岩手県内で春先のクマの出没が急増している。県のまとめによると、2026年1月と2月の出没件数は128件と、前年同時期の約5倍に達した。すでに人的被害も発生し、県は初めて3月に「ツキノワグマの出没に関する注意報」を発表。人里近くで冬眠した個体の増加が背景にあるとの指摘もあり、専門家は生活圏での遭遇に強い警戒を呼びかけている。
出没件数が異例の増加
岩手県によると、2026年に入ってから1月と2月の2か月間で確認されたクマの出没件数は計128件にのぼった。2025年の同時期と比べて102件多く、増加率は約5倍となっている。
また、3月までに県内では2人がクマに襲われけがをしており、前年同期より1人増えた。

こうした状況を受け、県は3月24日、3月としては初めてとなる「ツキノワグマの出没に関する注意報」を発表し、注意を呼びかけている。
人里で冬眠、定着する個体
クマの生態に詳しい岩手大学農学部の山内貴義准教授は、今年の出没状況について「かなり想定より多い」と話す。その要因として、人里近くで冬眠した個体の存在を挙げる。
山内貴義准教授:
人里に近い場所で冬眠してしまい、目覚めたクマが多い可能性がある。
背景には、2025年に相次いだクマの大量出没があるという。
2025年度の県内のクマ出没件数は、2月末時点で9670件と過去最多を記録。特に市街地での出没が目立った。
「昨年多くの個体が出没して、だんだん“人なれした個体”が人里に定着し始めているのを危惧している」と山内准教授は指摘する。
そのうえで、クマが冬眠を終え活動を始めるこの時期について、人里での遭遇に特に注意が必要だと強調する。
山内准教授は「春先早めに冬眠から覚めてしまうと、まだ山に餌がない状態なので、集落周辺をうろつく可能性は十分考えられる」と話す。
近年は、人の生活圏に入り込み、人に慣れた「人なれしたクマ」が増えているとされる。こうしたクマによる被害も増加傾向にあり、生活圏で遭遇するリスクは高まっている。
生活圏で増える人的被害
岩手医科大学のまとめによると、クマによる人的被害のうち、人の生活圏で襲われた割合は、2017年から2019年の3年間では16%だったのに対し、2023年から2025年の3年間では43.6%にまで増加した。

クマに襲われた人の治療にあたっている岩手医科大学の救急専門医・野々口マリア医師は、「山間部ではない場所で、山に行っていない女性がけがをするケースが多くなっている」と話し、人的被害が発生する場所が変化していると指摘する。
クマが人の生活圏に入り込むことで、人的被害も増加傾向にある。
2025年度、県内ではクマに襲われた人が40人にのぼり、前年度より30人増加。このうち5人が死亡し過去最多となった。
命を守る「防御姿勢」
野々口医師によると、クマに襲われた人の負傷部位には共通点があるという。
野々口医師は「顔のけがが8割程度を占め、次いで上腕が多い。顔を守ろうとして腕をけがするケースが多い」と説明する。
致命傷につながりやすい首を守るため、野々口医師は、防御姿勢の重要性を強調する。
野々口マリア医師:
クマに出合ったら、できるだけ小さくうずくまり、首や頭を手で守ってほしい。リュックやカバンがあれば、首と頭を覆うようにすると大きい血管を守る姿勢になる。
岩手大学の山内准教授も、「クマは顔面を狙う習性がある」として、うずくまる姿勢は有効だとする。
県は、農作物や生ごみを屋外に放置しないなど、人里にクマを引き寄せない対策の徹底を呼びかけている。
