「トマトのウォータースライダーや」――そんな言葉が思わず飛び出すほどの果汁とみずみずしさ。石川県小松市は、知る人ぞ知る北陸最大のトマト産地だ。つやつやと輝く春トマトが初出荷を迎えたこの時期、JA小松市の収穫場から生産者のハウス、そしてフレンチのビストロまで、小松とまとの魅力を追った。

「甘みも酸味もしっかりのって、最高の仕上がり」

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小松市は北陸最大のトマト産地である。58軒の農家がハウス栽培に取り組み、年間1200トンを出荷している。
まず向かったのは、JA小松市の野菜総合集出荷場。壁面にはJA小松市のイメージキャラクター「こまとちゃん」が描かれ、トマトの産地らしい出迎えを見せる。

小松とまとの出荷シーズンは来年1月まで続くが、時期によって味の個性が大きく異なる。今回初出荷を迎えた春トマトは、果肉が柔らかく甘みが強いのが特徴。8月から11月に出荷される夏秋トマトは、酸味と甘みのバランスが良くさっぱりとした味わい。そして12月から1月にかけての冬トマトは味が濃く、フルーツのような味わいを持つ。

初日の出荷量は3トン。JA小松市春トマト部の柴田洋治郎部会長は、今年の仕上がりをこう表現した。
「3月から4月にかけて、結構暖かかったので順調に育ちました。甘みも酸味もしっかりのって、例年通り、最高の仕上がりになりました。」

白いシートともみ殻――小松ならではの栽培の知恵

小松とまとが高い品質を保てる背景には、生産者たちの地道な工夫がある。今回取材に応じてくれたのは、生産者の一人、齊官志織さん(29)だ。

ハウスに足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが床一面に敷かれた真っ白なシート。土の持ち込みを徹底的に排除しているのだという。
「畑には、トマトが病気になるような菌があって、土を持ち込んでしまうとトマトにもうつってしまうので、持ち込まないように工夫をしています」
白いシートを選ぶのには、さらに別の理由もある。白は光を反射するため、床に近いトマトにも日の光を届けることができ、さらには虫の目をかく乱して防虫対策にも役立つのだ。

害虫対策はそれだけにとどまらない。ハウスの周囲には侵入を防ぐための目の細かいネットが張られ、出入り口もそのつど開け閉めする徹底ぶり。さらにハウスの内部には、トマトの花と同じ黄色い粘着テープが設置されており、侵入した虫をおびき寄せ、花を守る仕組みになっている。

そして取材中、もう一つ、小松ならではの工夫が見つかった。
「土壌が土じゃないんですね」と声をかけると、齊官さんは「もみ殻なんです」と答えた。トマトには連作障害があり、同じ土で育て続けると病気が発生しやすくなる。もみ殻を使えばその心配がなく、通気性と水はけが良く温かいためトマト栽培に適しているのだという。

「もみ殻を使うのはレアで、小松の特徴なんですけど。米どころの小松だから毎年出てくるもみ殻をうまいこと使うことができないかって」
米どころとしての歴史と資源が、トマト栽培に生きている。地域の特性を最大限に活かした、小松らしい発想だ。

齊官さんのハウスでは、その日の気温や湿度に合わせてミストを自動でまいたり、栄養となる養液を自動管理したりと、最先端の技術もフル活用している。
「食べて元気になるような、そんなトマトを作りたいんですけど。まだまだ分からないことが多くて、まずはしっかりと1年1年、大事に育てていくことが今の目標です」

農家1年生が産地を支える――「アグリスクール」の挑戦

最新技術を駆使した栽培を展開する齊官さんだが、実は農家として独り立ちしたのはこの春のこと。トマト農家としては、まだ1年生だ。
農家の高齢化は小松市においても無視できない課題となっている。そこでJA小松市は5年前、新規就農者をゼロから育てる「アグリスクール」事業を立ち上げた。すでに13人がこのスクールを卒業しており、齊官さんもその一人だ。

卒業後も先輩農家が悩みに答えるなど、成長を見守り続ける体制が整っている。先輩農家はこう語る。
「産地を守ってくれてるという嬉しさもあるし、僕ら自身、若い人たちに技術面でもそうですし、いい刺激になっています。」

齊官さん自身も、アグリスクールで得たものを振り返る。
「知り合いもいないし、やり方も栽培技術も分からないのに、アグリスクールに入ると、仲間って言える人が増えました。小松とまとは本当に、毎日食べても食べ飽きないトマトだなって思っていて。家族みんなで食卓を囲んで、その中の一つとして、トマトをみんなで味わってほしいなって思います。」
産地を守りたいという農家の思い、後継者を育てたいというJAの取り組み、そして若い世代が地域農業に飛び込んでいく——小松市のトマト産地は、そうした人々のつながりによって支えられている。

「口の中がベルサイユ宮殿の舞踏会」――フレンチビストロが引き出す小松とまとの真価

小松駅から車で10分ほどの場所にある、フレンチのビストロ「DEUX et DEUX(ドゥエドゥ)」。元々は昭和時代に織物工場として使われていたという建物で、木の梁が残る高い天井と大きなシャンデリアが印象的な空間だ。

ここで田中淳也シェフが小松とまとを使って作るのは、「完熟トマトのムニエルスパゲティ」。魚料理でおなじみのムニエルをトマトに応用するという、一風変わった一皿だ。
「できる限りフレンチの技法を取り入れたパスタにしたいなと思いまして。せっかくの地元の大切なものなんで、それをふんだんに使いたいなと思いまして。」

小麦粉をまぶして焼いたトマトに、グラナ・パダーノをかけてオーブンへ。仕上げに鮮やかなパセリソースをかけ、フレッシュパセリを散らして完成する。

ムニエルしたトマトを豪快に潰してパスタと絡めると、どろりとした果汁が溢れ出す。一口食べた彦摩呂さんの感想は…

「トマトがメイン、主役ですよ。トマトの甘みと、このオイルの中のほどよいにんにくと合わさって、パセリのオイルの香りもたまらないですね。もう口の中が、ベルサイユ宮殿の舞踏会」
フランス料理の技法が、地元小松のトマトをより一層輝かせる。

シェフはその一皿に込めた思いをこう話す。
「こういったトマトという食材は我々にとってはベーシックな食材ですので、そういったものを地元の農家さんが丁寧に作っていただいて、とても感謝しております。」

家庭の食卓に根ざした"ごちそう"

高級食材だけが石川の食の魅力ではない。小松とまとのように、家庭の食卓に身近な食材であっても、生産者がここまでのこだわりと愛情をもって育てているという事実は、それ自体が石川の食文化の豊かさを物語っている。

白いシートの上に広がるハウス、米どころならではのもみ殻の土壌、害虫対策のための黄色い粘着テープ、そして最先端の自動管理システム――その積み重ねが、あのみずみずしい一口を生み出している。

来年1月まで続く出荷シーズン、春・夏秋・冬とそれぞれに個性を変える小松とまとを、ぜひ季節ごとに味わってみてほしい。
「毎日食べても食べ飽きないトマトだな」という齊官さんの言葉は、生産者としての誇りとともに、食べる人への率直な誘いでもある。

(石川テレビ)

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