福井市が、戦後から撮りためてきた公式記録写真の整理に加え、市民から「昭和の写真」を広く募っている。市民の“生活の匂い”を残す写真を集め、昭和の記憶を次の世代へ伝える試みだ。
「公的な記録には写らない」市民の暮らし
福井市役所の一室。テーブルの上には白黒写真が折り重なるように広がり、市職員らがアルバムや紙の束をひとつひとつ手に取りながら作業を進めていた。
おびただしい量の写真は、市が記録写真や広報誌のPR素材として長年撮りためてきたものだ。戦後を中心に、その数は10万枚以上にのぼるという。
ただ市職員は「公的な記録とか大きなイベントにまつわる写真はたくさん残っているんですけど、実は意外と市民の皆さんの生活が分かるような資料って少ない」と語る。
行政が残す写真は式典や施設の竣工など、どうしても"公式の瞬間"に偏りがちだ。子供たちが遊ぶ路地裏や商店街の昼下がり―そうした日常風景は、誰かの家の引き出しの奥に残されていることの方が多い。
そこで市は地域の公民館にも協力を依頼し、家に眠っている古い写真を集める市民参加型の企画を立ち上げた。
かつて福井駅にあった地下道の写真も
整理していた写真の中には、かつて福井駅にあった地下道の写真も。完成した昭和48年頃に撮られたものだ。
当時の福井駅は路面電車が走っており、反対側に渡るには地下道を通り抜けるしかなかった。
職員の1人も「ここを自転車で降りて通学してたのが懐かしく思い出されますね」と写真を眺める。
現在、その場所には新たな駅舎が建ち、地下道があったあたりには恐竜のモニュメントが立つ。かつての面影はまったくない。福井駅前の変貌ぶりは、時代の流れを物語っている。
もう1枚、目を引く写真がある。フォークギターを手に歩行者天国で歌う男性を囲み、多くの人が楽しんでいる様子。場所は駅前の電車通り。現在は百貨店や複合商業施設などが並んでいる通りだ。
「当時、全国的に歩行者天国が流行っていた」といい、路面には鉄道のレールが走り、集まった人々の表情には開放的な昭和の空気が漂う。女性たちのミニスカートや髪型も時代を感じさせる。
このギターを弾く男性は、福井テレビに残されていた昭和45年頃の映像にも同じ姿で映っていた。
#人々の日常が刻まれた写真の数々
福井市の足羽川南、橋南地区に残る1枚には、昭和25年頃に開業したとみられる「橋南劇場」が写っている。
開業当日と思われるその写真には、花輪が並ぶ前に多くの市民が集まり記念撮影に収まっている。
壁面には映画のポスターが並び「若草物語」などの文字も読み取れる。写真ではなく手描きのポスターが、その時代を表している。
現在その場所は駐車場になっており、劇場の痕跡はない。
地域の写真から見てとれるのは、大きな歴史の転換点ではなく、まちに生きた人々の喜びや日常が刻まれている。「今はもうなくなってしまった建物や風景、子供たちの遊び、そういうものが写真に写っている」と職員は話す。
あなたの引き出しの奥に眠る1枚の写真が、地域の歴史を豊かにするかもしれない。
市は写真とともに思い出やエピソードも募集していて、今夏の福井市広報誌で特集されるほか、福井市立郷土歴史博物館で開かれる展示会でも紹介される予定だ。
