謎の生物がかわいいとTwitterで話題

自然界には多くの生き物がいるが、その生態はときに私たちの想像をはるかに超える。今回はかわいらしさと生命の神秘を併せ持った海洋生物が、注目を集めていることをご紹介したい。

海葉ナメクジが妖精みたいでかわいい。最大5ミリぐらい成長するらしくて、面白いのが食べた藻をそのまま自身の細胞として吸収することで(クレプトプラスティ)光合成できるらしい。ポケモンって言われても違和感ない。

Twitterユーザーのふじむらたいき(@fujifujizombi)さんが、このように紹介したのは、水中を這う不思議な生き物。体の周囲には、鮮やかな緑色をした美しい物体がびっしり生えていて、一見すると藻類が体を覆っているようにも見える。

その一方でつぶらな瞳が愛らしく、何とも言えない癒し系の雰囲気も漂わせる。投稿には「丸い黒目と赤いホッペで、絵本に出てきそうです」「こんな素晴らしいデザインの子がいるんですね!天然ってスゴイ」などの反応が相次ぎ、16万以上のいいねを集めた。(8月14日現在)

ふじむらさんによると、投稿ではナメクジと表記したが、本来はウミウシの類でないかと思われるという。そこで、ウミウシの研究組織である「全日本ウミウシ連絡協議会」に確認したところ、この生物は「ホホベニモウミウシ」という、ウミウシの一種であることが分かった。

編集部ではウミウシに“近縁な仲間”について、その興味深い見た目をこれまでに複数取材している。

(参考記事:美しいのには意味がある? 海の生き物「コンシボリ」の姿が神々しい
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今回もとても興味深い。体に生えている緑色の物体は、一体何なのだろう。どのような役割を果たすのだろうか。ウミウシの専門家・中野理枝さんに聞いてみた。

頭部のピンク色の斑紋が和名の由来

――ホホベニモウミウシとはどんな生物?

ウミウシという巻き貝の仲間の1種で、狭義にはオオアリモウミウシ属の仲間です。もう少し詳しくいうと、軟体動物門>腹足綱(巻き貝のグループ)>ウミウシ>嚢舌目>オオアリモウミウシ属>ホホベニモウミウシです。

――体長や体重、主な生息地を教えて。

最大で15ミリ程度です。重さはわかりません。インドネシア・フィリピンなどで見られます。

――日本国内には生息している?

今のところ報告はありません。似た形態をした近似種は、日本の南洋(沖縄や八丈島)から報告されています。

――名前の由来はどこから来ている?

頭部にある眼点の両横にピンク色の斑紋があり、これを頬紅に見立ててこの和名が付きました。

名前の由来はピンク色の頬から
名前の由来はピンク色の頬から
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体に生えているのはウミウシの突起

――体の周囲にある、藻類のように見えるのは何?

これは藻ではなくて、突起と呼ばれるウミウシの体の一部です。内部には、中腸腺と呼ばれる消化腺が入り込んでいます。オオアリモウミウシの仲間はいずれも、背中に多くの突起があります。

――突起はどんな役割を果たしている?

餌として食べた藻類のうち、「食べた藻をそのまま自身の細胞として吸収する」のではなく、藻類に含まれる葉緑体(光合成をするための細胞小器官)のみを消化せずに中腸線の中に取り込みます。そしてこの葉緑体に光合成をさせて、得られたエネルギーを自分のエネルギーとして使います。これをkleptoplasty(クレプトプラスティ)、日本語で盗葉緑体現象といいます。

光合成させたエネルギーを自分のものにできる(画像はイメージ)
光合成させたエネルギーを自分のものにできる(画像はイメージ)

――葉緑体はどれくらいのエネルギーとなる?

一度餌を食べたからといって、その餌由来の葉緑体が体内で永遠に機能するわけではありません。オオアリモウミウシ属のウミウシは盗葉緑体を行いますが、葉緑体は長持ちする種で約1カ月と考えられています。ホホベニモウミウシについては未だ研究されておらず、葉緑体の保持期間は不明です。

――餌はどのように食べるの?

多くのウミウシが動物食(肉食)であるのに対し、嚢舌類のウミウシは藻類食です。歯がナイフのような形をしており、歯を藻類に突き立てて細胞壁に穴をあけ、細胞の中の液を食べます。

美しい緑色は餌の色が表れたもの

――突起が美しい緑色をしているのはなぜ?

緑色なのは、食べている餌由来です。ホホベニモウミウシをはじめとするオオアリモウミウシの仲間は藻類を餌にしており、形態が藻類に似ているので、藻(モ)ウミウシとも呼ばれます。

――緑色の突起があることで、メリットはある?

突起自体の機能のほか、体色が餌に似ていることから、餌に密着している時は餌と同色に見えることがあります。このことから、カモフラージュの効果があると思われます。

緑色の突起はカモフラージュの効果もあると思われる(画像はイメージ)
緑色の突起はカモフラージュの効果もあると思われる(画像はイメージ)

――突起の大きさや色は変わることはある?

実際に計測した研究論文を見たことはありませんが、ウミウシの成長段階に応じて突起の長さは変わるようです。そして色は、藻類をまだしっかり食べられない幼体(子供)のうちは半透明です。盗葉緑体現象を行う嚢舌類の他のグループ(ゴクラクミドリガイの仲間など)では、老齢個体になると盗葉緑体機能も衰えるようで、緑色であったところの色が抜けて黄緑色になるようです。ただし、ホホベニモウミウシの仲間でそのような報告はまだないと思います。

飼育することは難しい

――ホホベニモウミウシを飼育することはできる?

一時的には飼育できますが、餌となる藻類を確保し続けるのが困難なため、採集してきても長くは飼えず、餓死させるしかありません。また、幼生時代の餌が不明なことなどから、累代飼育は今のところ不可能とされています。

――このような生態を持つ生物は他にいる?

嚢舌類の他に、渦鞭毛藻(単細胞性の藻類の一種)や有孔虫(海に暮らす非常に小さな単細胞生物の一種)といった生物も盗葉緑体をするそうですが、専門外ですので詳細はわかりかねます。オオアリモウミウシ属のウミウシは世界で、約20種が報告されています。

ウミウシの生態は奥深い(画像はイメージ)
ウミウシの生態は奥深い(画像はイメージ)

ホホベニモウミウシの体の周囲に生えているのは突起という体の一部で、餌となる藻類の葉緑体を体内に取り込んで光合成させて、自分のエネルギーに転換する機能があるという。残念ながら飼育は難しいようだが、かわいいだけではなくとってもエコな生物として、覚えておいてはいかがだろう。

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プライムオンライン編集部
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