情報収集の手段としてSNSが日常に浸透するなか、鹿児島県内でも企業や自治体がPRにSNSを活用する動きが広がっている。再生回数243万回超の動画を生んだ不動産会社、炎上を機に審査体制を整えた自治体。効果とリスクを併せ持つSNSとどう向き合うか、県内の現状を追った。

「なんでこんなに回るんだろう」 試行錯誤を楽しむ不動産会社

鹿児島市大竜町のある賃貸物件。スマートフォンを手にした川商ハウスの社員たちが、扉の開け方や立ち位置を入念に確認しながら撮影に励んでいた。SNSにアップするための物件紹介動画だ。

この記事の画像(15枚)

「収納は閉めとく?」「閉めといて開けましょうか」――現場では細かな演出の打ち合わせが続く。SNSを専門とする協力企業の力も借りながら、月に8本ほどの動画を公開している。

川商ハウスがSNSに本格的に取り組み始めたのは約2年前。インスタグラムとTikTokをあわせたフォロワー数は現在1万2000人ほどに達する。揚村貞貴常務はその背景をこう語る。

「川商ハウスと言えば、おなじみの『アパートマンション』のCMで頑張ってきたが、若い世代への情報発信をしたいということでSNSでの広告活動を始めた」

撮影した動画はSNS担当の社員とともにチェックし、後日編集して公開する。ナレーションには鹿児島弁を採用するなど独自色を打ち出し、最も視聴された動画の再生回数は243万回を超えた。

投稿を担当する営業企画課の大久保真市さんは、数字の動きに一喜一憂しながら工夫を重ねる日々だと話す。

「『これなんだろう』と見てもらって、その続きが面白ければさらに長く見てもらえる。少しでも何か引っかかればと工夫して投稿してみて『あんまり伸びなかったな』とか『なんでこんなに再生回数まわるんだろう』とかやっていて楽しい」

物件紹介にとどまらず、常務が不動産に関する質問に答える動画など幅広いジャンルを投稿している。揚村常務は「単なるお部屋探し活動ではなくて、若い世代の興味を引くような情報発信をしたかったので、エンタメ性の高い話題を見つけてスタッフと協議しながら情報発信している」と狙いを説明する。

県内企業の55.8%がSNS発信 テレビ・新聞をも抜いた「日常の情報源」

こうした動きは川商ハウスにとどまらない。九州経済研究所が県内企業を対象に行った調査では、55.8%がSNSでの発信を行っていると回答。問い合わせの増加や認知度向上といった効果を実感している企業も多い。

同研究所経済調査部の新川真吾次長は、SNS活用が広がった背景をこう分析する。

「インスタグラムなどのSNSの普及やコロナ禍のデジタル化の進展がきっかけで、今アカウントを持って情報発信する企業が増えている。SNSの特長の一つでもある情報拡散力や双方向でのコミュニケーションができることもあって、採用活動で使う企業など多様な目的でSNSを活用する企業が増えている」

さらに、県民を対象にしたアンケートでも、日常的にチェックしている媒体としてあげられたのはテレビ・ラジオや新聞を抜きSNSが最多だった。その半数以上は企業のSNSをきっかけに実際に店舗へ足を運んだと回答しており、ECサイトでの商品購入やイベント参加にもつながっていることが浮かび上がる。

公開6日で削除 志布志市の苦い経験と対策

メリットが多い一方、SNSには炎上というリスクが常につきまとう。鹿児島県志布志市はその当事者となった過去を持つ。

2016年9月、市がYouTubeに投稿したPR動画に対し、クレームなど約200件の意見が寄せられた。一部擁護する声もあったものの、公開からわずか6日で動画は削除された。

DX広報グループの中尾秀昭さんは「当初予期していなかった。ただ予期できることを今は踏まえて審査を一段階入れている」と振り返る。

この経験を教訓に、志布志市は翌月には動画をチェックする審査会を立ち上げた。現在はYouTubeを中心に年10本ほどのPR動画を公開しているが、すべての動画は公開前に各課長がチェックする体制をとっている。

審査会では実際に「酪農家のイラストが男性に固定されている」といった指摘が入ったこともある。同グループの橋川真悟さんは「無意識のうちの思い込みがあると、その視点を持った人に審査してもらうことで分かった」と語る。

審査会を経て動画を公開するようになってから、志布志市では約10年間、炎上などは起きていない。中尾さんは「ししまるなど認知度は少しずつ上がってきていると思うので、審査会を含めて、情報発信は適正なものを伝えていきたい」と話す。

「放置もリスク」 SNSなき経営が危うくなる時代へ

炎上だけがリスクではない、と新川次長は警鐘を鳴らす。

「SNSを見て来店したが店休日が上がっていなくて『せっかく来たのに』というマイナスの印象とか、しばらく放置していると『この店やっているのかな』『営業しているかな』と思われるマイナスリスクもある。効果も期待できるが、諸刃の剣」

情報の更新を怠ることや、アカウントを放置することも、来店機会の損失や信頼低下につながりうる。運用し続けることへのコストと覚悟が求められるわけだ。

それでも新川次長は、SNSの重要性は今後さらに増すと見ている。

「広報もしてくれる、売り上げにも寄与してくれる、採用にも使えると、人手不足の時代にSNSが色々な仕事をしてくれる。重要な経営ツールに位置づけられる。SNSのアカウントを持っていない、運用していないことがリスクになる可能性も出てくる」

PR、販促、採用・・・。一つのツールが複数の経営課題に同時に応えられる存在として、SNSの位置づけはますます高まりつつある。

効果もリスクも兼ね備えたSNSをどう活用していくか。その問いに、鹿児島県内の企業や自治体はそれぞれの形で向き合い続けている。

【動画で見る▶企業・自治体のSNS戦略最前線 活用の効果は?炎上などのリスクは?【鹿児島】 】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(15枚)
鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。