「裁判は国民のためにあるんだぞ。忘れるなよ」自民党議員からこんな言葉が飛び出したのは、裁判のやり直し「再審」の法改正をめぐる議論。法務省と自民党が今年3月から続けていた協議の焦点となったのが、裁判官が再審開始を決定した後に検察が「抗告」によってそれを覆せる現行の仕組みだ。
福井市で起きた女子中学生殺人事件で有罪判決を受けた、再審で無罪となった前川彰司さんは、今回の法改正について「本意ではない」と明かす。それは、検察の抗告によって一度は再審開始決定が取り消しとなった自身の経験からだった。
検察の抗告で再審開始決定が取り消しに…
現行の制度では、検察は裁判官が再審開始を決定した場合に「即時抗告」ができる。これが冤罪事件の解決を大幅に遅らせる一因とされてきた。

その象徴的な事例が、1986年に福井市で起きた女子中学生殺人事件だ。逮捕時から無罪を訴え続けた前川彰司さんは、殺人罪で懲役7年の判決を受け服役。出所後に再審請求を行った。2011年に再審開始が決定したものの検察が即時抗告し、2013年3月には再審開始決定が取り消されてしまったのだ。

その後、前川さんは2度目の再審を請求。2025年に開かれた再審公判でついに無罪となったが、最初の再審開始決定から実に15年の歳月が流れていた。検察の抗告が、冤罪被害をここまで長引かせた形だ。
「全面禁止」を求める自民党、協議は難航
「自民党は法務省のためにあるんじゃない。国民のためにあるんだぞ。忘れるなよ」
今回の法改正議論では、自民党の一部議員が抗告の全面禁止を強く求めた。

自民党の反発を受け法務省は5月7日、「十分な理由がある場合を除いて抗告をしてはならない」という「原則禁止」の案を提示した。しかし、この内容を記載するのは、法律の本体である「本則」ではなく付随する「附則」に記載するとしたことで、再び自民党の反発を招いた。
福井県選出の国会議員で弁護士の稲田朋美氏は「附則で抗告を禁止して、『十分な理由』と書いているのであれば、努力義務なので、今とまったく一歩も進んでいないことになる。それでは意味がない」と言及した。
冤罪被害者の前川さん「本意ではない」
再び修正を迫られた法務省は5月13日、再審開始決定に対して検察官が抗告できることを法律から削除し、十分な根拠がある場合にのみ抗告を認める「原則禁止」の規定を本則に盛り込む修正案を示した。

自民党はこの再修正案を受け入れ、協議はひとまず決着した。
検察の抗告によって再審開始決定が遅れ、長きにわたって冤罪被害を受け続けた当事者の前川彰司さんは、今回の改正案について複雑な思いを語った。
「(抗告が認められる)余地があるので、本意ではない。再審法のあり方には多くの問題点が多々ある。これからもそれを訴えていく姿勢は大切だと思っている」
「十分な根拠がある場合」という例外規定が残る形での原則禁止は不十分との見方もあるが、政府は今国会での法案成立を目指している。
