石川県小松市のソウルフードとも呼べる塩焼きそばを出す町中華がある。1971年創業、赤い椅子と赤いテーブルが並ぶ昭和の空気をそのままにした「中華料理 龍華」だ。厨房に立つのは、祖父から店を受け継いだ若き2代目・村上太郎さん。目の前で鍋を振るその姿に、グルメリポーターの彦摩呂さんは「味の家宅捜査や」と思わず立ち上がった。ラードと鶏ガラスープが生み出す「旨味のコーティング」とは何か。裏メニューが昇格したオムライスの秘密とは。そして、祖父と比べられながらも鍋を振り続ける若き店主の言葉とは。小松市白江町の名店が持つ物語を、余すところなく伝えたい。

「小松のソウルフード」を求めて、聞き込みは小松駅から始まった

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石川テレビで毎週月曜日から金曜日の夕方に放送している石川さんパレット。番組で人気のコーナー、石川県民がいとおしいと思うグルメを紹介する「イトシメシ」は、小松駅からスタートした。小松の女性2人が、迷わず口にしたのが「龍華の塩焼きそば」だった。

「私のイトシメシは『龍華』の塩焼きそばです。小松市にある中華料理屋さんです。小松市のソウルフードといえる塩焼きそばなので、ぜひ食べてほしいです。」
その言葉を受けたリポーターの沼本若菜さんが思わず口にした通り、「そんなこと言われたら食べちゃう」という流れで、ロケ隊は小松市白江町へと向かった。

辿り着いた先に広がっていたのは、まさに「昭和」の景色だった。彦摩呂さんは「佇まいが『ザ・昭和』やん。いい感じやね」と声を上げた。「このサンプル、最高これ。いやーいいやん」とも続け、店に足を踏み入れる前からその雰囲気に引き込まれていた。

1971年創業。半世紀以上にわたって地域に愛され続けてきた「中華料理 龍華」は、連日多くの客が押し寄せる繁盛店だ。

赤いテーブル、赤い椅子、壁に下がる「ラーメン」「餃子」と書かれた大きな赤いのれん。彦摩呂さんもその雰囲気を見渡しながら「赤い椅子で赤いテーブルもザ町中華。合格」と太鼓判を押した。

カウンター席が特等席――目の前で火柱が上がる調理の迫力

店に入ると、出迎えてくれたのは店主・村上太郎さんだ。塩焼きそばを注文すると、太郎さんは「せっかくなんでカウンターで食べていってください。」と案内した。オープンキッチンのカウンター越しに調理の全工程が見える特等席。彦摩呂さんは「目の前で作るとこ見れるなんて最高」と前のめりになった。

調理は鮮やかだった。麺が茹で上がると間を置かず、鍋に食材が次々と投入される。「早いですね、動きが」と沼本さんが感嘆の声を上げると、太郎さんは「麺が茹で上がったらすぐなので」とさらりと答えた。鍋から豪快な火柱が上がると、「ファイヤー」という言葉が厨房に響いた。

もやしと調味料が加わり、クライマックスへ。ここで太郎さんが明かした塩焼きそばのスタイルが独特だった。
「うちの塩焼きそばは少し汁っぽい感じで。パスタ作るぐらいの感覚で仕上げている。」
スープを多めに使い、太麺にしっかりと旨味を吸わせる。それが龍華流の塩焼きそばだ。彦摩呂さんも思わず立ち上がって調理を見守った。

「味の家宅捜査や」――彦摩呂が捕らえた旨味の正体

皿に盛られた塩焼きそばが目の前に届いた瞬間、彦摩呂さんは「うわーできた。うわーおいしそうー。もうぷるんぷるんや」と声を弾ませた。箸を持ち、「入城」と宣言してひと口。
「うんまー。旨味と味がこの太麺が吸ってるのと、周りに旨味が張り付いてるわ。めちゃめちゃおいしい。味の家宅捜査や」

太麺にたっぷりと旨味が絡んだ龍華の塩焼きそば
太麺にたっぷりと旨味が絡んだ龍華の塩焼きそば

「取り調べしたくなるぐらい美味しい」と彦摩呂さんが表現したその一言は、龍華の塩焼きそばが持つ旨味の重層性を的確に言い当てていた。

その秘密は2つある。ひとつは「ラード」だ。ラードを使うことで、麺と具材の表面に旨味のコーティングが生まれる。もうひとつは鶏ガラスープを多めに加えることで、旨味をさらに引き立たせていること。スープを多めに使うことで麺にしっかりと味を吸い込ませるのがポイントだ。

実は、太郎さんにはスペイン料理店での修行経験があり、そこで作っていたパスタから着想を得て、塩焼きそばを今の味に仕上げたという。パスタを作る感覚で焼きそばをつくる——そのアイデアが「汁っぽい」独特のスタイルを生んだのだ。

彦摩呂さんはさらに食べ進めながら言葉を重ねた。
「(おいしさが)抱きかかえて張り付いてる感じがする。味のハグ!」
旨味が麺を包み込み、食べた人間を丸ごと抱きしめるような感覚——この表現が、龍華の塩焼きそばの本質をもっともよく表しているかもしれない。

祖父の店を継いだ2代目――「おじいちゃんはこうだよ」の重さと向き合う

塩焼きそばを味わいながら、話は自然と店主・太郎さんの背景へと流れていった。
「ご主人めっちゃ若いのにお店は昭和のいい雰囲気でギャップがある」と彦摩呂さんが切り出すと、太郎さんは穏やかな口調で語り始めた。
「元々ここはおじいちゃんのお店で、お店で言うと2代目で、孫が継いでるって感じですね、子供の頃からもう、遊ぶって言ったらここ(厨房)で遊んでたんで。」

厨房は太郎さんにとって遊び場。物心がついたときから鍋や包丁が身近にあり、料理の匂いと熱気の中で育ってきた。それを聞いた彦摩呂さんは「天性やな。ずーっと、もうちっちゃいときからそうやって育ってきたんや」と感嘆した。

太郎さんはさらりとこう続けた。
「料理はもう、どんだけしててもあんまストレスたまらないんで」
その言葉には、料理への純粋な愛情が透けて見える。苦にならないのではなく、むしろ料理をしていることが自然な状態なのだ。それは子供の頃から厨房が「遊び場」だった人間だけが持ち得る感覚かもしれない。

彦摩呂さんが「昔ながらのお客さんも来るし、新しいお客さんも来る。難しいこともあるんじゃないか」と水を向けると、太郎さんは静かに、しかしはっきりと答えた。
「そこがやっぱおじいちゃんと比べられるのがちょっと心痛いとこありますけど…最初はもう指摘されてました。おじいちゃんはこうだよって」

祖父が長年かけて積み上げてきた味と記憶。それを懸命に受け継ごうとしながらも、「おじいちゃんはこうだった」という言葉を何度も聞かされてきた。その重さは想像するに余りある。
彦摩呂さんはその言葉を受け止めながら、こう返した。
「それはまたみんなが育ててくれるね、地域やから、お客さんが育てんのよ、こうやって。地域密着。」

その言葉を聞いた沼本さんが思わず「なんかドラマ描きたい」と漏らした。確かに、この店には一本のドラマが宿っている。祖父が作り上げた昭和の聖地を、孫が受け継ぎ、地域のお客さんに育てられながら、自分の味を模索していく物語だ。

「裏メニュー」から正式昇格――龍華のオムライスという名の宝物

塩焼きそばの余韻が広がる中、沼本さんが目を輝かせてメニューを指差した。
「彦摩呂さん、気になるメニュー見つけちゃいました。これ、オムライス! 町中華のオムライスが食べたいです」

彦摩呂さんも「ほんまや、星マーク付いてる。え、食べてみたいね」と身を乗り出した。太郎さんは「作ってみます」と答え、再び厨房へと向かった。

このオムライスには、面白い歴史があった。もともとは太郎さんが2代目として「裏メニュー」として提供していたものだった。しかし人気が高まるあまり、通常メニューへと昇格した一品なのだ。つまり、これは太郎さんが独自に生み出し、お客さんの声によって正式な顔ぶれに加わった料理だ。

ネギとチャーシュー、卵が入ったケチャップライスの上に、ふわっふわに焼き上げた卵が乗る。

彦摩呂さんがスプーンを手にしたとき、まず伝わってきたのは卵の感触だった。
「卵のふわふわがスプーンから伝わる。うおー、いただきます。入城」

一口食べて、目が細くなった。
「うんま。コクとまろやかさと、あと香りがうわーとあるね、このケチャップライスに合う」

そしてさらに食べ進める沼本さんが、こう言った。
「卵フワフワすぎてもう無い。この卵はオムライスになるために生まれてきた。卵もケチャップライスもどっちも同じぐらい主役。」
その言葉を聞いた彦摩呂さんがすかさず反応した。
「いいこと言うた沼ちゃん。もうこの両方が主役やろ。まさにオムライス界のりくりゅうペアや!」

卵とケチャップライス、どちらが主役でもなく、どちらも主役。その絶妙なバランスが龍華のオムライスの核心だ。ふわふわの卵は火の通しが絶妙で、「生になりすぎんように」という太郎さんの言葉通り、とろりとした食感の中にきちんと熱が入っている。コクとまろやかさとケチャップの香りが一体になって、ひと口ごとに笑顔が生まれる。

「町中華らしく、このまま行こうか」――若き店主の覚悟

塩焼きそばとオムライスを堪能し、そろそろシメの時間。彦摩呂さんは太郎さんにこう問いかけた。
「これからまたメニューが増えるとか、そういう計画はあるんですか」
太郎さんの答えはまっすぐだった。
「いや、メニューとかは別に増やすつもりもなく、町中華は町中華らしくやっていこうかなっていうつもりで」

そして具体的な目標を聞かれると、少し間を置いてこう言った。
「一生懸命頑張ります」
その言葉を受けた彦摩呂さんは「一番ええよね」と笑い、沼本さんも「まっすぐ」と頷いた。飾りのない、力強い宣言だった。

拡大も変化も求めない。町中華は町中華として、この場所で、この味で、この雰囲気で続けていく——その覚悟が、その一言に凝縮されていた。

中華料理 龍華
住所:石川県小松市白江町ヲ15-3
営業時間:午前11時~午後3時、午後5時~午後9時半
定休日:水曜日
電話:0761-21-6818
備考:ランチタイムは混雑するため、早めの来店か時間をずらした来店がおすすめ。店奥に40人の座敷席あり。

(石川テレビ)

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