子宮頸がんの現状と若年層への影響
毎年11月は「子宮頸がん予防啓発月間」。
子宮頸がんの専門家である伊藤潔医師は、子宮頸がんは若い世代で増加していると話す。
宮城県対がん協会 伊藤潔細胞診センター所長:
非常に若い患者が増えている。
20代から30代の方々で発症するがんの中では、最も多いがんと言われている。

子宮頸がんは、子宮の入口である頸部にできるがんであり、年間で約1万人が子宮頸がんと診断され、3000人近くが死亡している。
子宮頸がんのほとんどは、HPV=ヒトパピローマウイルスへの感染が原因だ。
HPVというウイルスは、性交渉の経験のある女性のほとんどが一生のうちに一度は感染するもので、若い世代から感染リスクが高くなる。
HPVに感染した人が必ずしも子宮頸がんになるわけではない。そもそもHPVは、80%以上は2年以内に自然排除される、非常にありふれたウイルスだ。
その一方で、発がん性のあるタイプに感染し、長期に残存した場合、がんに結び付くことがある。
日本における罹患率の増加とその要因

日本人女性の子宮頸がん罹患者数は2000年以降増加傾向で、今後さらに増えると予想されている。
伊藤医師は、その要因について次のように分析する。
宮城県対がん協会 伊藤潔細胞診センター所長:
まず、予防のためのワクチン接種率や検診の受診率が低い。
また、20代からかかるがんであるという認識が世間に広まっておらず、周知されていない。

日本と諸外国では、HPVワクチンの接種率に大きな差がある。
2024年の接種率で比較すると、70〜80%を超えている国が多いのに対し、日本は36%と各国の半分ほどにとどまる。

日本では2010年からHPVワクチンの予防接種が公費で実施されている。
接種率が70%前後の世代もあるが、2000年以降に生まれた世代ではおよそ10%台に低下し、翌年以降生まれの世代では1桁以下まで下がっている。
その経緯として、2013年、予防接種を受けた人に全身の痛みや頭痛などさまざまな症状が報告されたことを受け、接種を勧める「積極的勧奨」が中止となったことがあげられる。
その後、HPVワクチンは2022年度から積極的勧奨が再開。2024年度上期の16歳の初回接種率は約51%と、徐々に接種率が上昇している。
子宮頸がんの発症率・死亡率と副反応リスクの比較
厚生労働省によると、一生のうちに子宮頸がんになる人は1万人あたり132人、亡くなる人は1万人あたり34人。
一方、伊藤医師によると、ワクチン接種で大きな副反応が出る確率は、おおむね10万接種で1回だという。
宮城県対がん協会 伊藤潔細胞診センター所長:
子宮頸がんになる確率、子宮頸がんで死亡する確率と比べるとはるかに少ない。
副反応よりもワクチン接種のほうが効果的で重要だ。
仙台市若林区荒町にあるクリニックでは、子宮頸がん予防のワクチン接種を行っている。
おざわ女性総合クリニック 小澤信義院長:
2022年のワクチン接種の積極的勧奨再開後、少しずつ接種者が増えている。
特に昨年は非常に接種者が増加した。
ワクチンの積極的勧奨が中止されていた期間に接種を受けられなかった26歳以下の世代に追加接種が行われたこともあり、接種者が増えたという。
無料でワクチンを接種するためのタイムリミット

公費を活用し、無料でワクチンを接種できるのは高校1年生に相当する年齢まで。
接種は3回必要なため、2025年度にその年齢の人は、11月中に1回目を受ける必要がある。
仙台市健康福祉局 福島真子予防係長:
対象となる方にはリーフレットやハガキを個別に送付し、接種をご案内している。現在高校1年生相当の人は2026年3月までが接種期限となっている。早めに医療機関に相談してほしい。
自ら予防し、早期治療・早期発見ができれば、「予防できる病気」「治せる病気」になりつつある子宮頸がん。
ワクチン接種はあくまで個人の自由であるが、子宮頸がんの予防には非常に効果的だと伊藤医師は語る。
宮城県対がん協会 伊藤潔細胞診センター所長:
ワクチンは約90%の子宮頸がんを防ぐことができると言われている。さらに検診を受けることで、がんになる前の状態で発見が可能。ぜひワクチンと検診の両方を受けてほしい。
HPVワクチン接種とその意義

実は、子宮頸がんを防ぐHPVワクチンは男性も接種可能だ。
男性は自己負担となるが、HPVというウイルスは中咽頭がんなどの原因とも考えられており、その予防、さらにパートナーをHPV感染から守ることにもつながる。
また、ワクチンを打たないという判断をした場合には、「20代から子宮がん検診を積極的に受診してほしい」と、おざわ女性総合クリニックの小澤医師は呼びかける。
厚生労働省によると、2022年の20代の子宮頸がん検診の受診率は27%と、低い水準にある。
自らの行動で健康を守るために
子宮頸がんは、適切な行動によって「予防できる」「治せる」病気になりつつある。
しかし、日本ではワクチン接種率や検診受診率の低さから、依然として若年層を中心にリスクが高い状況が続いている。
自らの健康を守るためにも、ワクチン接種と定期的な検診という二つの対策を組み合わせて行うことが、極めて重要だ。
