壊れた脳は治らないという定説を覆す方法を東京科学大学などの研究チームが発見しました。

65歳以上に多い脳卒中

脳卒中などの病気では脳の一部が壊れると、手足が動かなくなる、言葉が話せなくなる等、後遺症が生涯残ることが多いとされています。

東京科学大学などの研究チームは、脳卒中を起こして脳組織が損傷しても、失った脳機能を取り戻すための回復メカニズムが働くことを発見しました。

脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる65歳以上の高齢者に多い病気です。

脳卒中の約8割が脳梗塞で、脳に血液が通わなくなり、酸素や栄養が不足することによって脳組織が死んで(壊れて)しまいます。

脳組織が死んでしまうと、手足が動かなくなる、言葉が出なくなるといった神経症状が現れ、死んだ神経細胞は元には戻らないため後遺症を残します。

この後遺症が脳卒中の患者を生涯にわたり苦しめ、医療・社会福祉に大きな負担となっています。

脳が壊れても、リハビリテーションなどによって、失った脳機能を部分的に取り戻すことができますが、脳が壊れてから2カ月程度で回復力を失ってしまう(後遺症が残ってしまう)ことが知られています。

脳に常在する免疫細胞に注目

こうした中、研究チームは、「どうして回復力を失ってしまうのか」を解明することで、壊れた脳は治らないという定説を覆す方法を発見しました。

研究チームがまず注目したのが、ミクログリアという脳に常在する免疫細胞です。

普段は脳の環境を見守り、脳がダメージを受けると活性化して炎症を起こしますが、1週間ほどで炎症を収束させて修復を助ける細胞に変わります。

研究チームは、特殊な遺伝子改変マウスを使って、脳内のミクログリアを蛍光で光らせ、脳梗塞を起こした脳から集めて調べることにより、ミクログリアが脳を治し始めるメカニズムを解明することに成功しました。

免疫細胞の働き阻害する物質を特定

そして、この時にもう1つ重要な発見がありました。

ミクログリアが回復力を失うメカニズムです。

研究チームは、脳梗塞を発症して1カ月が経過すると、ZFP384というタンパク質が増え、ミクログリアの回復力を失わせるというメカニズムを発見しました。

TGFβというタンパク質には、壊れた組織を傷跡に(瘢痕化)したり、脳の血管の状態を正常化したり、健常な脳の状態(恒常性)を保つ働きがありますが、TCFβの影響を長く受け続けたミクログリアではZFP384が増えることによって回復力が失われ、脳の機能回復がそこで途絶えてしまいます。

脳の修復を持続させるための研究の概要
脳の修復を持続させるための研究の概要
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研究チームは、ミクログリアの働きを阻害する物質がZFP384であると特定できたことで、ミクログリアの回復力を維持できる方法を見つけることができると確信し、発症1カ月後もミクログリアが回復力を維持できる方法を発見。

さらに、ZFP384を阻害する薬・アンチセンス核酸(ASO-Zfp384)を創り出し、脳梗塞を発症したマウスに発症1か月後に投与したところ、神経のつなぎ目(シナプス)や神経線維を覆う絶縁体(髄鞘)の回復が促進されることによって、神経症状の改善が認められました。

機能回復させる医薬品開発コンセプトの普及を

今後は、脳卒中後の後遺症を減らす薬の開発が期待されています。

また、脳卒中以外の脳の病気にも治療効果が期待できるのかどうかも注目されています。

東京科学大学などの研究チームコメント:
脳は治らない臓器だと考えられがちですが、強い回復力を持っていることが本研究で証明されました。臓器に備わった自然な回復力を失わせずに持続させ、機能を回復させる医薬品開発のコンセプトが世界に普及してほしいと考えています。

この成果は5月13日付(英国時間)の「Nature」誌に掲載されています。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。