超高層ビルへの批判

週末に家族3人で自転車に乗って広尾の公園に遊びに行った。春に自転車を買ったばかりの娘は運転がまだ危なっかしい。狭い道は怖いので、六本木ヒルズ経由で行った。あそこの歩道は広くて安全なのだ。都会で子供が自転車に乗るのは結構危ない。低学年のうちは乗ることを禁止している小学校もある。

ウチの近所の六本木ヒルズと東京ミッドタウンは自転車だけでなく散歩やジョギングするのにまず安全なのと、緑が多いのでいろんな場所への行き帰りに「通る」ことが多い。園芸好きの僕はマンションの狭いベランダでガーデニングを楽しんでいるが、花や木が綺麗なところを歩いたり走ったりするのも大好きなのだ。「安全」と「美しい自然」を都会で探すのは結構難しい。

森ビルが建設を発表した「東京タワーに匹敵する超高層ビル」
森ビルが建設を発表した「東京タワーに匹敵する超高層ビル」
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ところで先週、「森ビルが日本一高いビル建設。東京タワーに匹敵」というニュースが出たのだが、これを僕の知人がFacebookで批判した。「高層ビルに魅力を感じないし、人口が減る国が進む道はそっちじゃない」という彼の主張に対し「地震が来たらどうするのか」「建ぺい率の緩和はゼネコンの救済策」など彼への賛同の声が相次いだ。

一見筋の通った話だし、やっぱりみんな高層ビルって嫌いなんだな、ということはわかったのだが、何か腑に落ちない。何か言いたい。何だろうと考えていたら、森ビルの人が反論のコメントを投稿した。彼の主張は「10階建てにして空き地のない壁のような街にするか、広場のような緑地を創出するために高層化するか、好き好きはあるでしょうが、私たちは後者を選択します」ということだった。

計画では麻布台にある飯倉公館の裏あたりに日本一高いビルが建ち、その周りに緑の広場を作るらしい。ウチから歩いて行けるところだ。

ああ僕が言いたかったことはこれだ!と思った。
超高層のタワマンを終の棲家にしようとは思わない。ただそのおかげでできる緑の広場は近所の住民にとっては素晴らしいインフラなのだ。別に森ビルや三菱地所をヨイショしているわけではない。不満もある。

正直言ってヒルズやミッドタウンのファッションのテナントは多すぎるし、ほとんど行ったことがないのと、なぜかどっちも本屋はTSUTAYAで、残念ながら品揃えが全く僕好みではない。しかしそれを除けば緑がきれいであること以外にも、駐輪場があり、トイレがきれいで、カフェやレストラン、スーパーがある。週末は混むが、平日なら空いていてさらに快適だ。街の中に綺麗で安全な別の街がある。

変化してきた東京

今から40年近く前に就職のため京都から引っ越して来た時、東京という街のあまりの汚さにうんざりした。高いビルが無計画に建っている。美しかったであろう川にはフタがされて、上を高速道路が通っている。電車の駅を出ると灰皿に吸い殻が山盛りになってくすぶっていて臭い。公園は汚くて入る気にもならない。車の排気ガスもすごかった。それがいつの頃からか、いろんなものが少しずつきれいになってきた。東京の人も無計画で汚い街に住むのが嫌なことにようやく気付いたのだ。

高度成長時代に東京には「高層」ビルがたくさん建ち、緑は減ったが、最近「超高層」ビルが建って、緑は逆に増えているという事実に、近くに住んだり働いている人達は気づいている。高層と超高層では全く違う街づくりになる。

「超高層+緑の広場」の合理性

虎ノ門・麻布台プロジェクト
虎ノ門・麻布台プロジェクト

いろんな事情を考えると少なくとも山手線の内側は「超高層+緑の広場」の組み合わせしかないのではないかと思う。知人のFacebookに寄せられたたくさんの賛同コメントの中に「超高層ビル+緑の広場」案への代案は残念ながら1つも見つけられなかった。

娘が赤ちゃんの頃、よく平日休みの時に一人でベビーカーを押して六本木ヒルズに散歩に行った。広いテラスでゆっくりランチをし、ロボット公園に連れて行くと娘は喜んだ。おむつ替えの場所もあるし、段差も少ない。何より安全なのが良かった。

おそらく僕が高齢者になってもこういう場所は快適に感じるのだと思う。高齢者の介護は在宅が中心になってきているが、その場合一軒家でなく集合住宅に住むことの効率性は極めて重要でもある。

欧米の都市に比べ、東京はバリアフリーが進んでいない。高齢者や小さい子供にとって暮らしにくい街だと思う。これからの街作りをどうするのかは、感情論だけで決めてはいけない。本当に暮らしやすい街はどういうものなのか考えないといけないのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。