「本当は自分で産みたかった」
がんで子宮を摘出した女性に残されたのは、凍結保存された5つの受精卵だった。夫婦が選んだのは、国内では実質的に認められていない代理出産。遠くジョージアの地で育つ命を信じて、待ち続けている。一方、国内では昨年、一部の代理出産が処罰対象になる法案に動きがあった。私たちの子は“非合法”と見なされてしまうのか――。
夫婦がたどった葛藤と希望の道のりを追った。
遠国の我が子
その夫婦の元には、月に一度、海外から1本の電子メールが届く。
送信元は、欧州とアジアの境界に位置する国、ジョージア。添付された動画を開くと、黒い背景の中で、淡い白色のソラマメのような輪郭が脈打った。
「あ、動いた」
埼玉県内の自宅で、黒木優美さん(40)と、夫の裕太さん(46)=ともに仮名=が、スマートフォンの小さな画面をのぞき込む。
数千キロ離れた異国の地で、見知らぬ女性の子宮で育つ「我が子」のエコー動画。夫婦の指先が、ガラス画面に映る命の鼓動をそっとなぞった。
未来を誓った二人
二人は約10年前に出会った。
裕太さんが営む飲食店に、優美さんが客として通い始めたのがきっかけだった。夕食の皿の向こうで、いつも分厚いテキストを広げていた。
「そんなに勉強して、何を目指しているんですか」
思わず声をかけた裕太さんに、優美さんは少し照れたように、「歯科大への編入試験です」と笑った。
湯気の立つ料理を前に、黙々とノートに向かう姿。まっすぐなその背中に、裕太さんは次第に心を奪われた。一方で優美さんも、静かに見守り続ける裕太さんの存在に惹かれていった。
合格が決まった夜、ささやかな祝いの席を設けた。気づけば、店主と客の関係は変わっていた。やがて交際が始まり、歯科大卒業を迎えた2019年に結婚した。
そのとき、二人でひとつの約束を交わした。
「想像できない未来にしよう」
仕事も生き方も、挑戦を続けていこう。そんな願いを込めた。
子どもを持つことは、自然な未来として思い描いていた。
焦らず、自分たちのペースで――。
裕太さんのつながりで地域の子ども向けイベントに関わることもあり、無邪気な笑い声に触れるたび、顔を見合わせた。
「いつか、私たちも」