熟練農家としての確かな自信がにじむ。
「ワクワク感とドキドキ感」――32年、約6万頭を見てきた技術者
加治佐さんの農場には、県の指導員たちが定期的に訪れる。どんな餌をどのくらい与えるべきか、方針を農家とともに話し合うためだ。「本日時点の配合飼料の量を教えてください」と指導員が問うと、加治佐さんは「ほほえみ(飼料)400gに極前期(飼料)が3.8kg、合わせて4.2kg」と答える。数字のやりとりは淡々としているが、その積み重ねが肉質を左右する。
指導員の中でも特に重要な役割を担うのが、県肉用牛改良研究所の徳丸元幸研究主幹だ。この道32年、約6万頭の牛を見てきたベテランである。徳丸さんが使用するのは、牛用に改造した超音波診断装置。生きた牛のロースやバラの大きさ、サシの入り具合などを細かくチェックしていく。

「黒く見えるところがロース芯。ロース芯の中にサシが入っていれば良い肉質と判定する」。県内各地で飼育されている出品候補の子牛は計72頭。このうち県代表の座を射止めるのはわずか8頭だ。徳丸さんはその絞り込みに深く関わるキーパーソンでもある。2026年11月ごろから枝肉の断面を予想しながら測定を進めていく計画だという。

これまでの鹿児島の和牛日本一に大きく貢献してきた徳丸さんだが、全共の重みは毎回変わらない。「すごくいい牛が見つかった時は、測定しながらワクワク感とかドキドキ感、『すごくいい牛だ』と分かる。そういう時にやりがいを感じる」。一方で、「全共となると、どうしても優秀な成績を上げないといけないのでプレッシャーを感じる。今までも結果が出るまでは食事も喉を通らない」とも明かす。32年のキャリアを持つベテランでさえ、大会が近づくにつれ追い詰められる。それが全共という舞台の重さだ。

「最短で2泊3日」――約2400キロ、移動という難題
県代表を決める戦いと並行して、鹿児島市のJA県会館にある総本部でも北海道大会に向けた準備が進んでいる。関係者が口をそろえる最大の課題は、移動距離だ。
県代表の25頭が向かうのは、帯広市や音更町。鹿児島からの移動距離は約2400キロに及ぶ。全国和牛能力共進会県推進協議会の草野昭徳委員長は「かなりの大事業と思う。最短で2泊3日、長くて3泊4日を想定している」と語る。

移動中の牛のストレスをいかに軽減するか、会場到着後にどう体力を回復させるか。実際に和牛を北海道に運んで課題を洗い出す方針だ。草野委員長は「相性のいい牛もいれば、そうでないものもいるし、オス牛とメス牛も一緒にできない。(トラックの)積み合わせの方法も考慮しながらしていく」と話す。単なる輸送ではなく、牛の状態を最高に保ったまま本番を迎えるための緻密な作戦が求められる。

3連覇へ、それぞれの持ち場で
子牛を丁寧に育てる肥育農家、超音波で肉質を見定める技術者、長距離移動という難題と向き合う運営チーム。全共3連覇という目標のもと、鹿児島の各現場でそれぞれが動き出している。
2027年8月まで、残り1年余り。「食事も喉を通らない」ほどのプレッシャーと、「期待しかしていない」という静かな情熱が交差する中、鹿児島の和牛が頂点を目指す戦いはすでに始まっている。
【動画で見る▶鹿児島県、和牛オリンピックで3連覇を目指す!2027年大会に向けた取り組み 】

