失われた“機会”の復活へ…「書店ゼロ」の大田市
「本と触れ合う機会がなくなったのは、本当につらい日々だった」…島根・大田市の楫野市長がそう振り返るほど、市民にとって切実だった「書店ゼロ」の状態が、ようやく終わりを迎えようとしている。
全国で広がる「まちの書店」閉店の波
島根・大田市では、2024年3月に市内で唯一の書店が閉店した。
以来2年間、市民は書店のない生活を余儀なくされてきた。
読みたい本を手に取って選ぶことも、新刊の表紙を眺めながら棚の間を歩くことも、日常の中からすっぽりと抜け落ちた。
全国的に「まちの書店」の閉店・廃業が相次ぐ中、大田市もその波に飲み込まれた一つの街だった。

“書店ゼロ”状態の解消へ…市が誘致へ旗振り
この状況を打開しようと、大田市は2025年に書店誘致を正式に決定。
新たな支援制度を創設し、出店事業者の公募に踏み切った。
応募したのは、松江市に本社を置く「今井書店」の1社。
審査会での審議を経て、今井書店が事業者として正式に選定された。
そして2026年3月27日、大田市役所で調印式が行われた。
楫野市長と今井書店の達山暢会長が覚書を交わし、開店へ向けた準備が本格的に動き出した。

「手に取って触れて選ぶ喜び」市民に“豊かな”日常を
調印式に臨んだ楫野市長は「手に取って触れて選ぶ喜びというのは何ものにも変えがたいものがあると思っていて、それがまさに実現する、その喜びであふれている」と感慨深げに語った。
書店がある、ただそれだけのことがいかに豊かな日常につながっているか、2年間の空白がそれを改めて教えてくれた。

10年で最大5500万円支援へ 市がバックアップ
新たな書店の名称は「今井書店・大田店」。
大田市長久町の商業施設「イオンタウン大田」への出店が決まっており、2026年6月24日のオープンを予定している。
店舗の面積は約290平方メートルで、雑誌や新刊などを扱う総合書店となる。
大田市は、出店および運営にかかる費用として、10年間で最大5500万円を補助する方針だ。
行政が財政面でも責任を持って対応することで、長期的な書店運営を支える仕組みを整えた。

限られた棚に込める思い
今井書店の達山暢会長は、「あらゆる世代の方が、あらゆる職種の方が、それぞれニーズに合わせて本をお選びいただくもの。それほど大きな店舗ではないので、それらすべてをというわけにはいきませんが、あらゆるお客様に喜んでいただける、そんな書店にしたいと思っている」と、新店舗への思いを述べた。
規模は大きくはないものの、地域に根ざした品揃えで幅広い世代のニーズに応える…そんな書店の姿が見えてくる言葉だ。

「文化の拠点」を守る 「まちの書店」復活に期待
書店は、ただ本を売る場所ではなく、“地域の文化的な拠点”でもある。
書店の持つ意味が、2年間の「書店ゼロ」という体験で大田市民にはっきりと刻み込まれたともいえる。
6月24日…イオンタウン大田に「本の灯り」が再びともろうとしている。
