内閣人事局は1月20日、国会開会中の霞が関の官僚の労働時間に関する調査結果を発表した。内容は衝撃的だ。国会答弁の作成に10時間ほどかかり、休日を含めると仕事が終わる時刻は平均午前5時だったという。まさにブラックな労働環境で、若手官僚が離職する一因となっている。
だが一方で、若手官僚に裁量を与え、やりがいをもって新たな仕事を開拓させる試みも始まっている。彼らの仕事の成果を見られるのは、意外にも「コンビニ」だ。
この記事の画像(8枚)1月10日から、ナチュラルローソン約130店舗で、有機商品のフェアが始まった。ナチュラルローソンでは、これまで有機やオーガニックの洗剤、生理用品、飲料、菓子などを取り扱ってきたが、食品を主に集めてフェアとして売り出すのは初めてのことだ。パスタや菓子、ワイン、ジュースなど全部で合わせて30品ほどが取り扱われている。
農水省若手官僚がプロデュース
この取り組み、実は異例のきっかけで始まった。農水省の若手官僚がナチュラルローソン側に企画提案、つまりプロデュースしたのだ。
農水省では2019年から「政策オープンラボ」と称して、本業とは別に部局をまたいで有志の官僚が新規の政策を立案し実行する活動を行っている。メンバーの多くは若手だ。この「ラボ」に集ったあるチームの取り組んだテーマが「有機食品の“消費拡大”」だった。
チームを立ち上げたのは入省2年目の藤田このむさん。
実家は合鴨農法を実践したこともある農家で、オランダに留学して現地の有機農業を実際に見て回った経験を持つ。現在は、有機農業の推進をすすめる農産局農業環境対策課で働いている。
藤田さんによると、有機農業は化学農薬や化学肥料を使わないので、土壌が痩せず生物多様性も守られるという。地球環境にとって優しく、日本の資源を使ったサステイナブルな農業という面を、今回特に打ち出したかったのだそうだ。
また、これまで農水省では主に生産者向けに有機農業を広げる政策をとってきたが、消費者側にもこうした有機農業の側面を理解してもらい、消費拡大をすすめていくため今回志願したそうだ。
チーム員は8人。入省2年目から6年目の職員で構成された。中には食育や花きなど普段は有機農業とは違った分野の仕事をする人もいる。
2022年1月にチームを立ち上げ、3月頃から業界関係者にヒアリングを開始。これまで生産者や大学の教員、百貨店、外食企業、小売店など幅広く話を聞き、ヒアリング回数は累計で30回以上におよぶ。ヒアリングする中で、アピールしたい層に近い若い女性を消費者層にもつナチュラルローソンに企画を持ち掛けた。
ナチュラルローソン商品部長の鷲頭裕子さんは、藤田さんらチーム員の話を聞き、「オーガニック=おしゃれなもの、持っていて居心地がいいと思われているところがあるが、実はそれを買うことですごく社会環境に良いことができるとお客様に伝えることで、違う価値観で買い物してくれるのではないかと思った」と振り返っている。
藤田さんら農水省チームのプロデュースにより、「購入すれば社会に貢献出来る」という点が明確となり、商品に「社会貢献出来たという満足感」という新たな付加価値を付ける事が出来たのだ。
消費者ニーズや準備できる商品について双方で話し合い、2022年10月頃まとまったのが今回のフェアだった。決まってからも棚におくリーフレットのコラムの内容などの検討を行い、計8回の打ち合わせを行った。
そして始まった1月10日からの有機商品のフェア。どらやきなど、菓子の販売が好調ということだ。
今回のフェアは3月6日までの予定だが、ナチュラルローソンでは、今後こうした有機商品などを通常商品としても取り入れ、おにぎりやお弁当など、より食事に近いものも展開しながら、この1年は意識的に品ぞろえを取り揃えたいとしている。
民間と省庁のタッグで見えたものとは
さらに、ナチュラルローソンだけでなく、2月中旬には農水省内にあるローソンにも商品を置くことを検討している。1月、実際に店舗を訪れた鷲頭さん。藤田さんと共に、店の中で販売する場所を決め、これなら展開できそうだとほっと胸をなでおろした。
農水省の官僚と組んだ今回の仕事について、鷲頭さんは「いい意味でも悪い意味でも官僚というすごく固いイメージを持っていたが、同じ目的をもって議論すると、そこで職種とかキャリアとか年齢は関係なくて、こういうことを目指そうと思った時は同じパートナーとして一緒にやっていけるのだと今回すごく実感した」と振り返った。タッグを組んだことに満足そうだ。
一方、農水省の藤田さん。今回の取り組みでどういう民間の声があり、どういう生産者の声があるか生の声を自分たちで聞き、知識も増え、今後議論に入りやすくなったという。
「今の有機食品の消費者は子育て層など少し年が上のことが多いが、加えて中学生や高校生なども含め若い人に知ってもらえるような政策をしていきたい、他の企業とも新しく何かできたら」と今後についても意気込んだ。
現在、国内の耕地面積のうち有機農業の面積割合は1%未満だが、農水省では2050年までに25%に拡大する目標を掲げている。
若手官僚に活躍の場を
農水省で若手官僚が活躍するのは、この「政策オープンラボ」だけではない。他にも、有志職員がユーチューバーとして情報発信し、当時の江藤拓農水相の話を宮崎弁でアフレコするなどの「官僚らしからぬ動画」を制作。100万PVを超える作品もあり、省の情報発信力の強化に一役買っている。
冒頭紹介したように、霞が関の官僚は激務で離職する若手も少なくない。だが今回取材した藤田さんは、生き生きと仕事に打ち込んでいて、その熱意を感じる事ができた。
藤田さんは、よく幹部職員から「2050年は僕たちは主役ではなく、君たちが主役で、消費者として生活するし、政策を進めていくのだよ」と言われるという。若手官僚が高いモチベーションをもって職務に当たる事は、私たち国民にとっても利益になる。霞が関の働き方改革は急務だが、若手官僚の活躍の場がもっと増える事に期待したい。
(フジテレビ 経済部 農水省担当:麻生小百合)