ゴラン高原をイスラエル領と認めるならクリミア半島や尖閣諸島はどうなのか

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  • 大統領とイスラエル首相が相互選挙協力
  • 国際法や国際合意よりも損得勘定が大事
  • 好きな指導者は選挙支援し嫌いなのは貶める

トランプ大統領は25日、1967年の第3次中東戦争でイスラエルがシリアから奪ったゴラン高原について、イスラエルの主権を認める宣言に署名した。平たく言えば、ゴラン高原は半世紀にわたって占拠してきたイスラエルのものだとトランプ大統領の一存で認定したわけだ。

その理由について大統領は、「ゴラン高原は、イスラエルと地域の安定にとって戦略上も安全保障上も非常に重要だ」からとツイートしている。

大統領選に繋げる

イスラエル領と認定したことが現地の状況にプラスに働くかと言えば、逆だろう。軍事的緊張や衝突が激化する可能性が懸念される。国際社会の不満・反発も大きい。にもかかわらず認定してしまうのは、今、自分にとってプラスになることが第一だ!という判断からだろう。

つまり、4月9日投票のイスラエル総選挙で苦戦が予想されるネタニヤフ首相に助け舟を出す。同時に親イスラエルのトランプ大統領支持層にアピールし、来年の大統領再選につなげるという計算だ。

原則より損得

しかし、「ゴラン高原はイスラエル領」の認定は、多くの問題をはらむ。

まず、『実力による現状変更』をアメリカが認めることになり、それは世界各所の係争地をめぐる事態を流動化させる。

例えばロシアが併合したクリミア半島だ。ロシア側からすれば住民の圧倒的多数の意思に基づいたロシア編入であって粗暴な軍事占拠とは違うのだろうが、主権国(ウクライナ)の意思を踏みにじる『実力による現状変更』だとして米欧日による経済制裁が継続中だ。

しかし、ゴラン高原の例をそのまま当てはめれば、「クリミア半島は、ロシアと地域の安定にとって戦略上も安全保障上も非常に重要だから」、プーチン大統領からの要請を受けて『クリミア半島はロシア領』とトランプ大統領が認める時がくるかもしれない。ロシア疑惑が終息したら、あるいはトランプ2期目となれば、トランプ・プーチン蜜月関係が予見されるので、制裁緩和の先に『ロシア領宣言』が全くないとは言い切れない。

ロシアが70年以上にわたって不法占拠を続ける北方領土についても、同じ論法を当てはめれば、「南クリルは、ロシアと地域の安定にとって戦略上も安全保障上も非常に重要だから、『南クリルはロシア領』」なんてことになってしまう。

南シナ海をめぐる対中外交でも、『実力による一方的な現状変更は認めない』ことが各国共通の基盤だが、肝心のアメリカが、あっちで『実力による現状変更』を認めてしまっては、こっちでは認めないと言っても説得力はゼロだ。真面目に同調する国はいなくなる。

また、アメリカ政府は係争地をめぐっては、主権の問題について特定の立場は示さないことを原則としてきた。そこに「ゴラン高原はイスラエル領」なら「尖閣諸島は日本領」と宣言せよ!などなど、パンドラの箱を開けることになる。

原則より損得。トランプ流の弊害はここに極まる。

他国への口先介入

もう一つは他国の選挙への露骨な介入という問題。

トランプ大統領はこれまでも、ヨーロッパの国々の選挙に口先介入してきた。反移民、反EUの右翼政党やポピュリズム勢力に肩入れしたり、有権者の不安をあおったりするツイートなどだ。

国際常識では、一国の指導者は他国の選挙で特定の勢力や政治家に肩入れしないし、好き嫌いを言ったりもしないものだ。誰が勝っても国と国、指導者同士の関係は良好に保つことが国益にかなうからだ。

しかしトランプ大統領は無頓着。アメリカとアメリカ大統領を敵にまわしたい奴はいないと分かっているからだ。そして、自身と同じ主張の政治勢力が勝つことによって自らの正当性を強化したいという願望もあるのだろう。

それが口先介入のレベルならまだしも、『ゴラン高原はイスラエル領』は、国際法秩序(安保理決議など)の安定性と信頼性を深く損なうという代償を伴う。口先とは次元が違う。エルサレムの首都認定と同様、それをやってしまうのがトランプ流なのだが、今回は2週間後にイスラエル議会選挙の投票というタイミング。ネタニヤフ首相との会談の直後に首相が見守る中で宣言に署名するという演出を見ても、汚職疑惑で苦戦中のネタニヤフ首相を支援するという意図は明白だ。

そうまであからさまに他国の選挙に手を突っ込んでしまうと、2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが介入したことについてとやかく言えないのではないかと心配になる。でも、大統領はそんなことは気に掛けていないように見える。そもそも自身が勝利した選挙について、ロシアの介入を責めることでケチをつけたくはない。

さらにトランプ大統領は、好きな外国指導者にはなんとしてもその地位にとどまってもらいたい。ネタニヤフ首相はその筆頭だ。サウジアラビアのムハンマド皇太子もそうだ。彼のためにCIAの報告書は投げ捨てた。一方、嫌いなカウンターパートは負ければいい。同盟国であってもドイツのメルケル首相や、カナダのトルドー首相には容赦ないツイートを放つ。そこでは『内政不干渉』や『自制』といったストッパー機能は働いていない。

首脳間の『信頼』とは

首脳同士の間では信頼関係の構築が大切とされるが、トランプ大統領と各国首脳たちの相関図においては、『信頼』ははるか後景に沈んでしまっている。要は好きか嫌いか。大統領の再選に役立つかどうかだ。

『ゴラン高原はイスラエル領』の宣言は、トランプ流の何たるかを改めて考えさせるものだった。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】
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