地元住民に愛されるベテラン理容師の男性は、2026年1月に火災によって営業ができなくなってしまいました。
ただ、商売道具であるはさみは奇跡的に無傷でした。
孫とともに再起に向かう78歳の再挑戦を取材しました。
「やっぱり早いこと営業再開したい」と話すのは、大阪市で理容室「SALON・SAKURA」を営む中西正人さん、78歳。
この道ひと筋58年の大ベテランです。
その技術と人柄で地元の人に愛されてきました。
しかし、散髪中の手元を照らしていたのは蛍光灯ではなく懐中電灯。
さらにセットされた髪をチェックするのに用いられていたのは、小さな手鏡です。
その訳は、2026年1月に大阪市旭区の住宅街で発生した火災です。
真っ赤な炎と大量の煙を上げ、中西さんの理容室「SALON・SAKURA」も炎に包まれたのです。
理容室「SALON・SAKURA」店主・中西正人さん(78):
(店の)80周年記念をやってすぐに燃えてしまった。下はあんまりやけど、上はもう全部…全然住めん。
2階と3階の自宅部分は全焼。
店舗がある1階は天井が焼け焦げ、今にも崩れ落ちそうで、とても営業ができる状態ではありません。
中西さんが店に入ることができたのは、火災発生から2日後のことでした。
目の当たりにしたのは、父から受け継いだ「SALON・SAKURA」の変わり果てた様子。
当時の心境について、中西さんは「悲しいなんて思わなかった。こんなん悲しんでもしゃーないやん。実際どうにもできないから、だから反対に『くそったれ!なんとかやったるわい!』と思った。お客さんのことを考えたら、本当に早く(店を)立ち上げたいなと」と話します。
火災で営業できない状態でも中西さんは諦めることなく、店の再建に取り掛かったのです。
78歳からの再出発。
まず中西さんが直面したのは、損傷した設備や商売道具の数々でした。
理容室に欠かせないシャンプー台や椅子など、約100万円相当の設備が火事や放水の影響で使えなくなっていました。
そうした中、残ったのは中西さんの相棒ともいえる商売道具、50年近く愛用してきた“はさみ”です。
理容室「SALON・SAKURA」店主・中西正人さん(78):
備品関係が全部アカンわと思ったんですけど、たまたまここに入れてた“はさみ”が雨に当たらなかったから、「うわこれだけでも良かったな~」と思った。
中西さんにとってはさみの存在は「命や、命や。なかったらどうしようもない」といい、「それが残ってくれただけでも『もういっぺんやってみよう』と感じた」と語ります。
78歳での再挑戦を決意させたのは、はさみだけではありません。
常連客の存在も、中西さんの背中を押しました。
理容室の近くで喫茶店を経営する女性は「SARON・SAKURA」に40年通い続けた常連で、「(散髪なら)もう先生(中西さん)だけ!先生いちずというか。(髪を)短くしてくれるから大好きです!ありがたいです。(店を)やってくれたら」と話します。
10年前から通っていたという男性は、「(中西さんは)お父ちゃんみたいな感じ。普通だったら(理容室を)やめる決断を取ると思うが、今朝も会ったが精神的に強い方だと思う。もう一回商売しようという気持ちを持っているのは」と語ります。
常連客からの期待を実現するために大きな力となったのは、「ちっちゃい頃からおじいちゃんに切ってもらっている」と話す孫の岩崎雅弥さん(29)です。
火災発生当時は岡山県で仕事をしていたといいますが、知らせを受け、実家であるこの場所へと車を走らせたといいます。
中西さんの孫・岩崎雅弥さん(29):
(帰ってすぐ)「じいちゃん大丈夫?」と、言葉を発したと同時くらいに前向きな言葉が返ってきた。「もう一回やる」「絶対復活させる」と。
祖父の口から飛び出した力強い言葉。
その思いを受け岩崎さんは動きました。
中西さんの孫・岩崎雅弥さん(29):
「じいちゃん最後の挑戦」ということで、クラウドファンディングに挑戦しようと決めました。
78歳のじいちゃんの最後の挑戦。
営業再開のため、クラウドファンディングで支援金300万円を募集したのです。
取材したこの日は、クラウドファンディングの締め切り日。
中西さんの孫・岩崎雅弥さん(29):
(取材時)今のところ、310万円を突破して、無事達成することができました。じいちゃん(中西さん)の人柄がこういった形(目標金額達成)で表せた。
約1カ月半で目標金額に到達。
この報告を受けた中西さんは「クラウドファンディングってなんや?と言ってたんだけど、1週間でものすごく反響があって、いろんな方々の一言一言に本当に心打たれます。だから余計に『頑張らなアカンな!』と。はっきり言って難局ですが、この難局を乗り越える」と、意気込みを語ります。
常連客の期待と孫の行動力により営業再開へと一歩ずつ近づいていきますが、全てが順調に進む中、中西さんの体に異変が起こります。
火災から約1カ月後の2026年2月にステージ3の食道がんが判明したのです。
現在、抗がん剤治療を受けている中西さん。
それでも、店を再建するという気持ちには一寸の迷いもありません。
理容室「SALON・SAKURA」店主・中西正人さん(78):
やっぱり仕事好きやねんやろな、ほんまに。だから動ける。仕事できるならしなアカン。お客さんが来て、満足していただいて帰ってもらえる。(理容師の)職業は“天職”。(この仕事を選んで)私は良かった。
「年内に営業を再開したい」と意気込む中西さん。
どんな逆風でも前に進み続ける。78歳の再挑戦はこれからも続きます。