北朝鮮が今月発射試験を行った「火星-11ラ」弾道ミサイルについて、日本のミサイル防衛にも影響しかねない気になる情報が入ってきた。
かなり違う「火星-11」と「火星-11ラ」
北朝鮮は4月19日、金正恩総書記父娘立ち会いのもと、「改造戦術弾道ミサイル『火星-11ラ』型の戦闘部(=弾頭)威力評価のための試射」を実施した。(朝鮮中央通信4月20日付)
通常の弾道ミサイルは、ロケットで打ち上げ、噴射終了後は、弾道軌道(≒放物線)を描き、標的の上に落下する。
ところが、オリジナルの火星-11弾道ミサイルは、噴射口に中のトリムベーンと呼ばれる噴射の向きを偏向できる装置を持ち、日米韓などのミサイル防衛網を避けるように通常の弾道ミサイルと異なる“変則軌道”とも呼ばれる軌道を描いて標的を目指す。
そして、北朝鮮メディアは2023年、北朝鮮が“核弾頭”と呼ぶ「火山31」を火星-11/KN-23に装着する方針であることを明らかにしていた。
北朝鮮としては、火星-11/KN-23をミサイル防衛突破可能な“核ミサイル”にしたいのだろうか?
ロシア軍に渡った火星-11/KN-23
だが、北朝鮮にとって、火星-11/KN-23は単なる軍事上の兵器に留まらないのだろう。
2024年に、ロシア軍がウクライナに使用した弾道ミサイルの残骸をウクライナ当局で調査したところ、ロシア製ではなく北朝鮮製のKN-23、つまり火星-11変則軌道弾道ミサイルであることが判明した。
火星11/KN-23変則軌道弾道ミサイルは、北朝鮮とロシアの関係にとっても、重要な外交手段の一翼を担うものだったことが分かる。
小型化した「火星-11ラ」は4連装可能に
この年(2024年)、北朝鮮は、火星-11/KN-23変則軌道ミサイルを小型化した火星-11ラ弾道ミサイルとその移動式発射機を大量に配備した。
従来の火星-11/KN-23ミサイルは、1両の移動式発射機に2発セットしていたが、小型化した火星-11ラは、移動式発射機1両に4発セットできる。
火星-11ラ弾道ミサイルは、2022年4月の試験で飛距離110km、到達高度25kmを記録していたが(38NORTH 2024/5/29付)、2024年5月の試験では飛距離約300kmを記録したと韓国軍が発表している。
小型化した火星-11ラ弾道ミサイルに、北朝鮮が火山31“核弾頭”を搭載する計画があるのかどうかは不明だ。
「散布戦闘部と破片地雷戦闘部」の試験
しかし、前述の4月19日の火星-11ラ改造弾道ミサイルの発射試験で、従来なかった“弾頭”である「散布戦闘部と破片地雷戦闘部」を試験したことを北朝鮮メディアは強調していた。
火星-11ラに取り付けられていた“散布戦闘部”と“破片地雷戦闘部”とは一体何だったのか?
今年3月以降、イランから発射された弾道ミサイルの弾頭部分が、イスラエルに着弾する前に空中で多くの小さな光を放っているのが分かる。
弾頭から、複数のクラスター(子爆弾)が放たれたのだ。
「従来型の弾道ミサイルは、数百kgの爆薬を搭載した弾頭を備えている。直撃すれば建物が倒壊し、近隣の多くの建造物に甚大な被害をもたらす可能性もある」(イスラエル HAARETZ紙 3/12付)と報じられている。
イランの弾道ミサイルの弾頭から放たれたクラスターには、1個あたり爆薬が1.8~5.0kg(TWZ 4/4付)充填されていると言われている。
例え小さくとも、その威力は1個でも無視できるものではない。乗用車程度なら簡単に吹き飛ばされてしまう。
「イランの典型的なクラスター弾頭には、20個から30個のクラスターが搭載されていると報じられている」(TWZ 2026/4/4付)。「しかし、ホラムシャール・ファミリーのような大型ミサイルには、最大80個のクラスターを搭載できると言われている」(TWZ 2026/4/4付)というのだ。
そして、「イスラエル当局は、イランの弾道ミサイルが約7kmの高度で弾頭を放出したと発表した。クラスターは直径約16kmの範囲に拡散した」(TWZ 4/4付)という。
また「1発のミサイルから発射されたと推定されるクラスターが、直径約27kmの範囲内にある7つの居住地域に着弾した」事例も報じられている(イスラエル HAARETZ紙 3/12付)
ミサイル防衛に挑戦するクラスター
このように、クラスターを多数装填された弾道ミサイルは、広範囲に被害を与えるだけではない。
もうひとつの懸念はミサイル防衛への挑戦だ。
「イランは高高度でのクラスターを弾頭から放出することにより、イスラエルの弾道ミサイル防衛網を突破している」(TWZ 4/4付)との分析も米国の軍事専門メディアで見かける。
「弾頭がクラスターに分散されると、(ミサイル防衛システムにとって)一つの大きな標的が突然、数十個の小さな標的に分裂するのだ」。
従って、イスラエル国産のデービッズ・スリング迎撃システム用の「スタナー(迎撃ミサイル)と同様に、非常に高い高度でのクラスター放出は、パトリオットのような下位レベルの終末段階防衛システムによる迎撃を完全に不可能にするだろう。」(TWZ 4/4付)というのである。
ちなみに、弾道ミサイルから放出される爆発物には、クラスター以外にMIRV(複数個別誘導再突入体)やMaRV(機動再突入体)などもある。MIRVやMaRVには機動して個別に標的を目指す高度な機能が備えられているが、そのような機能はクラスターにはない。
ただ、飛行中にばら撒くだけのクラスターは、MIRVやMaRVに必要な高度な技術は不要で、比較すればコストも格段に安いと考えられる。
朝鮮中央通信(4/20付)は、前日の試験発射について、改修された火星-11ラ「戦術弾道ミサイルに適用する散布戦闘部と破片地雷戦闘部の特性と威力を実証するところにある」とその目的を明記していた。
「136km離れた島の目標を中心として設定された標的地域に発射した5基の戦術弾道ミサイルは12.5~13ヘクタールの面積を非常に高い密度で強打した」という。
12.5~13ヘクタールとは、サッカー場約19面分にあたる広さだ。
「北朝鮮は今回の火星-11ラ型試験発射の射程距離を『136km』と指摘。 北朝鮮軍第2軍団の駐屯地である開城(ケソン)からソウルと首都圏はもちろん、平澤(ピョンテク)米軍基地まで打撃圏内に置ける距離」(韓国紙:毎日経済2026/4/20付)だと報じられている。
北朝鮮がイランの戦争で学んだ現代戦
さらに、クラスター弾頭についても「広範囲·無差別殺傷兵器」と指摘したうえで、「北朝鮮がロシア·ウクライナ戦争とイランの戦争を経て学んだ現代戦の教訓を武器体系開発に適用しているという評価も出ている。
前方から奇襲的にクラスター弾を発射し、韓国軍の防空網に過負荷を起こす低コスト·高効率の『混ぜて撃つ』戦略を具体化している」との分析を紹介している。
クラスター弾頭によって「防空網に過負荷を起こす」ということが、イラン=イスラエルの戦いで事実上、実証され、それを北朝鮮が応用し始めたというなら、それは韓国の防衛のみに留まるとは言えなくなるのではないだろうか。
日本を射程にしうる弾道ミサイルも北朝鮮にはあるからだ。
(執筆:フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)
極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」 日本のミサイル防衛を無力化する新型兵器


