全身の筋肉が衰える国指定の難病『ALS』と闘う母親が、愛する子どもたちのために、「いつか自分の味を再現してくれるかも…」と希望を込めた料理のレシピ本を出版した。

難病ALS発症 母の決意

「お帰り~」。幼稚園から帰ってきたのは、この家の長女、リンちゃん(4)。「これマンゴー?リン、マンゴー飲みたい」と用意されたおやつのゼリーを手に向かったのは、ソファに座るお母さんの隣。小さな手で、一生懸命蓋を開けると、まずはお母さんに一口飲ませる。自分が飲むのは、その後だ。

はらだまさこさん、45歳。全身の筋肉が徐々に衰え、進行すると呼吸も困難になる原因不明の難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症を抱えている。

はらだ まさこさん(45)
はらだ まさこさん(45)
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まさこさんが、体に異変を感じ始めたのは5年前。リンちゃんが生まれたばかりの頃だった。「足が思うように上がらなくなり、躓くことが増えました。

5年前 リンちゃん出産後に体の異変
5年前 リンちゃん出産後に体の異変

2023年6月、病名を告げられました。とても怖いし、悔しいし…しんどい」と当時を思い返しながら言葉を絞り出す。

美味しく安全な料理へのこだわり

愛知県で車の整備工場を営む一家の長女として生まれた、まさこさん。

家族や従業員らと囲む賑やかな食卓が大好きで、自然と料理好きになった。

当時、カフェを経営していた夫と結婚し、長男のタカラくんを出産してからは、家族で海外を2年ほど旅して現地の料理を学んだ。

その後、義理の両親の故郷が福岡だった縁で2018年、夫婦で、福岡市内にオーガニック喫茶店『Souds Food Souds Good』をオープン。

「とにかく自分たちが『美味しい』と感じるもの、安全だと信じられるものを出す」。そんなこだわりの詰まった店だった。

当然、我が子に作る料理にも母のこだわりが詰まっていた。

「夕食は和洋折衷。メインのおかずは、きょう鶏肉だったら、明日は豚肉というように毎日変えて、ハーブやスパイスを使いながら飽きずに楽しめるように心がけていました」。

まさこさんの妹、みちこさんは、「キッチンに電子レンジがない。『温めどうするの?』とか。

ご飯を毎回、土鍋で炊くっていうのも衝撃だったし、マヨネーズもドレッシングもケチャップも手作りと姉のこだわりの食生活を今でもよく覚えているという。

まさこさんの妹 みちこさん
まさこさんの妹 みちこさん

病は、そんな、まさこさんの生き甲斐も奪ったのだ。

子どもたちに「レシピ本を残す」

ALSの診断から5カ月ほどたった頃、自宅での料理もできなくなった。

「子どもたちに、何を残せるんだろう。悩み続けた先に、私は、1つの答えに辿り着きました。それは、料理の『レシピ本』を残すこと」とまさこさんは語る。

レシピ本の出版に向け、まさこさんが手助けを求めたのは、友人の田中文さんだった。「私が、出版社とお付き合いがある仕事をしているので、まさこさんが2025年1月に、『本を作りたい』」と相談されたという。

田中さんによると、まさこさんは、レシピ本の原稿を2025年10月くらいまでは、スマホでレシピなどを書いていたが、「指が動かなくなって…。声で認識していたんだけど、だんだん声も出にくくなって、スマホが声を認識してくれなくなったんです。それで、スマホを床に投げたと言っていました」と病状が進むまさこさんを辛い思いで見てきたという。

「いつか味を再現してくれるかも」

それでも、まさこさんは、書き続けた。「私は、スマホに向かうことをやめられませんでした。いつの日か、タカラやリンがこのレシピを手に、料理をしてくれる日が来るかもしれない。その時に私が側にいなくても、私の『母の味』を再現してくれるかもしれない」。

子どもたちに自分の味を伝えたい、残したいという思いが、まさこさんを支え続けた。

そして、2026年3月。その思いが形となる。多くの人の協力を得て、念願のレシピ本がついに完成したのだ。タイトルは、『もしもキッチンに立てたなら』。

子どもたちに作ってあげたい『お弁当』

家族で取り合いになった『ハーブポテト』や『冷製パスタ』、『キャロットケーキ』など。まさこさんが得意だった料理が、ずらりと並ぶ。

「もう、感無量。嬉しいです」とまさこさんの瞳からは、涙がこみあげる。レシピ本の中で子どもたちに1番作りたい料理は?と尋ねると、まさこさんは、「やっぱりお弁当…」と答えた。

中学2年生になった長男、タカラ君は、思春期真っただ中。「この手でもう1度、キッチンに立てるとしたら…。その朝、私が1番に作るのは、タカラのお弁当です。『タカラ、今日も全力で頑張れるといいな』『美味しく食べてくれるかな』そんな風に息子を想いながら作るお弁当作りは、たまらなく愛おしい時間です」。まさこさんは、感慨深げに話す。

「ハッピバースデー、リンちゃん!」。この日は、リンちゃんの2歳の誕生日。まさこんさんの病気のために、「お母さんの手料理の記憶がない」と話すリンちゃん。そんなリンちゃんに、まさこさんは、「病気がよくなったら、最初にリンに作ってあげたいのが、『リンの好きなサンドイッチのお弁当』。

お弁当箱を開けた瞬間、私を見て満面の笑みを浮かべるリンを思い浮かべると、必ず叶えてみせようと元気が湧いてきます」と話す。

放っておくと、発症後、3年から4年で呼吸が困難になり、死に至るというALS。一方、適切な医療や介護で、長く生き続ける患者もいる。

「喋るのが大変…」。まさこさんは、今も懸命なリハビリを続けている。

「最近はこんなふうに考えるようになりました。子供達は、『今の私の姿を見て育っていくのだ』と。温かで優しい人達に助けてもらいながら目標を叶えていく背中や、病気と闘いながらもできる限り笑顔でいようとする姿を、子供達に見せていきたい」と思いを語る。

今回のレシピ本は、まさこさんの生い立ちや子供達への思いを綴ったエッセー本でもあり、1つ1つのレシピに込めた思いも分かる内容となっている。

まさこさんは、この本を、長男のタカラ君にも1冊プレゼントしたそうだ。その影響なのか、「最近、タカラが台所に立つようになった」とまさこさんは嬉しそうに話した。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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