地球上どこにでも届くICBM
2026年5月12日、ロシア国防省は、RS-28サルマト重ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射試験に成功した、とプーチン大統領に報告した。
射程3万5000km以上とされるRS-28サルマトは、性能上、アメリカ本土や欧州、南米、オーストラリア大陸など、一周約4万kmの地球上どこへでも届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)だというだけではない。
その先端には、核弾頭を内蔵した極超音速滑空体アヴァンガルドを搭載できる。
アヴァンガルドは、最高速度マッハ27以上の極超音速で飛行可能な滑空体(グライダー)で、単純な楕円軌道を描かず、左右上下に機動して、西側のミサイル防衛を避けるようにして、標的を目指すとされる。
さらに、5月21日には、ロシア国防省は、最近実施された戦略核兵器部隊の演習だとする映像をリリースした。
“核兵器”見せつけるロシア
その中には、広島に投下された原爆(約15キロトン)の10倍以上の威力(200キロトン)を持つ核弾頭を内蔵するMIRV(複数個別誘導再突入体)を最大10個搭載し、1万1000km以上先に飛ばすことの出来るRS-24 ヤルス大陸間弾道ミサイルの部隊が姿を現していた。
そして、1発あたり最大爆発威力150キロトンの核弾頭を6~10個内蔵可能なRSM-56ブラバ潜水艦発射弾道ミサイルを16発搭載可能とされるボレイ級戦略ミサイル原潜の姿もあり、ミサイルが海中から、打ち上げられる様子も披露した。
核弾頭を内蔵した巡航ミサイルを最大16発搭載可能なTu-95MSベアH爆撃機は、しばしば、日本周辺にも姿を現す爆撃機。
核/非核両用で、射程2000㎞とされるKh-47M2キンジャール空中発射弾道ミサイル(極超音速空対地弾道ミサイル)を搭載したMiG-31Kの姿もあった。
ロシアは、核弾頭を搭載せずに、さまざまな“核兵器”とその即応態勢を、これでもかと言わんばかりに見せつけているようだった。
だが、ロシアは、見せつけるだけではなかった。
中距離弾道ミサイルをウクライナに
ロシアは、5月24日、ドローンや、中距離弾道ミサイル「オレシュニク」などのミサイルで、ウクライナの首都、キーウ周辺を攻撃した。オレシュニクは、大気圏外に出た後、最大6個のMIRV(複数個別誘導再突入体)で地上を狙う。
そして、オレシュニクのMIRVは、核弾頭も内蔵可能とされる。オレシュニクの射程は、3500~5470kmとされ、アメリカ本土やカナダには届かないものの、ロシアの同盟国、ベラルーシにも2025年に配備されたことにより、NATO欧州諸国のほとんどに届くことになったとされる。
ロシアは、核兵器大国。
ウクライナでの戦いを継続しながら、ロシアは、自らが、破壊力の大きさから、「絶対兵器」(The Absolute Weapon:Atomic Power and World Orderバーナード・ブローディ編著1946年 米国防総省国防技術情報センター所蔵)とも定義された“核兵器の大国”であることを、いまも、ウクライナや西側諸国に示そうとしているのだろうか。
だが、「核兵器」は、ヒロシマ、ナガサキの未曾有の悲劇から80年が過ぎた今も、「絶対兵器」なのか。
“戦略兵器”は、「核兵器」でなければならないのだろうか。
ちなみに、ケンブリッジ辞書によれば、戦略兵器は「遠距離から敵を打撃するように設計された兵器」と定義されていて、“核”とは書かれていない。
では、核兵器ではない戦略兵器はありうるのか。
トルコが開発した射程6000キロのミサイル
2026年5月、トルコで開催されたSAHA国防技術展示会で、トルコは、同国国防省研究開発センターで開発中の国産ミサイル「イルディリムハン」の全長17.5メートル、直径1.5メートル、四基の噴射口を持つ巨大な実物大模型を展示した。
射程: 6000 km
スピード: マッハ9~25
推進剤の種類: 四酸化窒素 / ジアゾト四酸化窒素(N₂O₄)
弾頭: 3000 kg
1979年の米ソSALTⅡ(米ソ第二次戦略兵器制限条約)以降、地上発射弾道ミサイルのうち、射程5500km以上のものをICBM(大陸間弾道ミサイル)と定義することになった。
イルディリムハン・ミサイルの開発を進めるトルコ国防省研究開発センターのクズル所長も「ユルドゥルムハンは射程6000キロメートルの大陸間弾道ミサイル」でトルコ初の国産ICBM計画であることを認めている。
非核ICBMイルディリムハンとは
現在、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有している国家は、国際条約(核拡散防止条約:NPT)で核兵器保有を認められている米・露・中の他、インド、イスラエル、北朝鮮が、配備中、または、開発中とされ、合計すると6カ国。
これらの6カ国のICBMは、核兵器とすることが前提と推定される。ところが、NPT条約加盟国のトルコのイルディリムハン計画は、非核のICBMということが前提である。
イルディリムハンは、どんなミサイルなのか。
トルコは、想定されるイルディリムハンの運用方法をコンピューター・グラフィックスで明らかにした。
イルディリムハンには、非核であること以外にも、これまでの弾道ミサイルの常識を覆すような興味深い点がいくつかある。
イルディリムハン・ミサイルの開発を進めるトルコ国防省研究開発センターのニリュフェル・クズル所長は「イルディリムハンは、射程6000キロメートルを有する極超音速の大陸間弾道ミサイルである」と説明した。
極超音速のICBM
「後部には4基の液体燃料ロケットエンジンを備え、内部にはUDMH(非対称ジメチルヒドラジン)と四酸化二窒素から成る推進剤が使用されている。現在の計画では、速度は大気圏内でマッハ9、大気圏外ではマッハ25に達する見込みである」とも説明したのである。
極超音速とは、マッハ5を超える速度のことだが、極超音速ミサイルとは、極超音速で飛翔するだけでなく、楕円軌道を描いて標的の上に弾頭を落下させる従来の弾道ミサイルと異なり、ミサイル防衛をかわすように、軌道を上下左右に変化させながら飛ぶミサイルを指す。
そして、大気圏外でマッハ25に達すると、人工衛星が地球の周りを回り続ける速度である第一宇宙速度(約マッハ23)を超え、衛星軌道にのってしまうことになる。衛星軌道上の飛翔体は、飛び方が比較的予測しやすく、敵の迎撃システムに捕捉・迎撃されやすくなるかもしれない。
イルディリムハン・ミサイルの説明CGでは、四つの噴射口をブースターの後部から露出したエンジンごと、同時に、偏向させ、進行方向を変える様子が説明されていた。速度が第一宇宙速度を微妙に超えても、ミサイルの進行方向を調整し、敵の迎撃システムを避けるのにも有効かもしれない。
従来の米露中印などのICBMまたは、中距離弾道ミサイル(IRBM)は、重ねたロケット・ブースターの上に、取り付けられた先端部(弾頭)があり、ブースターの噴射で上昇した後、先端部(弾頭)は、噴射終了後、軽くなったブースターに振り回されないようにブースターから切り離される。
ブースターごと標的に
そして、先端部(弾頭)は、慣性の力で標的に向かい、最終段階では、地球の重力に引かれて落下する。標的に向かって加速するような噴射は行われない。
ところが、イルディリムハン・ミサイルには、重量3トンもの弾頭部がありながら、ブースターを切り離さず、噴射して標的に向かう。
つまり、噴射の向きを変え、敵の防空網を避けながら、弾頭部だけではなく、ブースター込みの重量を加速して、標的に命中。ブースターに推進剤となる燃料が残っていれば、それも、標的を破壊するエネルギーにかえることになるのだろう。
液体燃料も自主開発
前述のトルコ国防省研究開発センターのクズル所長は「液体燃料は、これまでトルコ国内では生産されていなかった分野の製品であった」と話す。
「我々は約10年前から、ユルドゥルムハンに搭載されるエンジンおよび補填材について研究を進めてきた。(中略)液体燃料ロケットエンジンの製造は、長年取り組んできた分野である。しかし、推進剤の量産化は極めて困難な工程であった。・・(中略)この基盤技術の研究開発は、約10年の歴史を持つ」として、イルディリムハン・ミサイルの開発が、トルコ国内で時間を掛けて、行われていることを強調した。
ミサイル輸出はMTCR違反とならず
トルコは、核兵器等の大量破壊兵器不拡散の観点から、大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与し得る関連汎用品・技術の輸出を規制することを目的とする「ミサイル技術管理レジーム(MTCR)」の参加国だ。
従って、射程300キロメートル以上のミサイルや、その開発に使用されうる資機材・技術の移転は、事実上、認められない。
しかし、トルコが、外国に依存せず、イルディリムハン・ミサイルを自前の技術で開発・生産・配備を行い、輸出を行うなら、MTCR違反ともならないだろう。
射程6000キロは核への抑止力になるのか
だが、軍事・外交上、注目されるのは、やはり、その6000㎞という射程だろう。
トルコは、NATOの一国であり、アメリカの核爆弾を国内のインシュルリク基地に預けられていると、しばしば、指摘されている。
そのうえで、非核ミサイルとは言え、イルディリムハンICBMの射程が6000㎞となると、他国の核兵器に対するトルコ独自の抑止力となるのかどうか。性能上は、トルコ国内から、ロシアのモスクワやサンクトペテルブルグ、核兵器開発の疑いを米国に持たれているイランのテヘランも射程内だが、平壌や北京は射程外となるようだ。
トルコのエルドアン大統領は、イルディリムハン・ミサイル計画発表の9日後、カザフスタンに飛んだ。
同地で開かれるトルコと中央アジアのテュルク(トルコ)語系国家を中心とした国際協力組織「テュルク諸国機構:OTS」の非公式首脳会合に出席するためだった。
OTSの加盟国は、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス。オブザーバー国には、ハンガリー、トルクメニスタン、北キプロスが名を連ねる。
トルコは、前述のMTCRの規定から、イルディリムハン・ミサイルそのものや、その技術を他国に輸出することはできないだろう。
しかし、イルディリムハン・ミサイルを装備したトルコ軍部隊が、OTS諸国のいずれかの国と合意の下で、将来、展開する可能性はないだろうか。OTSの中には、中国と国境を接する国もある。
イルディリムハン・ミサイル計画の成否は、日本の将来の安全保障にとっても、気に掛かることになるのかもしれない。
(執筆:フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)
極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」 日本のミサイル防衛を無力化する新型兵器
