一見“狂気”にも見えるSNS投稿

「今夜、ひとつの文明が滅び、二度と取り戻されることはないだろう」

アメリカのトランプ大統領がSNSで繰り返す、イランへの過激な脅し。

一見すると、あまりに乱暴で、常軌を逸しているようにも見える。だが、その文言を冷静に読み解くと、単なる感情的な恫喝ではなく、イラン社会の「急所」をかなり計算して突こうとしているようにも映る。

トランプ大統領はSNSで過激な言葉を使いイランを脅してきた
トランプ大統領はSNSで過激な言葉を使いイランを脅してきた
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実際、トランプ氏はホルムズ海峡をめぐる対立の中で、イランの発電所を攻撃対象に挙げて揺さぶりをかけてきた。

FNNプライムオンラインでも先月、トランプ氏が発電所攻撃の期限を延長しながら圧力を強める一方、交渉は進んでいると主張したものの、イラン側はこれを否定したと伝えている。

イラン側もインフラ攻撃すれば「地獄の門が開く」と反発
イラン側もインフラ攻撃すれば「地獄の門が開く」と反発

イラン側もまた、「空虚な脅しを恐れない」と強く反発してきた。

 真夏のイランで発電所が止まる意味

では、なぜ「発電所」なのか。

理由は明快だ。電力への打撃は、単に明かりが消えるという話では終わらない。

夏を迎えるイランでは、地域によっては気温が40度を超える。もちろん、冷房が止まること自体も市民生活に大きな打撃だ。しかし、より深刻なのはその先にある「水」の問題だ。

首都テヘランでは、多くの市民が集合住宅で暮らしている。そして、低い水圧を補うため、電動ポンプで上層階まで水をくみ上げている。

AP通信は、テヘラン市民の声として「電気がなければ水がない」と伝えている。料理もできず、衛生も保てず、生活のあらゆる面が止まるという切迫感だ。

人工透析を受ける患者は、停電が命に直結しかねないと不安を口にしている。つまり、発電所への攻撃は、軍や政府だけでなく、一般市民の生命線を同時に締め上げる意味を持つ。

しかもイランはもともと水の余裕が大きい国ではない。

世界銀行のデータでも、イランの淡水取水量は日本を上回る大きな規模で、水資源への負荷は重い。さらにロイターは2025年、テヘランで水圧低下や断水が広がり、水危機が深まっていると報じた。

そこへ電力供給が止まれば、ただでさえ脆弱な日常は一気に崩れかねない。

 断水を見越した圧力

送電網の老朽化も見逃せない。

イラン国内では、すでに電力をめぐる不安が市民の最大の関心事になっているとAPは報じている。つまり、トランプ氏のメッセージは「爆撃するぞ」という単純な軍事的威嚇ではない。

トランプ大統領の“脅し”の先には停電による断水が
トランプ大統領の“脅し”の先には停電による断水が

イラン社会が、真夏の暑さそのものよりも、停電による断水と衛生崩壊に弱いことを見越した圧力だ。市民の忍耐強さを試すのではなく、忍耐では乗り切れない生活インフラを狙っているのである。

「人間の鎖」

だからこそ、イラン側も時に理性的な反論ではなく、極端な動きに出る。

人間の鎖のような、外から見るとエキセントリックに映る行動も、その背景には「発電所が落ちれば社会の底が抜ける」という切迫感がある。

発電所や橋へのアメリカの攻撃に対して“人間の鎖”で対抗
発電所や橋へのアメリカの攻撃に対して“人間の鎖”で対抗

政権のメンツだけではない。水が止まれば、都市生活そのものが立ち行かなくなる。その恐怖が、強硬な対抗姿勢や過剰な演出を後押ししている面は否定できない。

トランプ氏のSNSは、狂気の放言にも見える。

だが実際には、イランの急所である電力と、その先につながる水を狙い撃ちにする、極めて現実的で冷酷なメッセージでもある。

問題は、それが政府中枢への圧力にとどまらず、真っ先に一般市民の命と暮らしを脅かすことだ。発電所への威嚇とは、電気を消すことではない。都市を干上がらせるという脅しなのである。

【執筆 フジテレビ報道局局次長 立石修】

立石修
立石修

テレビ局に務める私たちは「視聴者」という言葉をよく使います。告白しますが僕はこの言葉が好きではありません。
視聴者という人間は存在しないからです。僭越ですが、読んでくれる、見てくれる人の心と知的好奇心のどこかを刺激する、そんなコンテンツ作りを目指します。
フジテレビ報道局次長
鹿児島県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
政治部、社会部などで記者を務めた後、報道番組制作にあたる。
その後、海外特派員として欧州に赴任。ロシアによるクリミア編入、ウクライナ戦争などを現地取材。