栃木県で69歳の女性が殺害され、実行役として16歳の少年4人が逮捕された強盗殺人事件。その「指示役」として逮捕されたのは、SNSで我が子を抱きながら踊る姿を頻繁に投稿していた25歳の母親だった。
竹前美結容疑者と夫の海斗容疑者は、少年らに凶器を渡し、「やらなければ家族を殺す」と脅迫して犯行に及ばせたとされる。一方で、元刑事は彼らの手口を「素人中の素人」と一刀両断し、巨大な犯罪グループにおける「捨て駒」に過ぎない可能性を指摘する。
周囲が「いいお母さん」と思っていた彼女は、なぜ凄惨な事件の指示役として逮捕される事態となったのか。明らかになってきた夫婦の素顔と、背後に見え隠れする「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」の影に迫る。
■「いいお母さんなんだなと…」SNSに溢れていた日常と周囲の困惑
「ずっと赤ちゃんの成長の動画撮ったりとか、写真とかずっと載せてて。ああ、いいお母さんなんだなっていうのはもうずっと思ってて」
竹前美結容疑者(25)の同級生は、突然の逮捕劇に「どうしちゃったんだろうな」と困惑を隠せない。美結容疑者のものとみられるTikTokには、車の中で歌を口ずさみながら投げキッスやピースサインをする姿や、娘とみられる赤ちゃんを抱いて音楽に合わせて踊る様子が頻繁にアップされていた。
中には、事件発生当日である今月14日に投稿された可能性がある動画も残されている。背景から撮影場所は特定できないものの、カメラに向かってリズムに乗る姿からは、その前後に凶悪事件に関与するような気配は微塵も感じられない。
高校卒業まで長野県内で過ごした美結容疑者は、幼少期から周囲の目を引く存在だった。近所の住民は「田舎のその年代の女の子たちの持っている雰囲気とはちょっと違う感じ。都会的で、ちょっと凛としている感じもあった」と振り返る。幼なじみによれば、服装や茶色い髪など「見た目だけちょっと奇抜な感じ」だったという。
しかし、学校生活では真面目な一面も見せていた。小学校の卒業文集には「特技 バレエ」「好きなこと バレエ」と記し、「学年集会から学んだこと」という作文では次のように綴っている。
「私は『自分を表現すること』『相手を大切にすること』『元気に体づくりをする』ということの3つのことを学びました。相手を大切にするということは、相手を傷つけない言葉を使ったり行動したりすることです」
小学校では合唱団に所属し、中学校では吹奏楽部でフルートを担当。パートリーダーとして周囲を引っ張る真面目な生徒だったという。
高校卒業後は首都圏の大学に進学し、その後、3歳年上の海斗容疑者(28)と結婚して出産。事件の2、3カ月前には、夫婦そろって赤ちゃんを連れて長野県の実家に帰省していた。
近所の住民は「ぱっと見、夫婦そろってちょっとやんちゃっぽいかなという感じがした。お祝いか何かで家族で出かけたような感じだった」と語る。
しかし、同級生の間では、海斗容疑者と結婚した後の交友関係などを心配する声も上がっていたという。その懸念は、最悪の形で現実のものとなった。
■「やらなければ家族を殺す」少年たちへの冷酷な指示
栃木県内で69歳の女性が殺害されたこの事件では、実行役として16歳の少年4人が逮捕されている。捜査関係者への取材から、竹前容疑者夫婦が少年たちに下したとみられる指示の実態が明らかになってきた。
逮捕された少年の一部は、「夫婦に頼まれてやった」と供述。さらに、「竹前容疑者夫婦から指示を受け、やらなければ家族や友達を殺すと脅された」と話していることも新たに分かった。
夫婦は単に指示を出しただけではないとみられる。移動に使うための高級外車のほか、バールなどの凶器を自ら準備して少年らに手渡していたほか、犯行時には、栃木県内の別の場所からスマートフォンのアプリで通話しながら、リアルタイムで少年たちに指示を出していたとみられている。
現在、竹前容疑者夫婦は「自分たちは関係ない」という趣旨の供述をしており、容疑を否認しているという。
■「素人中の素人」元刑事が指摘する犯行の稚拙さと「バイトリーダー」の実態
警察は、この事件の背後に匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」が関わっているとみて捜査を続けている。しかし、数々の事件捜査に関わってきた元警視庁刑事の吉川祐二氏は、竹前容疑者夫婦の犯行手口について「本来のトクリュウが計画している犯行ではありえない」と指摘する。
最大の違和感は、指示役であるはずの夫婦が、実行役の少年たちと直接顔を合わせ、凶器まで手渡している点だ。吉川氏は「(指示役と実行役が)接触するということもありえないことです」と断言する。
「竹前容疑者夫婦は、一応指示役であることは間違いないと思うんですね。しかし、どうも動きなど考え方などが実行犯と同じようなレベルであるような気がします。要するに、実行役というバイトの人たちの中の、リーダー的な存在のように見受けられます」
■素人中の素人の犯罪
これまでに判明している行動から、竹前容疑者夫婦は犯罪組織の中枢ではなく、あくまで現場を取り仕切る「バイトリーダー」のような存在だったと推測する。
さらに、犯行の稚拙さを物語る事実がある。少年の一部が犯行時に着用していた服が、現場に脱ぎ捨てられた状態で見つかっているのだ。警察は、逃走時に周囲に気付かれにくくするための行動とみて調べているが、この点についても吉川氏は犯行の稚拙さを表していると指摘する。
「ありえないですね。洋服についているDNAももちろんですし、警察犬などの匂いの元にもなります。いろんな意味で犯人の特定につながる可能性が非常に高いものです。幼稚です。これは犯罪の本当、素人中の素人と言ってもいいでしょうね」
これまでのトクリュウによる強盗事件と比較しても、今回の犯行はあまりにも計画性に欠けている。現場に証拠を置き去りにするような行動は、現場の実行犯である少年たちの独自の判断で行われた可能性も考えられるという。
■見え隠れする「真の指示役」と今後の捜査
吉川氏は、事件の全容について次のような見立てを示している。
「最終的な指示役といいますか、本当の指示役で計画している者がいると思います。今回の事件に関して言うならば、実行犯の4人、指示役である竹前夫婦も含めた6人が、捨て駒的な存在であったと……」
警察も同様に、竹前容疑者夫婦の背後にはさらに上位の指示役が存在するとみて、全容解明に向けた捜査を続けている。
SNSで幸せそうな家族の風景を演出しながら、裏では少年たちを脅迫して凶行へと走らせたとされる夫婦。彼らを操っていた「真の闇」はどこに潜んでいるのか。地域社会を震撼させた凶悪事件の真相究明が待たれる。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2026年5月20日放送)