「金沢のたけのこ、みずみずしくておいしい。これを食べて人生もにょきにょき大成長するぞー!」そう叫んだのは、食のタレントとして知られる彦摩呂さんだ。
口にした瞬間、思わずそんな言葉が飛び出してしまうほどの味だったという。金沢の春の味覚として名高い加賀野菜のひとつ、タケノコ。今年は「表年」にあたり、約400トンもの出荷が見込まれるという豊作の年だ。
竹林の斜面に眠る大地の恵みは、どのように掘り起こされ、どのような形で人々の食卓へと届けられるのか。石川テレビの加藤アナウンサーが産地に足を運び、収穫の現場から期間限定の食堂まで、金沢タケノコの魅力をたっぷりと掘り下げた。
「恐竜の爪みたい」――彦摩呂さんも驚いた、圧倒的な存在感

石川県金沢市の内川スポーツ広場。そのレストハウスに期間限定でオープンしているのが「内川たけのこ食堂」だ。
テーブルの上に置かれたタケノコを見た彦摩呂さんは、その大きさに目を丸くした。実際に手に取ってみると「ずっしりや。すごい。恐竜の爪みたい。」と驚きを隠せない様子だった。

それほどまでに、金沢のタケノコは存在感がある。加賀野菜のひとつとして古くから愛されてきたこの食材には、江戸時代にまでさかのぼる深い歴史がある。
江戸から加賀へ――タケノコが歩んだ370年の歴史

加賀藩の足軽であった岡本右太夫が、タケノコを生み出すモウソウチクを江戸から加賀へと持ち帰ったことが始まりとされている。それ以来、金沢の内川地区などでタケノコの栽培が根付き、今日まで受け継がれてきた。

加賀野菜として確固たる地位を築いたその背景には、土地の気候と土壌が育む独特の品質があった。加藤アナウンサーが取材した際、JA金沢市筍部会の北村弘副部会長はその特徴をこう語った。「冬に雪が降るので水分が豊富で、甘みがあるというのが一番の特徴です」

そして今年は「表年」にあたる。タケノコの収穫量は年によって豊凶の差が大きく、豊作の年を「表年」と呼ぶ。今年は約400トンの出荷を見込んでいて、金沢の春の食卓を賑わせる準備は万全だ。
竹林の斜面へ――収穫の現場に潜入

「タケノコはどこにあるんですか?」と加藤アナウンサーが問いかけると、北村副部会長は「こちらの斜面の竹藪で掘ろうと思っています」と案内してくれた。

足場の安定しない急斜面を上っていくと、土の表面からほんのわずかだけ顔を出しているタケノコの先端。知らなければ気づかないほどの小ささだが、北村さんはそれを確実に見つけ出す。
「色もちょっと黄色っぽいので、出たすぐのところ。新鮮でおいしいタケノコです。」

まず周囲の土を少しずつかき分けていき、タケノコの根元が見えてきたら、角度を変えながら鍬を差し込む。北村さんが実演すると、土から出ていた先端からは想像できないほど大きなタケノコが掘り出された。「ずっしりしていて大きいです」と加藤アナウンサーも思わず声を上げる。

この日は加藤アナウンサーも収穫に初挑戦した。悪戦苦闘しながらも小ぶりのタケノコを収穫し、自宅できんぴらにしていただいたという。小ぶりのタケノコは一人暮らしの食卓にはぴったりのサイズでおすすめだ。


生でかじれる甘さ――金沢タケノコの真髄
収穫したてのタケノコを手にした北村さんは「たけのこ、かじると甘いんですよ」と話す。加藤アナウンサーは半信半疑の様子でかじると…次の瞬間に驚きの声を上げた。「え、甘い!」。

加藤アナウンサーによると「キャベツの甘いところ」に似ているそう。北村さんが言うには、これがまさに金沢のタケノコの一番の特徴だ。アク抜きを必要とする一般的なタケノコのイメージを大きく覆すものだ。
おいしいタケノコの選び方
北村さんは、おいしいタケノコを見分けるためのポイントも教えてくれた。
「色は黒より黄色いような、茶色っぽいような感じのほうが土の中にずっといて、ほとんど空気に触れていないので、アクが少なくておいしいタケノコです」という。スーパーなどで選ぶ際にも活用できる知識だ。
部位によって変わる楽しみ方

タケノコはひとつの素材ながら、部位によって食感や味わいが異なり、それに合った調理法があるという。
北村さんは、次のように説明する。「上のほうはやわらかいので、煮物にしてもおいしいですし、下のほうはシャキッとした食感がすごい楽しめるので、天ぷらにも合います」。

さらに小ぶりなタケノコには、焼きタケノコという楽しみ方もある。「これをそのまま火に入れて焼くと、中が蒸したような感じになって、やわらかくて香ばしく出来上がる。小さいのもバーベキューに使うとおいしいですよ」と北村さん。皮ごと焼くことで内側が蒸されたような状態になり、香ばしさとやわらかさが同時に楽しめるのだという。
煮物・天ぷら・焼きたけのこと、ひとつの素材でこれだけ多様な味わい方ができる。「今の時期は何にしてもおいしいです」という北村さんの言葉には、生産者の自信と誇りが滲んでいた。
かつて10軒以上、今はゼロ――消えかけた「内川の味」

金沢市の内川地区は、県内有数のタケノコの産地として知られてきた。かつてはこの地区に10軒以上のタケノコ料理店が軒を連ねていたという。だが、高齢化などの影響により、それらの店はすべて廃業してしまった。地域の食文化は、静かに消えようとしていた。

そんな内川の食の記憶を次世代に伝えようとする取り組みが根を張り始めている。金沢市の地域おこし協力隊が中心となり、去年、スポーツ広場のレストハウスに「内川たけのこ食堂」をオープンしたのだ。その中心人物のひとりが、地域おこし協力隊の浜口ゆきのさんだ。

「おもしろそうだなと思って応募しました」――移住者が食を継ぐ
浜口さんは元々、金沢への移住を考えていた。移住を考えたタイミングで内川地区の地域おこし協力隊の募集を知り、その内容に惹かれた。「タケノコ料理の継承っていうのが一つ大きな目標としてあったので、おもしろそうだなと思って応募しました」と浜口さんは振り返る。浜口さんたちはかつてタケノコ料理店を営んでいた人たちから、地元の味を教わった。

かつてタケノコ料理店を営んでいた西田照代さんは、こう語った。「かつおだしをたけのこの料理には入れない。上の人に言われてきた。昆布だけの煮物とか。かつおに負けるんじゃないかな、たけのこの味が」。

この言葉の中に、長年かけて蓄積されてきた内川の料理の知恵が凝縮されている。タケノコ自体が持つ繊細な甘みとうまみを活かすために、昆布だしだけを使う。それが内川に受け継がれてきた流儀だ。かつおの風味はタケノコの味を圧倒してしまうから、使わない。

西田さんは、若い世代が地元の食を引き継ごうとする取り組みを「いいことやわ」と温かく見守る。「地元の人は年がいった人ばっかりで、続けるのはかなりきつい。だから若い子がしてくれるのは本当にいいと思うよ」という言葉には、長年守り続けてきた者の安堵と感謝が滲んでいた。
食堂の朝――仕込みの香りが語るもの

取材当日、加藤アナウンサーが内川スポーツ広場のレストハウスに足を踏み入れると、まず香りが出迎えた。「炊き込みご飯のいい香り!」と思わず声が出るほどの食欲をそそる匂いが漂っていた。

その日も仕込み作業が続いていた。タケノコの炊き込みご飯、煮物、そして天ぷら。それぞれの料理に異なる手仕事が注がれていく。
浜口さんは天ぷらを仕込みながら言った。「これぐらい厚いと、噛んだ時にタケノコの厚みが感じられておいしいんですよ。シャキッとみずみずしさが伝わりますね」。ひとつひとつの料理に、素材の持ち味を最大限に引き出すための工夫と丁寧さが込められていた。
3世代で訪れる食堂――「1年楽しみにしていた」

「内川たけのこ食堂」は、すでに地域の人々に深く愛される場となっている。
食堂を訪れたある客は「タケノコご膳をやっているのを友達に聞いて、一回食べてみたいなと思ってきました」と話し、「春を感じます、春だなと思います」と顔をほころばせた。別の客は「おいしいです。一年楽しみにしていたので、なかなか予約が取れなくて」と言い、「天ぷらが一番おすすめですね。素材のそのままの味が楽しめます」と満足げに語った。

予約がなかなか取れないほどの人気ぶりだ。浜口さんのもとには、来客からさまざまなメッセージが届く。「タケノコを食べられる場所がまたできてうれしいとか、三世代で来ますとか、そういうメッセージをいただいてすごくやりがいがある」と浜口さんは話す。そして「たけのこや内川地区の魅力を伝えられる場所になったらいいなと思います」と、食堂に込めた想いを語った。
たけのこ弁当を彦摩呂さんが実食!

内川たけのこ食堂では、たけのこ御膳はすでに予約がいっぱいだったため、1日50食限定の「たけのこ弁当」が用意された。

蓋を開けた彦摩呂さんは「うわー!いい香りが立ち込める。見てくださいよ、このたけのこの2LDK」と、3種類のタケノコ料理が詰まった弁当の見た目を間取りに例えた。
弁当の中身を浜口さんが説明する。「たけのこの天ぷら、たけのこご飯、たけのこ煮物と、たけのこ料理の定番が詰まった一食となっております。また、珠洲の塩を使っておりまして、お好みで天ぷらにかけて召し上がってください」。

天ぷらから食べ始めた彦摩呂さんは「食感がパリパリ。おー、天ぷらの冷房完備。涼ーしおー(珠洲塩)」と表現。続いてたけのこご飯を口にすると「たけのこいっぱい入ってる!食感もすごい」。煮物を大きくかじると「ちゃんと奥まで味が染みてます。たけのこ、味しみるの難しいのにすごい上手。おいしい」と称賛した。

浜口さんは視聴者へのメッセージとして、こう語りかけた。「たけのこ一つでも料理によって全然味わい方が変わりますので、このお弁当で楽しんでいただいて、旬な食材を味わっていただければうれしいです」。

内川たけのこ食堂の営業は5月上旬まで予定されている。たけのこ弁当はホームページからの予約制だ。また、内川地区では「たけのこ祭り」が今月26日に行われる予定だという。
にょきにょきと芽吹く、食と地域のこれから
金沢の春はタケノコとともにある。この季節に金沢のタケノコが持つみずみずしい甘さと、それを守り伝えようとする人々の熱を、ぜひ実際に味わいに足を運んでみてほしい。

(石川テレビ)
