島根・出雲市の湯の川温泉で、病気をきっかけにレザークラフト作家に転身した男性が、全国規模のコンテストで高い評価を受けている。料理人の夢を諦めざるを得なかった困難を乗り越え、「世界に届く手仕事を」と新たな挑戦を続けている。

レザークラフト作家・内田成彦さん
レザークラフト作家・内田成彦さん
この記事の画像(19枚)

古民家温泉宿の一角で生まれる手仕事

「湯宿・草菴」(島根・出雲市斐川町)
「湯宿・草菴」(島根・出雲市斐川町)

出雲市斐川町の湯の川温泉にある旅館「湯宿・草菴」。

古民家とアンティーク家具の融合をコンセプトとした客室と源泉かけ流しの温泉で人気を集めるこの旅館の一角に、雑貨店「souan style(ソウアン スタイル)」がある。

雑貨店「souan style(ソウアン スタイル)」店内
雑貨店「souan style(ソウアン スタイル)」店内

店主の内田成彦さんが迎えてくれた店内で、ひときわ目を引くのが革製品のコーナーだ。中でも注目を集めているのが、内田さんが考案したオリジナルの折りたたみ式レザーカップホルダー。留め具を外して広げることで簡単に持ち運びでき、コーヒータイムなど小さな日常を楽しんでほしいという思いが込められている。

国内最大級の革製品の品評会に出品し上位入賞
国内最大級の革製品の品評会に出品し上位入賞

この作品は、2025年に東京で開かれた国内最大級の革製品の品評会「革のデザインコンテスト2025」に初めて出品し、応募があった92点の中から上位13位に選ばれた。「始めて10年近くになりますが、今までの苦労などがこのような形で評価していただいたことに嬉しく思いました」と内田さんは振り返る。

「革のデザインコンテスト2025」
「革のデザインコンテスト2025」

指定難病との向き合い…新たな道へ

不自由な手でもしっかりカップが持てるように考案
不自由な手でもしっかりカップが持てるように考案

しかし、こうしたカップホルダーの製作に至るまでには深い背景があった。
「私が(以前)手の麻痺が出る病気でして、自分の不自由な手でもしっかりと(カップを)保持できるようなものをということで考案したものがきっかけです」と内田さんは明かす。

両親が始めた旅館で育った内田さんは、料理人を志して高校卒業後に東京の専門学校に進学。2012年から旅館の厨房に立ち、前菜などを担当していた。しかしある冬、調理中に手にした包丁などを落とすことが毎日のように続いた。

提供:内田成彦さん
提供:内田成彦さん

「寒い時期だったので手がかじかんでいるだったり、疲れが出ているぐらいにしか思っていなかった」と当初は軽く考えていたが、医師から「右手はどうされましたか?」と声をかけられ、初めて自分の手の異変に気づいた。

「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」を発症
「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」を発症

診断結果は「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」。末梢神経に炎症が起こり、筋力の低下などが生じる病気で、発症の確率は約10万人に1人という指定難病だった。「本来ある母指球筋という筋肉が、もうなくなってしまって、水かきぐらいに骨と皮の状態になってしまって」と内田さんは当時の状況を語る。

リハビリから生まれた新たな道

プロの料理人をめざしていたが…
プロの料理人をめざしていたが…

約2年間のリハビリで日常の動作はほぼ不自由なくできるまでに回復したが、料理のプロを目指す道は諦めざるを得なかった。
失意の中、「自分にしかできないことを」と新たに始めたのがレザークラフトだった。

小物入れ
小物入れ

「作品の色使いは、料理からいただいた彩色の美意識が活かせているかなというところです」と内田さん。日常的なリハビリも兼ねて、はじめのころによく作っていたのが小物入れだった。

人の温かみが手仕事の価値と語る
人の温かみが手仕事の価値と語る

革を縫い合わせる作業はかなりの力が必要だが、内田さんが手作業にこだわるのには理由がある。「僕にとってはこちらがリハビリになっているので、一個一個仕上げていくので手に力がついてきます」。そして何より、「(縫い跡に)人の温かみというのが出てくるので、人間味が加わって、モノに愛着が湧きます」と手仕事の価値を語る。

出雲から空を超えて世界へ…手仕事への思い

世界に届く“手仕事”への挑戦
世界に届く“手仕事”への挑戦

現在、内田さんは新たな目標を掲げている。「今後は海外のコンペティションも視野に入れておりますので、出雲から空を超えて届く手仕事を目指しています」。

これからもこだわりの革製品を生み出し続ける
これからもこだわりの革製品を生み出し続ける

闘病経験の全てを糧に、内田さんにしか作れないこだわりの逸品を生み出し続ける決意だ。
春には折りたたみ式のレザーカップホルダーの販売も始まる予定で、湯の川温泉から世界へと羽ばたく手仕事への挑戦は続いている。

(TSKさんいん中央テレビ)

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(19枚)
TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

鳥取・島根の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。