イスラエルとともに、イランに大規模な航空攻撃を行った米トランプ政権。イランが石油の大動脈ホルムズ海峡を、事実上封鎖するという手段に出たため、欧州の同盟国などに、タンカーを護衛するよう依頼しようとした。
しかし、各国の反応は、トランプ政権にとっては芳しいとは言いがたいものだった。
なぜ「GBU-57」ではなく「GBU-72」?
こうした状況から、米中央軍(CENTCOM)は3月17日、Xで、ホルムズ海峡近くの海岸線に沿って設けられた、イランの頑丈なミサイル施設のある基地に対し、5000ポンド(約2.3トン)級の地中貫通弾を複数投下したと明らかにした。
使用されたのは、強化コンクリートで地下に埋設された構造物の破壊に使われる、いわゆる「GBU-72/Bバンカーバスター」だと、CNNのペンタゴン担当記者Haley Britzky氏は、自身のXに記述した。
米軍は8メートルの強化コンクリートをも貫通する重量12トン級の超大型貫通弾「GBU-57」を、昨年(2026年)に行ったイランの核施設破壊を目的としたオペレーション・ミッドナイト・ハンマーでB-2Aスピリット・ステルス爆撃機から投下していた。
しかし、19機しか現役機が存在しないB-2Aステルス爆撃機に、この大型爆弾「GBU-57」は1機あたりたった2発しか搭載できない。
当時のイランの防空網を警戒し避けるためには、米軍でも最高のステルス性能を誇るB-2Aの投入を重視したのだろうか。
ところが、今回3月17日に米中央軍が、オペレーション・エピック・ヒューリーで使用した「5000ポンド爆弾」が「GBU-72」であったとすると、機数の少ないB-2Aスピリット・ステルス爆撃機より機数の多い機種に搭載できる貫通爆弾を使うことになったのかもしれない。
今回のオペレーション・エピック・ヒューリーには、去年のミッドナイト・ハンマー作戦には参加していなかったB-1B爆撃機がイギリスのフェアフォード基地に展開し参加している。
62機が現存するB-1BはB-2Aより機数が多く、「GBU-72」貫通爆弾の搭載が可能とされている。
B-1B以外に米空軍では、200機以上が生産されたF-15Eストライク・イーグル戦闘攻撃機にも「GBU-72」は搭載可能だ。
B-2Aに比べればステルス性能は劣るが、B-1BやF-15Eは、機首の下に「スナイパー・ポッド」と呼ばれる装置を取り付け、あまり高くない高度から投下された爆弾や対地巡航ミサイルを標的に精密に誘導できる。
逆に言えば、アメリカ側は、イランの防空レーダーをはじめとする防空ミサイルや対空機関砲システムは、去年より弱体化していると踏んで、B-2A爆撃機のみならずB-1B爆撃機を投入したとも考えられよう。
つまり、去年のオペレーション・ミッドナイトハンマー時に比べて、イランの防空システムや軍用機が米国やイスラエルに叩かれた結果、イラン上空の制空権はそれだけ米国、イスラエル側に傾いていると言えそうだ。
アメリカ軍の制空権はイランの領土上空だけでなく、洋上にも及んでいたのだろう。
イラン革命防衛隊が運航していたドローン母艦で、洋上の巡航ミサイル基地でもあった「シャヒド・マハダヴィ/Shahid Mahdavi 」は、民間のコンテナ船を改造して作られた全長240m、幅27m、総トン数2100トンの軍艦で、2023年にイラン海軍ではなく、革命防衛隊海軍の艦隊に加わった。
多数の偵察・攻撃ドローンを搭載可能で、甲板から弾道ミサイルも発射できるほか、防空システムを搭載している。
同艦は、射程300km~750km、場合によっては最大約1000kmの巡航ミサイルを搭載・発射することができる。また搭載するドローンには、8時間の飛行時間と200kmの作戦範囲を持つ垂直離着陸型ドローン「セペール7」や、最大1300kmの射程を持つ自爆攻撃ドローンが含まれる。
このドローン能力により、偵察、継続的な監視、目標捕捉、そして長距離での精密攻撃が可能になる。さらに、ヘリコプターを5機同時に搭載・運用可能であるうえ、ミサイル艇の支援および輸送も可能であるとされるため、イラン革命防衛隊海軍の攻撃艦隊を支援するための多目的プラットフォームとなっていた。
そんな軍艦が、3月6日までにアメリカ中央軍に撃破されてしまったのである。
ではなぜイランは、ホルムズ海峡を“封鎖”できるのか?
ホルムズ海峡の幅は、もっとも狭いところで約33kmとされており、イランは、小型の高速艇を多数、保有しているため、これらを使って、ホルムズ海峡に機雷を敷設する可能性が考えられる。
従って、機雷を敷設しようとする高速艇には性能としての航続距離よりも、洋上で機動性を発揮して、味方の制空権が怪しくなっている空からの監視、攻撃から逃れることが重視されているのだろう。
米海軍揚陸艦艦隊投入の意図
では、このような高速艇にどのように対処するのか?
アメリカ海軍は3月17日現在、シンガポール沖を通過した強襲揚陸艦トリポリ(LHA 7)を中心とする艦隊を中東に向かわせているが、中東に向かっているアメリカの揚陸艦部隊と海兵隊はそれだけではない。
3月20日までには、総勢約2500人の第11海兵遠征部隊を乗せたボクサー強襲揚陸艦群が米本土西海岸から出発した。
3隻の揚陸艦からなる同艦隊は、上陸作戦を行う海兵隊員を輸送するだけではない機能を持っている。
強襲揚陸艦ボクサー(LHD 4)は、空中停止や低速飛行が可能なF-35BライトニングⅡステルス戦闘機やAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプター、MV-22Bチルトローター輸送機、CH-53大型輸送ヘリコプターなどを多彩な航空機運用能力を持つことから“ミニ空母”とも呼ばれている。
そして、2020年に搭載したレーザー兵器でドローン撃墜試験に成功し、上陸用の大型ホバークラフトを搭載したサンアントニオ級ドック型揚陸艦「ポートランド」(LPD 27)。
さらに、ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦「コムストック」(LSD 45)の3隻から構成されていた。
つまり、米国はホルムズ海峡の安定や、イランの石油積み出し拠点カーグ島の占拠も視野に入れ、空と地上に展開させるため総勢4500人規模の米海兵隊を移動させているということだろうか。
もちろん、これは単にイランに対する牽制かもしれないが、気になる賭けでもある。イランは、3月20日、イランから約4000km離れたインド洋のディエゴガルシア島に弾道ミサイル2発を発射した。
いずれも、B-52H等、米空軍の重爆撃機の中継基地があることでして知られるディエゴガルシア島に弾着しなかったが、4000kmも飛ぶ弾道ミサイルをイランが保有しているとなると、NATO欧州諸国に届く可能性も浮上、無視できなくなるかもしれない。
熱源追尾ミサイルで米ステルス戦闘機に反撃か
イランの反撃は、ドローンや弾道ミサイルによるものだけではなかった。アメリカが誇るステルス戦闘機にイランが攻撃を仕掛けたという事例が発生したのである。
「米空軍のF-35A戦闘機が3月19日、イラン上空での戦闘任務中に地上からの攻撃を受け、米空軍基地に緊急着陸を余儀なくされた。(中略)イラン革命防衛隊は同日、F-35戦闘機がイランの防空システムによって標的にされ、撃墜される様子を映したとされる動画を公開した。」(Air & Space Forces Magazine 2026/3/19付)というのである。
米軍事専門誌のDefense News(2026/3/20付)は、イラン革命防衛隊が公開した映像を分析した上で、「(F-35Aの)機体は破壊されていなかった。スローモーションで再生すると、F-35は爆発後も飛行を続け、機体の構造も完全性を維持しており、パイロットが交戦空域から脱出して基地に帰還できたことが確認できる。イラン当局は、この出来事を米国のステルス機に対する攻撃の成功とし、墜落の可能性が高いと示唆したが、この主張は入手可能な映像証拠や米国の確認によって裏付けられていない。(中略)技術評価では、Qaem-118のような短距離赤外線誘導ミサイル・システムが使用される可能性が示唆されているが、これは独自に確認されていない」と報じた。
Qaem-118とは、イラン国産の車載式5連装赤外線誘導地対空ミサイル・システムだ。射程は25km程度とされる。
つまり、標的をレーダーで捕捉することに頼るのではなく、敵航空機の熱源を追尾するパッシブ赤外線(IR)誘導式地対空ミサイルが使用された可能性があるということだ。
したがって、今回の事例ではF-35Aが無事であったとしても、将来、赤外線誘導ミサイルがF-35Aを傷つける至近距離で爆発する可能性はないのか。そうなっても問題は起きないのか。
また、今回、イラン側が事後に発表した映像と解説に、今回は素早く適切に反応した米軍事専門メディアがあったわけだが、今後もできるのかどうか疑問が残る。
その後、アメリカ中央軍は、3月23日に「虚偽:イラン政権が最近イラン上空で米国のF-15戦闘機を撃墜したという噂がある。 真実:米軍はエピック・フューリー作戦中に8000回以上の戦闘飛行を行った。イランによって撃墜された米軍戦闘機は1機もない」と発表した。
一般論だが、反応・反論が遅れれば、事実と異なる主張がまかり通ってしまう可能性も出てくるだろう。日本も、航空自衛隊がF-35A戦闘機、そしてF-35B戦闘機を導入するため、気に掛かるところだ。
飽和攻撃に弱い米戦略防空レーダー網
イランは2月28日、米国とイスラエルによる航空攻撃や爆撃への報復として、カタールにある米軍施設に対しミサイルとドローンによる攻撃を行った。
標的となったのは、米国の戦域早期警戒・指揮ネットワークに関連する装備だ。
中東最大の米軍基地であり、米中央軍(CENTCOM)の作戦拠点でもあるアル・ウデイド空軍基地周辺で爆発が報告された。
軍事技術専門サイト(TurDef 2026/ 3/1付)によると同基地には、AN/FPS-132ブロック5弾道ミサイル早期警戒レーダーをはじめとする重要なセンサーが設置されていたという。
AN/FPS-132は戦術的な戦場レーダーではなく、米国の世界的なミサイル探知ネットワークの中核を成す、限られた数の戦略早期警戒レーダーの一つだ。
5000km近い探知距離があり、弾道ミサイルの発射を探知し追尾するように設計されている。ミサイル防衛システムが発射された弾道ミサイルの迎撃軌道を計算するために不可欠な、発射早期探知および追跡データを割り出す。
AN/FPS-132のような地上配備型早期警戒レーダーは、米宇宙軍のSBIRS衛星で構成される宇宙配備型赤外線探知システムを補完し、発射探知後も継続的な追跡と軌道修正を行う。
しかし、「これらのレーダーは固定式の戦略施設であるため、迅速な移設や交換が不可能であり、移動式ミサイル防衛システムに比べて本質的に脆弱であると同時に、性能が低下した場合の復旧もより困難になりがちだ」(軍事技術専門サイトTurDef 2026/ 3/1付)。
米国とカタールの防空システムは飛来する複数の飛翔体を迎撃したと報じられているが、インターネット上には、AN/FPS-132レーダーが攻撃により損傷を受けたとする未確認の画像も出回った。
これらの画像が正しいとすれば「今回の攻撃には、固定された戦略インフラを攻撃するために特別に設計された準中距離弾道ミサイルに加え、迎撃を困難にするために使用された無人航空機システムが関与していた可能性が高い。
高速弾道ミサイルやドローンによる飽和攻撃シナリオにおいて、固定された高価値センサー施設が本質的に脆弱であることを示した。特に機動性の高い再突入体や高速の終末段階目標に対しては、いかなる防空システムも100%の迎撃を保証することはできない」(軍事技術専門サイトTurDef 2026/ 3/1付)
つまり、弾道ミサイルの発射監視、追尾を行う巨大で固定された戦略防空レーダーは、「高速弾道ミサイルやドローンによる飽和攻撃」に弱いということである。
日本もカバーする米戦略防空レーダー網
これは、東アジアでも、無視できない問題を引き起こす。
台湾では、カタールのAN/FPS-132レーダーが攻撃されたとの報を受ける形で「台湾も楽山レーダー基地で同種のレーダーシステムを使用しており、その探知範囲は東アジアのほぼ全域に及ぶ。このため、台湾はカタールへの攻撃から学び、楽山レーダー基地周辺の防衛システムを強化すべきだ」との意見も報じられる(FORMOSA NEWS 2026/3/5付)ようになり、具体的には「対ドローンシステム、NASAMS対空ミサイルシステム、そして35mm速射砲を含み、あらゆる対ドローン対策と防空対策を強化するべきだ」というのである。
楽山レーダー基地は台湾西部の標高2620メートルの楽山頂上に位置し、探知範囲は4000km以上とも5000kmとも言われ、南シナ海全域をカバーしているとされる。
つまり、中国本土から発射されるミサイルだけでなく、南シナ海に潜む中国軍の戦略ミサイル原潜に搭載されているJL-2、JL-3潜水艦発射弾道ミサイルの発射を探知、追尾し、どこに着弾しそうかも割り出す性能を備えていることになる。
JL-2ミサイルの射程は、7000km~9000kmとされ、性能上は、南シナ海から、日本やオーストラリア、インド等が射程となりかねない。
JL-3ミサイルは、推定射程1万2000km~1万4000kmとされ、ワシントンDCやロンドン、パリにも性能上は届き得ることになる。
それを見張る性能があるのが、楽山レーダー基地のレーダーだけということになりかねない。
さらに、アラブ首長国連邦(UAE)のアル・ルワイス米軍基地のTHAAD(終末高高度防衛)のレーダーシステム「AN/TPY-2」もイランの攻撃を受け、ヨルダンのムワッファク・サルティ空軍基地のTHAADレーダー「AN/TPY-2」も攻撃で破壊されたという。
これらは、THAAD迎撃ミサイル・システムのレーダーであり、弾道ミサイル等の監視・追尾は、870km~3000kmの範囲で出来るとされる。
AN/TPY-2レーダーは可搬式で、地面に固定されているわけではないが、容易に動かすものではない。
しかし、普段から移動して使用するものとは考えにくいため、固定式大型レーダーと同様の問題を抱えそうだ。
このように、大型レーダーに共通する重大な弱点が、イランの報復攻撃によってさらけ出されてしまったのだとすれば、日本にアメリカ陸軍が展開しているAN/TPY-2レーダー含め、日本防衛にとっても、無視できないことではないだろうか。
(フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)
極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」 日本のミサイル防衛を無力化する新型兵器


