教義で輸血の拒否が定められてきた、キリスト教系新宗教の「エホバの証人」が20日、手術などに備えて自らの血液を採取・保存し、後に体内へ戻す「自己血輸血」について解禁する方針を示したことが分かった。一方で、他人の血液を用いる輸血は禁止を維持されたままだ。
「自分の血は自分で判断」 教団が方針転換
今回の変更は、教団の最高意思決定機関「統治体」が、信者向けのビデオメッセージで打ち出した。
教団幹部は動画内で、「よく祈ってじっくり聖書を調べた結果、医療目的での自己血の使用に関する見方を調整することにしました」と説明。「これからは医療目的での自己血の使用については全面的にクリスチャン一人一人が自分で判断されることになります」と話した。
その上で、事前に採血して保存し身体に戻す「貯血式」などについて、信者の選択の余地が認められるとした。それらの根拠として、「聖書には、自分の血を医療目的で使うことについては特に何も書かれていません」と説明した。
今回認められた自己血輸血は、感染症や拒絶反応のリスクを抑えられる一方、事前準備が前提となるため、事故や急病による大量出血には対応が難しいとされる。
約920万人の信者 輸血拒否で知られる教義
エホバの証人は1870年代にアメリカで誕生し、教団のホームページによると、世界で約920万人の信者がいるという。聖書の「血を避けるべき」とする記述を根拠に、輸血を受けないという立場をとってきた点が大きな特徴だ。
これまでも、透析のように血液を一時的に体外に出して戻す医療行為などは認める一方、体外で保存した血液の使用は原則否定するなど線引きを行ってきた。
今回の見直しは限定的ではあるものの、輸血を巡る教義の運用を緩和する動きとして、BBCやAP通信など各国メディアが報じるなど、世界的に注目されている。
輸血拒否めぐり続く議論 最高裁判断と虐待指針
日本でも、教団の信仰と医療の関係は長年議論されてきた。
1985年には川崎市で、交通事故で重傷を負った男児について、信者である両親が輸血を拒否し、結果的に死亡したケースが注目を集めた。その後、別の事件で、最高裁が宗教上の理由による輸血拒否は、患者の自己決定として尊重されるべきだと判断していた。
一方、厚生労働省は2022年、宗教的理由で保護者が子どもに必要な医療を受けさせない場合、虐待に該当し得るとする指針を公表していた。
元信者から賛否 「説明責任を」「不十分」との声
今回の変化を、元信者らはどう捉えているのか。
自らも輸血拒否を強制されたという元2世信者の40代女性は、「手術など事前に予定が決まっている場合には救われる面がある」と評価する一方、自らは長年、「『体外に一度出た血液を再度、体内に入れることは聖書で禁じられている』と教え込まれてきた」と振り返る。「聖書の言葉は何も変わっていないのに、解釈次第で教義が変わってしまうことに腹立たしい思いを感じている」と話した。
かつて教団で幹部を務めていた根尾啓太さん(仮名)は、「大きな変化ではあるが、これまで輸血を拒んで亡くなった信者は少なくない。そうした人たちや遺族に対し、教義の解釈変更をどう説明するのか、教団は向き合う必要がある」と話した。
また、「エホバの証人問題支援弁護団」の田中広太郎弁護士は、「自己血輸血を認めるのであれば、他人の血液による輸血も含めて、より広く選択を認めるべきではないか」と述べ、全面的な見直しの必要性に言及した。
元信者らでつくる団体「JW児童虐待被害アーカイブ」も、「子どもや若者の命を守る観点から、過去の問題についての検証を行い、被害者への説明責任を果たすこと、ならびに賠償を含める対応を求める」とのコメントを発表した。
(フジテレビ 松岡紳顕)
