この春、鹿児島県内に公立の「学びの多様化学校」が相次いで開校した。不登校を経験した子どもたちのために、授業時間や施設の設計を柔軟に組み立てたこれらの学校は、既存の教育制度とは一線を画す試みだ。「通えるようになりたい学校」から、いつか「通いたい学校」へ——その願いを胸に、教師も子どもも、そして保護者も、新しい学びの場を少しずつ育てている。

「通いたい学校」に変わるために——志布志市・悠志学園の挑戦

2025年春、鹿児島県志布志市に「悠志学園」が開校した。集まったのは小学生から中学生まで25人。いずれも、一度は学校に通えなくなった子どもたちである。

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悠志学園は、県内の公立学校としては初めて開校した「学びの多様化学校」だ。様々な理由で不登校になった児童生徒が通うこの学校は、独自の教育課程を編成できる仕組みを持つ。現在、全国には84校が開校している。

一般の学校との違いは、まず授業時間に表れている。標準的な学校では年間約1000時間とされる授業時間が、多様化学校では学校ごとに調整でき、800時間程度が目安となる。時間的なゆとりを持たせることで、どんな子どもでも無理なく学校生活に参加できるよう工夫されている。

施設面の配慮も丁寧だ。悠志学園では、学校に入るとまずプレイルームがある。会話や軽い運動で一日をスタートさせる場所だ。職員室と教室のフロアは壁がなく、教師が子どもたちの表情をいつでも確認できる設計になっている。さらに「センサリールーム」と呼ばれる部屋は、防音効果の高い壁材を使用し、音や光に敏感な生徒への配慮が施されている。

こうした環境について、前畑あさよ校長はこう語る。「今は『通えるようになりたい学校』かもしれない。いつか『通いたい学校』に変われたら」。

90回を超える面談から生まれた教室——さつま町「みらいる~ム拓」

志布志市と同じ春、さつま町でも新たな学びの場が誕生した。宮之城中学校の分校として開校した「みらいる~ム拓」だ。

開校初日の午前9時前、教室では生徒と先生が一緒に絵しりとりをしていた。まずコミュニケーションをとることから一日が始まる——それがこの学校の流儀である。

その後の数学の授業では、先生が最初にアンケート用紙を配った。項目はこうだ。「まずは自分で考えたい」「考えているときもそばに居てほしい」「そっとしてほしい」。生徒一人ひとりがどのように学びたいかを、言葉にして確かめるところから授業が始まる。

休み時間も、それぞれの生徒が自分のペースで過ごす。ある生徒はこう話した。「集中力があっても頭が疲れてしまう。何も考えずに目をつぶって無になってたところ」。担任の若松先生は「自分のペースでやれる分でいいよ」と声をかける。

この学校の立ち上げから深く関わってきたのが、さつま町教育委員会の東郷伸吾さんだ。転入を受け入れるにあたり、2025年9月から生徒や保護者との面談を重ねた。その回数は90回を超える。

東郷さんは面談の場を振り返ってこう語る。「『1年後どうなっていたい?』と言うと、そこでしばらく考える。無言の時間が20分、30分ざらにあるが、それでも待つと、ポツポツと『人とちゃんと話ができるようになりたい』『ドキドキせず人の前で話せるようになりたい』とぼそっと言う。ここを出た後に生きていかないといけないので、周りの環境をうまく調整し、適応する力を身につけさせたい」。

子どもたちの言葉を丁寧に待つ——そこに、この学校の根幹がある。

当事者が語る「本当に力になったもの」

不登校を経験した側から、これらの取り組みはどう映るのか。

現在17歳の高校生モデル・RENONさんは、小学生のころから不登校を経験し、現在は通信制の学校で学びながらモデルとして活動している。また着物への愛着を生かし、着物レンタルなどを行う事業「てりふりなし」を立ち上げ、運営している。

RENONさんが不登校になったきっかけは、小学校低学年のころの早起きへの苦手意識に始まり、中学年での人間関係のトラブルがきっかけで体調を崩したことだという。「起立性調節障害という自律神経の不全になってしまったことが大きかった」と振り返る。

センサリールームのような感覚過敏への配慮については、「敏感な子たちが不登校になることが多いので、聴覚や嗅覚に配慮があるのは、ありがたいことだと思う」と話す。「逃げ場があれば、リラックスして学習に集中できることもあると思う」。

当時、力になったサポートについては「周りの配慮と、親の理解がすごく大きい」と語る。そして、フリースクールで「自分と同じような境遇の子、同じような悩みを持った子と出会えたことはかなり大きかった」とも。

学びの多様化学校のような選択肢が増えることについては、「選択肢が増えれば増えるほどいいと思う。いろんな経験をして、自分ができることをたくさん分かっていたほうがいい」と前向きに受け止めている。

選択肢が増えることの意味

不登校の理由は多岐にわたる。人間関係、勉強についていけないこと、体調の問題——背景はそれぞれ異なり、求められる支援の形も異なる。だからこそ、一つの答えを押しつけるのではなく、複数の選択肢を社会が用意することに意義がある。

一方で、多様化学校もまた「いつかは巣立たなければならない場所」であることは変わりない。子どもたちが自分自身の未来を描き、社会の中で生きていく力をどう育てるか——その問いに対する答えは、まだ模索の途中にある。

「通いたい学校」に変わるための時間を、丁寧に積み重ねようとしている大人たちがいる。そして、その場所に少しずつ足を踏み出している子どもたちがいる。鹿児島県内で芽吹いたその取り組みは、日本の教育の新たな可能性を静かに、しかし確実に示している。

【動画で見る▶鹿児島県内で広がる学びの多様化学校 志布志市、さつま町の新校が示す「通える学校」から「通いたい学校」への試み】

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