逆転を可能にする奇策

133年前の法律が、トランプ大統領を救うことになるかもしれない。

ジョー・バイデン候補が勝利宣言を行い追い込まれたトランプ大統領は「司法の場で決着させる」とまだ諦めていないようだが、逆転を可能にする奇策が浮上してきだ。

「各州議会の共和党議員の皆さん。あなた方が選挙人を最終的に決めるのだということを忘れないでください。選挙委員会や州務長官、知事あるいは裁判所でもありません。あなた方が最終的な決定をすると合衆国憲法第二条は規定しています。あなた方の憲法上の義務を果たしてください」

マーク・レビン氏のツイートをドナルド・ジュニア氏がリツイート
マーク・レビン氏のツイートをドナルド・ジュニア氏がリツイート
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保守派の論客で弁護士でもあるマーク・レビン氏が6日こうツイートすると、トランプ大統領の長男のドナルド・ジュニア氏がリツイートした。この情報を奨励したことになるが、同氏はトランプ選対の幹部でもあるため、このレビン氏の考えがトランプ大統領逆転を謀るものではないかと憶測を読んでいる。

133年前の「選挙人算定法」とは

しかし、レビン氏の言っているのは突飛なことではない。合衆国憲法第二章第一条第三項は次のように規定しているからだ。

「各々の州は、その立法部が定める方法により、その州から連邦議会に選出することのできる上院議員および下院議員の総数と同数の選挙人を任命する。(後略)」(アメリカン・センター訳)

マスコミなどでは、選挙人は大統領選挙の一般投票で最大得票の候補者の選挙人団に勝者総取りで配分されると解説されるが、それは各州の議会がそう定めた慣習に従っているからだけで、選挙人選出の主体はあくまでも州議会にあるのだ。

加えて1887年に制定された「選挙人算定法」には、その運用を具体的に規定した次のような「セーフハーバー(承認領域)条項」がある。

「選挙人集会の少なくとも6日前までに、開票作業等の懸案が解決し、当選者を決定できるならば、その州議会の決定は当該州の勝者決定の最終決定とみなす」

逆に言えば、選挙人集会(今年は12月14日)の6日前が開票作業の期限で、再集計や訴訟でそれに間に合わない場合は、改めて憲法の規定に従って州議会が定める方法で選挙人を選ぶということになる。

その場合だが、郵便投票の有効性が裁判に持ち込まれるペンシルベニア州の州議会は上院で共和党35対民主党21議席、下院でも共和党103対民主党21議席で両院とも共和党が多数を占めている。この他、再集計が行われるとされるウイスコンシン州やミシガン州、ジョージア州も議会は共和党が多数だ。

両党の獲得州(11月8日午前9時現在)
両党の獲得州(11月8日午前9時現在)

もしトランプ陣営が、今回の選挙結果を受け入れず法廷闘争などで選挙人確定を12月8日までずれ込ますことができると、州議会の決定次第で逆転するという可能性が残っていることになる。

「トランプのクーデター」なのか

この133年前の法律は、2000年の大統領選でアル・ゴア候補とジョージ(子)・ブッシュ候補のフロリダ州の得票が再集計で長引いた際、フロリダ州議会で共和党が多数を占めていたことからブッシュ陣営が適用することを計画したと伝えられたが、その前にゴア候補が敗北宣言を行ったため実現しなかった。

一方バイデン陣営は、この策を「トランプのクーデター」と非難しているが、憲法と制定法に規定されていることなので非合法なクーデターとは言えないだろう。

2020年の大統領選挙は、この133年前の法律をめぐって想定外の展開になるかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。