米軍とイスラエルの当局によると、イランは20日インド洋のディエゴガルシアにある米英共同基地に向けて射程4000kmの弾道ミサイル2発を発射した。1発は防空ミサイルで撃墜され、もう1発は途中で墜落し、攻撃自体は成功しなかった。
しかし、この「失敗した攻撃」が持つ意味は小さくない。
ディエゴガルシアは、B-2ステルス爆撃機に加え、長距離戦略爆撃機B-52の展開拠点でもある米軍の要衝基地だ。中東やアジアへの遠距離打撃を支える中核的存在である。
そこに対して、約4000km離れた地点からミサイルが放たれた――この事実そのものが、各国に衝撃を与えた。
従来、イランのミサイル射程は2000km程度と見られてきた。だが今回の攻撃は、その想定を大きく上回る能力の存在を示唆した。結果として、ロンドン、パリ、ベルリンといった欧州の主要都市が、現実の射程圏内に入ることが明確になった。
NEW: Iran launched two ballistic missiles targeting the US-UK base at Diego Garcia in the Indian Ocean on March 21, marking the furthest ever attempted Iranian missile strike. The attack demonstrated that Iranian missiles can reach beyond the 2,000-kilometer limit that the regime… pic.twitter.com/TVzUdjOmSc
— Institute for the Study of War (@TheStudyofWar) March 22, 2026
欧州の安全保障関係者の間では動揺が広がっている。「誰も予想していなかった」との声が上がり、ある分析ではローマまで含めた広範な地域が攻撃可能圏に入るとの見方も出ている。これまでのミサイル防衛の前提そのものが揺らぎかねない状況だ。
イランの“未公表の能力”
さらに衝撃を増幅させているのは、この攻撃が単なる示威行動ではない可能性である。
専門家の間では、今回使用されたミサイルが改造型、あるいは宇宙ロケット技術を転用したものであるとの見方が出ている。弾頭重量を軽減することで射程を延ばした可能性も指摘されており、イランが未公表の能力を依然として保持していることを示唆する。
実際、イランはこの戦争でまだ全ての戦力を投入していないとみられている。新型中距離ミサイルや強化型のホッラムシャフル系列を段階的に使用する一方で、対艦巡航ミサイルや高性能ドローン、さらには長距離兵器の一部は温存されている可能性がある。
とりわけホルムズ海峡を巡る攻防では、これらの兵器は軍事的意味を超え、世界経済に直接打撃を与える手段となり得る。実際、イランは海峡の通航を事実上左右し、原油価格の高騰を通じて戦場の外にも圧力をかけている。
欧州にとっての衝撃は、単なる軍事的脅威にとどまらない。エネルギー供給、海上輸送、そして自国領土の安全が同時に揺らぐ構図が浮かび上がった。
“4000km攻撃”が示す“戦争の射程”
そしてもう一つ、見逃せないのがイラン側の認識である。ウォールストリート・ジャーナルによれば、テヘランは現時点で「自らが勝っている」と判断している。ミサイル攻撃を継続する能力、エネルギー市場への影響力、そして相手側の政治的制約――これらを踏まえれば、時間は自らに有利に働くという計算だ。
そのためイランは、停戦の条件として賠償や米軍撤退に加え、ホルムズ海峡を「通行料徴収の拠点」とする構想まで打ち出している。軍事と経済を一体化させた戦略といえる。
もっとも、この「勝利認識」は危うさも伴う。過去のイランは、戦略的妥協の機会を逃し、結果として損害を拡大させた歴史を持つ。
また、米国やイスラエルが依然として軍事的優位を維持している以上、戦況が急変する可能性も排除できない。
それでも今回の4000km攻撃が示したものは明白だ。この戦争はもはや中東の枠に収まらず、欧州、さらには世界全体の安全保障と経済に直接関わる段階に入っている。
ディエゴガルシアに向けて放たれたミサイルは、単なる一撃ではない。それは「この戦争の射程」そのものが拡大していることを示すシグナルと映る。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
