刺激を与えると“光るクモヒトデ”を発見

広大な海には、まだまだ我々の知らない生き物がいる。

東京大学大学院と鹿児島大学は10月28日、鹿児島県・奄美群島の加計呂麻島沿岸で、“光るヒトデの仲間”を新たに発見したと発表した。

このヒトデの仲間は、クモヒトデという、ヒトデとは似て非なる無脊椎動物のグループで、黄・白・黒の3つで構成された体色が、奄美地方固有の毒蛇ハブ“キンハブ”を連想させることから、「キンハブトラノオクモヒトデ」という和名がつけられた。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)
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「キンハブトラノオクモヒトデ」は2019年9月と2020年2月に、藤井琢磨特任助教(鹿児島大学・国際島嶼研究センター奄美分室)が、夜間の潜水調査中に水深15メートル付近でそれぞれ1個体、計2個体を捕まえていた。

そして、このクモヒトデは、外部からの刺激に対して、肉眼でも確認できる明るさの“光を発する”という特徴を持っている。暗い部屋の中で容器に入った「キンハブトラノオクモヒトデ」をピンセットでつつき刺激を与えると、明るい緑色の光を発したという。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

なお今回発見された“光るクモヒトデ”に類似する種は、90年以上前にインドネシアとシンガポールで見つかった記録があるそうだが、日本国内での発見報告は初めてだという。

肉眼でも確認できるほどの明るさということならば目立ってしまいそうだが、そもそもなぜ「キンハブトラノオクモヒトデ」は光るのだろうか? 

発見者である藤井琢磨特任助教と、今回の論文執筆を中心に進めた岡西政典特任助教(東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所)の二人に、発見時の様子や生態など詳細を聞いてみた。

非常にワクワクした

ーーまず、発見した時の様子を教えて

藤井特任助教:
このクモヒトデを発見したのは、夜になると開くイソギンチャクやスナギンチャクを探索するため、加計呂麻島南岸の伊子茂湾というところでナイトダイビングをしている際でした。一見、生物が少なく見える砂泥底も、好条件であれば昼には姿が見られなかったものを含め、夜にはさまざまな生物を見ることができます。

偶然、視界に入ったクモヒトデは、本体である盤と呼ばれる部位を砂中に隠し、長い腕を海底から水中へ伸ばしていました。クモヒトデ類が同様の行動をしているのは目にしたことがあったのですが、この時は、その黄・黒・白の縞々模様が目についたことを覚えています。

「光る能力を持つクモヒトデがいる」ということを耳にし気になっていたこともあり、なんとなく、出来心でそのクモヒトデを観察し、採集してみました。詳しい方法については伏せさせていただきますが、その際、水中ライトが横に逸れた瞬間にクモヒトデが光りを発しているのが目につき、「光るクモヒトデ」の発見に至りました。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

ーー発見した時どう思った?

藤井特任助教:
自然界に光る能力を持つ生物は少なからずいるはずですが、人間が野外で、しかも目視で確認できる強さの光を発せられる生き物を目にすると、いつも驚きを感じます。例えば、蛍は何度見に行っても楽しいものですし、過去にオオヒカリキンメというピカピカ光る魚の国内初記録を友人の研究者とした際も、非常に楽しく、驚き、興奮した記憶が鮮明に残っています。

今回も、砂から腕をのばすクモヒトデ類自体はよく目にしており、何度も視界にいれたことがある可能性があった(しかし意識したことがなかった)生物が、これだけの興味深い能力を隠していたことに、非常にワクワクしたことを覚えています。何度も潜り、調べつくしたと思っていた場所にも、まだまだ、まだまだ、新しい発見があるのだなと嬉しくなりました。


ーー発見した光るクモヒトデの大きさは?

藤井特任助教:
今回得られたのは、腕の長さが10センチと20センチの大小2個体のみです。


ーーどのように光るの?

藤井特任助教:
物理的な刺激を与えた際、緑色に光るようです。物理的刺激、例えばつまむなどした際、1〜2秒の間に、非常に細かくビリビリ?チラチラ?と腕全体で光を発します。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

ーー現在、そのクモヒトデはどうしている?

藤井特任助教:

初発見でしたので、採集した個体は各解析の後に薬品に漬け、学術標本として保管されています。研究をするうえでは、どうしても対象を殺し、標本にする必要がでてきます。

これは、博物館など公共の場にて保管してもらうことによって、世界中の誰もが、あるいは100年、200年後の誰もが、場所と時代を超えて、「2019年現在の奄美大島に、この種がいた」ということを伝える唯一の方法です。

何を食べ、どのように生息し、どのように光るかについては、今回、本種が見つかったことによって、今後の調査研究課題として進められるのではないかと期待しています。

光る理由も仕組みもいまだ謎

ーー現在までに分かっていることは何?

藤井特任助教:
普段、砂の中に潜って隠れ、おそらく水中を漂う餌を捕らえるために長い腕を海底から伸ばして待ち構えています。腕は細長く、黄・黒・白の特徴的な縞模様をしています。今回得られたうち、大きい方の個体は少し赤味がかっていたので、もしかしたら成長にともなって多少なり色彩が変わる可能性もあります。

光るのは、おそらく外敵に攻撃されたり掴まれたりした際だと思われます。90年前にインドネシアやシンガポールで記載されていた、Ophiopsila polyacanthaという種のクモヒトデと、ほぼ同様の形態をしていることが分かりました。


ーー岡西先生はなぜ光ると考えている?

岡西特任助教:
分かっていません。他の光る生物の研究から、「発光によって敵の敵を呼び寄せる」という事が言われているそうですが、このクモヒトデが光る理由は謎です。


ーー光る仕組みは分かる?

岡西特任助教:
少なくともこの種ではわかっていないと思います。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

ーーそもそもクモヒトデってどういう生態の生き物なの?

岡西特任助教:
クモヒトデは非常に多様な生態を持っており、世界中の海中の岩の隙間、砂の中、他の動物の体の上など、様々な場所に生息しています。プランクトンを食べるものから、海中の有機物を食べるもの、集団でイカや魚を食べるものまでさまざまです。

普段から頻繁に動くわけではないですが、細い腕を器用に動かして生息しています。ですが研究者が少なく、実際に食性がはっきりしている種はわずかです。

今回のキンハブトラノオクモヒトデは、砂に埋もれて腕を伸ばしているので、海中に漂う有機物を食べているかと推測はできますが、はっきりしたことは、胃を解剖するなどしてみないとわかりません。


ーー光るクモヒトデはどれくらい珍しい?

岡西特任助教:
光るクモヒトデは、他に世界的に生息すると言われているイソコモチクモヒトデ(学名:Amphipholis squamata)が知られています。他にも少なくとも10種程度は知られていますが、そもそもクモヒトデの研究自体が進んでいないため、どれほど珍しいかははっきりお答えできません。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

ーー光ること以外で、他のクモヒトデとの違いは?

岡西特任助教:

一番似ている90年前にインドネシアやシンガポールで発見されたOphiopsila polyacanthaとは、腕の側面に生えている腕針という針状の骨の数が異なります。他にも、同じグループの中では特徴的な色彩をしています。

「ヒトはまだまだ自然のことを知らない」

ーー今後、このクモヒトデはどうしていく?

岡西特任助教:
今後、コロナ禍が収まりましたら、90年前に発見された光るクモヒトデのOphiopsila polyacanthaの標本と見比べて、同種かどうかを確かめたいと思っております。


ーー今後の研究への意気込みを教えて

岡西特任助教:

本種が発光現象を理解するための良い研究材料になればと思います。

撮影者:藤井琢磨氏(鹿児島大学)

クモヒトデ類自体は、種を問わなければ簡単に見つかる生き物だという。まだまだ未知なる部分が多い生き物ではあるが、今後研究が進むにつれて光る理由・仕組みが判明していくことになる。

ちなみに、クモヒトデはヒトデではなく、例えばウニとヒトデ、ウニとナマコくらいの違いがあるそうだ。

今回の発見に関して「ヒトは、知っているようなつもりになっても、まだまだ自然のことを知らないということを思い知らされます」と藤井特任助教が語っているように、世界にはまだ海の研究者でも知らない世界が広がっている。よく目にしている生き物でも、実は不思議な生態があるのかもしれない。
 

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