天気の会話で盛り上がる2人。
そこは、まるで東南アジアの三輪タクシー「トゥクトゥク」のような乗り物の中です。
本場のトゥクトゥクとは異なり、男性が三輪自転車のペダルをこぎ、前にある屋根付き席に高齢の女性が座っています。
これは、敷地が広大な団地に住む高齢者が無料で利用できる買い物送迎サービス。
時代とともに移り変わる団地や商店街の表情と、住民同士の思いを取材しました。
乗り物が走っている場所は団地の敷地内。
東京・武蔵村山市にある「都営村山団地」です。
向かっているのは団地の中にある商店街。
村山団地中央商店会・下田浩司会長(73):
送迎自転車といいまして、ちょっと買い物したいからと電話が来たり、買い物でちょっと荷物が多いからと、お客さんを送っていくシステムです。
送迎サービスに使われている電動三輪自転車は、屋根付きで前に2人が乗ることができ、団地内の移動手段として住民の日々の暮らしを支えています。
運転しているのは60代~80代のボランティア。
現在、住民を含む3人が交代で行っています。
ペダルをこいでいるのは84歳の鵜木さん。
団地ができた当初から60年暮らし続けていて、現在は同世代の高齢者を送り届けています。
団地に住む鵜木さん:
(Q.利用者にとっては大切な自転車)そうですね、年寄りばっかりだから。
送迎の料金は無料で、平日の午前と午後の2時間ずつ運行。
団地の敷地は約55ha、東京ドーム約11個分の広さということもあり、商店街から離れた場所に住む人などが、月に延べ70~80人が利用するといいます。
団地に住む利用客からは「本当に楽、この荷物だから楽でしたね。歩くと遠いからね」「去年10月に骨折して手術して、退院してからそんなたってないので、助かってます。これがなかったら買い物行けません」などの声が聞かれました。
他愛ない会話も大切なひととき。
商店街がこのサービスを始めた背景にあるのが、団地の住民の“高齢化”です。
村山団地中央商店会・下田浩司会長:
住民が高齢になって、買い物難民じゃないけど、みんな買い物は大変ということで、なるべく商店街に来てもらいたいと、立ち上げたものです。
けがや体力の低下などで商店街まで歩くことが難しい、買い物に困る高齢者が増えているといいます。
村山団地が建設されたのは高度経済成長期の真っただ中、今から60年前の1966年です。
5260戸が建設され、都内最大級のマンモス都営団地として入居がスタートしました。
団地内には「中央商店街」も同時にオープン。
1981年に開催された団地15周年のイベントには、敷地内を埋め尽くす大勢の子供たちでにぎわいを見せていました。
商店街の飲食店員(70代):
大人も子供もものすごい人数で、毎日がお祭りのような騒ぎでしたね。季節にお祭りがあったり、盆踊りとか、この辺に露天が出て。
約60年店を営む商店街の肉屋(85):
ちょうど若い人が世代だったから、子供も多かったんだよね。(幼稚園の)入園は大勢で入り切らず、最後にはじゃんけんという時代だった。
しかし、60年がたち、かつては子供たちでにぎわった団地も人通りが少なく静かに。
現在、村山団地に住む約52%が65歳以上の高齢者です。
住民の減少や高齢化などにともない、商店街の売り上げも落ち込み、シャッターを閉める店が増えていったといいます。
約60年店を営む商店街の肉屋:
昭和の時代は良かったよね。(当時は)もう本当に忙しかったですよ。夜中の1時とか2時ごろにコロッケ作りなんかしたり、そんな時代だった。今、うらやましいけどね。もうこんな時代になっちゃったから。
住んでいる棟の場所によっては商店街まで約600メートルあり、足腰が弱い高齢者にとって、歩くには負担のある距離となっていました。
そこで、高齢住民にももっと商店街を利用してもらいたいと約17年前から始めたのが、自転車での送迎サービスなんです。
村山団地中央商店会・下田浩司会長:
商売をしている限りは、お客さんに来てもらいたいから、続けられればね、続けたいと思ってます。
そんな中、団地の住民を支えようと送迎ボランティアを始めた人もいます。
60代の鈴木さんは団地の住民ではなく、車で1時間かけて通っています。
自転車に携わることがしたいと、約15年前からこのボランティアとなりました。
鈴木さん:
食べられている?
利用者:
食べるには食べている。血糖値が糖尿だから、量は食べられない。
“常連さん”の体調を気遣う会話も忘れません。
利用者:
まだ退院したばっかり、1カ月。
鈴木さん:
今、体力戻している最中?
利用者:
そうです、そうです。
この日、6人の送迎をした鈴木さん。
高齢の住民が安心して乗れるよう常に気配りをしています。
送迎ボランティア・鈴木さん:
乗り上げるときにガタンとしないようには。痛いところある人には。重い物を持って帰られるから、そのときに使ってくれるとうれしいですね。『使わせてもらってすごく助かっている』と声聞けて、私はすごくやりがいがある感じですね。
時代が移り変わっても、団地を走る三輪自転車は目的地への移動手段だけでなく、「人のつながり」も運んでいるのかもしれません。