鳥取を代表する夏の味覚、大栄西瓜(だいえいスイカ)が、2026年6月2日に初出荷を迎えた。産地である北栄町では地元の園児たちが元気いっぱいに祝いの声を上げ、スイカを積んだトラックが京阪神などの市場へと旅立った。
今シーズンは甘さも玉太りも例年並みの良い仕上がりで、生産者はひとまずホッと胸をなでおろす。しかしその一方で、中東情勢に端を発する資材の高騰・不足という深刻な問題が産地を直撃していた。「値段は上がったは、資材は入ってこないでは…」。ある農家の言葉が、現場の複雑な胸中を物語っている。
甘さも玉太りも「例年並み」――3月からの温暖な天候が後押し
北栄町は県内最大のスイカ産地として知られ、「スイカの名産地」の名を全国に轟かせている。大玉で糖度が高くみずみずしい大栄西瓜は、夏になると各地の食卓を彩る。
2026年シーズンは、植え付けが始まる3月から温暖な天候に恵まれた。その結果、甘さ・玉太りともに例年並みの良い仕上がりとなり、生産者に安堵をもたらした。
6月2日の初出荷式では、地元の園児たちがスイカを囲んで笑顔をはじけさせ、その場はお祝いムードに包まれた。スイカを乗せたトラックが出発すると、見送った園児たちはその年の初物に舌鼓を打ち、会場はにぎやかな歓声に沸いた。
大栄西瓜組合協議会の前田修志会長は、「今年も『いつから出荷しますか』という声をたくさんいただき、全国の方にようやく届けることができます。楽しみに待っていてほしい」と笑顔で語った。全国各地のファンからの問い合わせが絶えないほど、大栄西瓜への期待は高い。
大栄西瓜は京阪神などでは6月2日から、地元の直売所では6月6日から店頭に並んでいる。
「資材が入ってこない」――中東情勢が産地を直撃
初出荷の喜びの反面、産地には例年にない暗い影が差し込んでいる。中東情勢の影響を受けた石油由来の農業資材の高騰と不足が、農家の経営を圧迫し始めているという。
北栄町で約10ヘクタールの畑と50棟のハウスを持つ中原農園の中原一男代表は、「単価が上がっても資材がもらえると分かれば農家の気持ちも落ち着くんだけど、値段は上がったは、資材は入ってこないでは…」と複雑な表情を見せた。
スイカの単価がある程度上がることは農家にとってプラスとも言えるが、その前提となる資材が確保できなければ、作付け自体がままならない。値上がりと不足というダブルパンチが、農家を直撃している。
ハウス栽培では、ビニールや肥料など石油由来の資材が中東情勢の影響で2割から4割ほど値上がりしている。なかでもビニールだけで年間80万円から100万円ほどの経費増になる見込みだという。
古いビニールで代用…毎日の確認作業が欠かせない
中原農園ではこれまで、トンネルのビニールを毎年交換してきた。しかし経費削減と資材確保の見通しが立たないことから、一部を2025年に使用した古いビニールで代用するという苦肉の策を取った。
しかし現地で中原代表が新旧のビニールを並べて見せると、その違いは一目瞭然だった。新しいビニールは透明で内部がよく見えるのに対し、1年使った古いビニールは汚れで白っぽく曇り、光を通しにくくなっている。
透明度の低いビニールは日光を通しにくく、作物の生育に遅れが出るリスクがある。そのため農園では、苗の飼育状況を毎日こまめに確認する作業が日課となっている。本来であれば収穫に向けた作業に集中できる時期に、余分な手間と気苦労が重なる形だ。
「台風でビニールを破られたら」水に弱いスイカは“命取り”
生産者をさらに悩ませているのが、資材不足に加えて台風への備えだ。6月上旬には台風6号が山陰に接近、農家はその動きに不安を募らせた。
中原代表は「これで台風でビニールを破られた場合、ビニールのもとが手に入らない状況なので心配している」と訴えていた。
通常であれば、台風によってビニールが破れたり剥がれたりしても、新しい資材に交換することで被害を最小限に食い止められる。しかし今は補充できる在庫が乏しく、万が一の事態が起きても即座に対応できない。
スイカは水に弱い作物だ。ビニールに穴が開いたり剥がれたりして雨水が大量に入り込めば、スイカにとっては文字通り「命取り」になりかねない。資材の不足は単なる経費の問題ではなく、今シーズンの収穫そのものを左右するリスクへと直結している。
中原農園のような規模の農家にとって、一シーズンの収穫が失われる打撃は計り知れない。それは翌年への投資原資の喪失を意味し、持続的な農業経営にも影を落とす。
資材の高騰と入手困難…台風の懸念 尽きぬ“心配の種”
高まる経費負担、確保できない資材、そして台風の脅威。3つの不安を抱えながらも、中原代表は前向きな言葉でその思いを締めくくった。「収入がないと来年の楽しみもない。消費者と農家がお互いに楽しくやっていければなと思う」。
この言葉には、農業を単なる産業としてではなく、消費者とつながる営みとして捉える生産者の姿勢が滲んでいる。大栄西瓜を心待ちにしている全国のファンの期待に応えたい、という気持ちと、それを支える経営基盤を守りたいという切実さが交差している。
北栄町の産地が一丸となって丹精込めて育て上げた大栄西瓜は、例年同様に甘くみずみずしく仕上がった。その一つ一つには、中東情勢や台風という不確実な外的要因と戦いながらも、何とかシーズンを迎えた生産者たちの汗と気概が込められている。
夏の食卓に大栄西瓜を
2026年の大栄西瓜は、京阪神などの市場には6月2日から、地元北栄町の直売所には6月6日から店頭に並び始めている。「楽しみに待っていてほしい」という前田会長の言葉通り、全国の食卓に鳥取の夏を届けるシーズンが本格的に幕を開けた。
産地を取り巻く状況は決して楽観できないが、大栄西瓜を愛する消費者がその価値を正当に評価し、手に取ることが、生産者への何よりの後押しになる。夏の食卓にみずみずしい大栄西瓜を並べながら、その一切れの向こう側にある産地の現実にも思いを馳せてみてほしい。
(TSKさんいん中央テレビ)

