38年前の1986年(昭和61年)に福井市の中学3年生の女子生徒(当時15)が自宅で殺害された事件。殺人罪が確定し7年間服役した前川彰司さん(59)について「この判決は冤罪だ」として、弁護団が裁判のやり直しを求めた二度目の再審請求で、名古屋高裁金沢支部は23日、再審開始を決定した。

物的証拠が乏しい中、有罪の根拠となった複数の供述を「捜査機関の働きかけによるうその供述が形成された疑いが払しょくできず信用できない」とし確定判決を否定。冤罪事件などに詳しいジャーナリストの大谷昭宏さんは「検察を厳しく批判した、画期的な判断」と評価した。

2審で有罪判決…服役後に再審請求

事件が起きたのは1986年3月19日夜。福井市の市営住宅で当時中学3年生の女子生徒が顔や首など数十カ所を包丁で刺されて殺害された。

物的証拠が乏しい中、福井県警は事件から約1年後、複数の関係者の供述などから福井市の前川彰司さん(当時21)を逮捕。

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前川さんは一貫して無罪を主張し、1990年の福井地裁での1審では無罪となったが、2審名古屋高裁金沢支部が懲役7年の逆転有罪判決を言い渡し、前川さんは7年間服役した。この時、有罪判決の根拠とされたのが「血の付いた前川さんを見た」という知人の証言だった。

前川さんは満期出所後の2004年に第一次再審請求し、名古屋高裁金沢支部は再審を認めたものの、検察側の異議申し立てにより取り消され、2022年に弁護団が二度目の再審請求。10月23日に名古屋高裁金沢支部が再審=裁判のやり直しを認める決定を下した。

再審開始が決定 これからは「戦いの道」

再審開始を決定するには、確定判決を覆す新しい証拠や明白性が必要になる。
決定理由について名古屋高裁金沢支部は、新たに捜査当局から開示された捜査報告書などの新証拠から、有罪の根拠となった複数の供述を「捜査に行き詰まった捜査機関が関係者に不当な働きかけを行い、うその供述が形成された疑いが払しょくできず信用できない」と信用性を否定。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠と言える」と言及した。

弁護側は専門家による心理学鑑定書や血液反応実験の鑑定書なども新証拠として提出したが、裁判長は「検討するまでもない」とし、前川さんが犯人であると認めることはできないと結論づけた。

再審開始決定を受け、開いた会見で前川さんは「私はきょう、再審開始決定を勝ち取ることができた。ただ、浮かれることなく、戦いはこれから続く。これから戦いの道を歩んでいく」と力を込めた。

全国では、58年前に静岡県で起きた一家4人が殺害された強盗放火殺人事件で、死刑が言い渡されていた袴田巌さんの無罪が10月9日に確定した。

この事件をはじめ、全国の再審請求事件や冤罪事件の影響について前川さんは「袴田事件で無罪となり、新しい風が吹き始めている。再審の風を後押しすることになると期待している。獄内には、冤罪で苦しむ人々がたくさんいる。この事件が与える影響は大きい」と話した。

今回の決定についてジャーナリストの大谷昭宏さんは「検察を厳しく批判した非常に画期的な再審開始決定だ。検察は、物も捏造すれば人の証言も捏造するという憂うべき事態に陥っていることを如実に示す決定ではないか」とする。

死刑が言い渡されていた袴田巌さん。10月9日に無罪が確定した。
死刑が言い渡されていた袴田巌さん。10月9日に無罪が確定した。

また大谷さんは、今回の判断には、死刑判決が確定した袴田巖さんがやり直しの裁判を経て無罪が確定した影響があると考えている。「袴田事件で証拠が捏造されたことを高裁金沢支部の判事たちも読んでいる。耐え難いほど正義に反するのではないかという3人の裁判官の思いも、強く影響しているのでは」と分析する。

“裁判所の体質を変えていく”

今回の決定書の中で名古屋高裁金沢支部は「検察官において、不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったことを推認されても仕方がない」と検察の捜査を強く批判している。検察側が開示した新証拠から、捜査段階の供述が信用できないと判断されたことが再審開始の決定につながったのだ。

この判断を受けて名古屋高等検察庁は「決定文を子細に検討し、適切に対応したい」とコメントしている。

大谷さんは「検察庁としては反省する部分が出てくるし、裁判所はこの2つの決定で相当勇気づけられた。冤罪を晴らしていく戦いは、そういう裁判所の体質を変えていく戦いでもある。この制度はおかしいと我々が声を上げていかなきゃいけない」と話している。

前川さんの弁護団は、再審開始の異議申し立てをしないよう検察庁に求めていて、28日までに検察からの申し立てがなければ、再審開始の決定が確定し、裁判がやり直されることになる。

(福井テレビ)

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