九州大学発のベンチャー企業が、“カイコの力”を使って世界で毎年、約20万人の犠牲者を出す『ノロウイルス』ワクチンの開発などを進めている。「カイコで世界を変える」取組みとは。

『カイコを使い、世の中を変える』

2019年から世界中で猛威を振るった『新型コロナウイルス』。その最中、タンパク質を効率よく作り出す昆虫の蚕(カイコ)から抗原キットを開発した企業がある。

この記事の画像(25枚)

福岡市西区に拠点を置く九州大学発のベンチャー企業『KAICO』。

「カイコは、4000年前から家畜化されていて、人間と共に歩んできた虫。時代と共に違う形で人類に対して役に立つものを我々は、提供したい。

カイコは、人々を助けるだけではなくて、世の中を根本的に変えることができる虫」だと『KAICO』の大和建太社長は語る。更に、カイコには、「無限の可能性を感じている」とその魅力を強調する。

『カイコを使い、世の中を変える』。更なる可能性を見据えている会社は今、2つの商品の開発を進めている。

“冬虫夏草”全て使った化粧品

その1つが、保湿などに役立つ『スキンケアクリーム』。白色のぷるぷるとしたクリームだが、実は、これまでになかった製法で作られている。

「生きたカイコを使用した『冬虫夏草』を栽培している」と『KAICO』の木山将司さんが説明する。

まるでサンゴのような形でオレンジ色に光るのは、冬虫夏草の仲間『サナギダケ』。キノコの一種だ。冬虫夏草は、主に、生きた昆虫に寄生することで成長するが、ここでは、生きたカイコに菌を付け、培養することに成功している。

『KAICO』研究開発部の佐々木友樹さんによると、「カイコの中にも免疫がある。その免疫に打ち勝って菌が生えてくるというところで、“菌の選抜”みたいなのがあるのではないかと我々は考えている。強力な菌がキノコを作っていくみたいな感じ」だという。

古くから漢方薬にも使用され“不老長寿の秘薬”と呼ばれるほど重宝されてきた冬虫夏草は、皮膚の炎症を抑えるほか、シミやソバカスを防ぐ効果が期待されている。

『冬虫夏草』全体を使用

そして、この企業が培養している冬虫夏草には、『成分の相互作用』という効果を高める秘密がある。「生えてきた『冬虫夏草』全体、菌糸体と子実体を混ぜて使っているというのが世界初になる」と話す『KAICO』研究開発部の佐々木友樹さん。

通常は、伸びてきたキノコの部分(子実体)のみを使用するのが一般的だが、このクリームは、サナギを含めた菌糸体と合わせ全体からエキスを抽出しているのが特徴だ。

全部使うと、どういう利点があるのか?佐々木さんに尋ねると、「上のキノコの部分(子実体)だけにしかない成分もあるし、下の菌糸体のところにしかない成分もある。この2つが相互作用して全体で良い作用を作っていく」と説明する。

カイコのサナギを使っている『スキンケアクリーム』。すべてを無駄にすることのないようカイコの繭も使った化粧品の開発を進めていて、2026年中の販売を目指している。

世界初『ノロウイルス』ワクチンも

『株式会社カイコ』が手掛ける2つ目は、強い感染力で嘔吐や発熱を引き起こす『ノロウイルス』のワクチンだ。

世界で年間20万人が命を落としていると言われるこのウイルスのワクチンは、まだない。そのワクチンをカイコの力を使い、現在、開発中で、安全性や有効性を確認する治験を行う準備を始めている。

「カイコだったからこそ作れるというものを提示したい。虫で薬を作っても『そんなもの承認されないだろう』と、今まで世の中に前例がないと、ずっと言われ続けてきたが、我々は、10年かけてようやくノロウイルスのワクチンを人に使うことができるようにするための『第Ⅰ相試験』を2026年中に実現できそうなところまできた」と『KAICO』の大和建太社長は胸を張る。

ワクチン製造では、生きたカイコのサナギにウイルスを接種。

体の中でウイルスを増やしていく。「インフルエンザのワクチンとかは、ニワトリの卵からできている。他は、培養細胞やウイルスそのものを不活化してワクチンにしているが、我々は、カイコのサナギを使ってタンパク質を作り、それをワクチンの抗原にしている』と『KAICO』研究開発部の佐々木友樹さんが説明する。

他の動物に比べて飼育しやすいカイコを使うことで、ワクチンに必要なタンパク質を安定して確保できることにも繋がると、その利点を強調する。

「カイコのポテンシャルとしては、100人以上の人に対するワクチン抗原を作る能力がある。カイコのいいところは、小さい1頭だけなので、単純に100倍多くすれば100倍多くなるし、スケール化がしやすいというのもカイコの良さの1つ。同じ設備で必要量を少ないものから、調整しながら作りやすいっていうメリットがある」。

有用な成分をわずかなスペースで作り出すことができるカイコの力。ワクチンは、2026年の夏から秋にも治験が始められるよう準備が進められている。「最終的に人に使うには、もうちょっと時間が掛かるが、世の中で『虫で作った薬を人に打つ』というのは、世界で初めてのこと。

最終的には、これを錠剤タイプで取れるようなものを目指したい。

『カイコで世界を変えていく』というのが、我々の会社のミッション』。だからカイコのあらゆる可能性を世の中に示してそれで世界を変えていきたい」と『KAICO』の大和建太社長は、大きな期待を口にした。

息長くカイコを育て守る環境整備も

更に、この会社では、ワクチンなどの開発に必要なカイコの一部を、かつて養蚕業が盛んだった長野県駒ケ根市から取り寄せているが、日本では養蚕業が衰退しているため、2024年、駒ケ根市と連携協定を結び、自治体や企業と一緒に養蚕業を復活させるプロジェクトをスタートさせている。

カイコを育てるだけでなく、エサとなる桑の木の植樹も行い、生産された全てのカイコを開発の原料として買い取っているという。『KAICO』の大和社長は、「地域活性化や地球環境への取り組みにも繋がることを期待している」と語り、カイコを巡る息の長い環境整備にも力を入れている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。