ウクライナを支援する各国の駆け引きが激化。ドイツの主力戦車レオパルト2の供与に消極的なドイツに、積極派のイギリス、フランス、ポーランドなどが圧力をかけている。

ロシアによる大規模攻撃への懸念が高まる中、西側の武器支援は間に合うか。BSフジLIVE「プライムニュース」では高橋杉雄氏、東野篤子氏を迎え徹底分析した。

ウクライナへの供与が議論される「レオパルト2」の性能

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新美有加キャスター:
ドイツ製の戦車「レオパルト2」供与の問題。ウクライナを軍事支援する国々による1月20日の国際会合ではドイツが態度を明らかにせず、結論は先送りに。レオパルト2はドイツの主力戦車で、主砲は44〜55口径長120mm滑腔砲。エンジンはディーゼルで乗員は4名。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
砲は太さだけでなく長さも重要で、それを表すのが口径長。長いほど初速が速くなり、射程距離が長く命中時の威力も増すが、砲の寿命が短くなる等問題もある。また弾との関係もあり、西側が基本的に使うAPFSDS弾(※貫徹力が極めて高い徹甲弾)は初速が速いほうが効果的。

新美有加キャスター:
レオパルト2はライフル砲ではなく滑腔砲。この違いは。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長
高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
ライフル砲は直進性が高く、命中率が高くなる。滑腔砲は初速が速くなるが、若干直進性に問題がある。滑腔砲にAPFSDS弾を使うとき、命中率はやや落ちるが命中時の貫徹力は高いといわれる。メリット・デメリットがあるが、ライフル砲を使っているのは、西側ではもうイギリスのチャレンジャー2だけ。

反町理キャスター:
そのチャレンジャー2がイギリスから14両供与される運びだが、砲弾が異なり手間では。また、ロシアの戦車に対してどちらが有効なのか。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
チャレンジャー2に関しては独自の補給系統を作る必要があるが、それができれば湾岸戦争やイラク戦争での経験から、ソ連製戦車と十分戦えることはわかっている。また砲威力はほぼ同じとされている。

供与による影響の大きさに及び腰…ドイツの事情

新美有加キャスター:
ウクライナの隣国ポーランドがレオパルト2の供与に積極的だが、ドイツの許可が必要。ドイツのベアボック外相は「ポーランドが供与を望めば邪魔はしない」と発言。翌日、ポーランドのモラウィエツキ首相が許可をドイツに正式申請すると発表し、さらに承認がなくても踏み切る姿勢を示した。水面下である程度合意ができているか。

東野篤子 筑波大学教授:
「ドイツの一部から好意的な反応」が正確な言い方と思う。ドイツ国内で立場が分かれ、政権全体としての決定がまだなされていない。

新美有加キャスター:
ショルツ連立政権内では、首相が党首のドイツ社会民主党(SPD)が慎重派。連邦議会で3番目の議席数を誇る緑の党、議席数4位の自由民主党は推進派。

反町理キャスター:
ヨーロッパの安全保障がかかる重要案件で閣内の不一致を露呈し、国として非常に恥ずかしい対応かと思うが、ドイツの悩みをどう理解したらいいのか。

東野篤子 筑波大学教授:
慎重派の立場も非常によくわかる。レオパルト2の提供問題は本当に影響が大きく、戦況が大きく変わりすぎる可能性がある。ウクライナや支援国のフィンランド・ポーランドが目指しているのは戦車連合。戦車がいろんな国から少しずつ提供され一定の数が集まれば、修理やメンテナンスでも複数国が協力でき、傷んだ戦車を引き揚げても次の戦車を投入できる。

反町理キャスター:
もうそれは、完全にNATO軍とロシアの戦いでは。

東野篤子 筑波大学教授:
ロシアが絶対そう言うに決まっており、ドイツはそれを恐れていると思う。決定が製造国ドイツの肩に全部かかるのは、ドイツから見れば不当に責任を負わされすぎているという議論。ドイツが恐れるのはおそらく、ゴーサインを出した結果ロシアが核兵器を使うこと。だがショルツ首相は、戦争が始まったとき「我々は歴史の正しい側に立つ」と自国の防衛費も大きく増やした。板挟みになっている。

反町理キャスター:
状況が煮詰まるのを待っている?

東野篤子 筑波大学教授:
ある意味そう。ウクライナも、ポーランドやフィンランドなども様々に圧力をかけている。ドイツ国内のトレンドが急速に転換し、SPD内の世論調査でも賛成が増えている。国内世論に抗してまで出さないことはないと思うが。例えばメルケル前首相は、反論もしにくい完結した正論を出していた。ショルツ首相には、理解を得ようとする姿勢があまり見られない。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
ドイツは軍事援助を2〜3位というレベルでやっている。「戦後の対ロシア関係が気になる」は説得力がない。一貫性は大事。最初にあっさり決めていればこうなっていない。戦車の性能と無関係に政治的な意味が大きくなってしまっている。

反町理キャスター:
NATO各国にレオパルト2を供与しながら、それでロシアと向き合うことに逡巡するのは、生産国としての責任を回避しているのでは。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
知的所有権等の問題もあり、基本的に第三国供与には輸出元がイエス・ノーを言う。だから、ドイツが決めるのはビジネスレベルでのこと。責任を押し付けられたようにも見えるが、仕方ない部分がある。

欧州各国からウクライナの求める“300両”は集まるか

新美有加キャスター:
レオパルト2供与に積極姿勢を示しているのは、ウクライナの隣国ポーランド、ロシアと国境を接するフィンランド、バルト3国など。ヨーロッパ全体で2000両ほどあるが、供与となっても総数が丸ごとは出てこない? 

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
もちろん各国とも自国防衛の分があり、たぶん最大合計300〜500。

東野篤子 筑波大学教授:
その300が本当に集まるか意見が分かれる。ポーランドは200も出せない。ハンガリーなどロシアに近い国も出さず、元々少ないスイスなどは出しにくい。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーあたりは出せて10ほど。

新美有加キャスター:
ドイツ自ら供与する可能性は。ショルツ首相とバイデン米大統領が電話協議を行い、レオパルト2供与の条件として、アメリカのエイブラムス提供を挙げたという報道。自分だけで責任を負わないという考え? 

東野篤子 筑波大学教授:
1番手がアメリカになるのはドイツにとって非常にありがたい。だが、アメリカのウクライナ支援を条件にする形はおかしいと、オースティン米国防相が腹を立ててもいる。陸続きのヨーロッパではないアメリカがエイブラムスを出すのは、ロジスティクスの面でもよくない。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
問題は、エイブラムスが乗り物として違うこと。ディーゼルエンジンでなくガスタービンを使っており、燃料も整備も全然違う。訓練を一からやらねばならず、部品供給にも全く違うサプライチェーンが必要。今年中の戦力化は多分無理。真面目に供与するならエイブラムスではない、となる。

板挟みのドイツ 日本にとって決して他人事ではない

反町理キャスター:
ドイツの悩みを日本に当てはめてみると。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
日本とドイツは武器輸出の実績が全然違うが、例えばアジアで何か起こったときに日本の武器輸出政策が緩和されていたとして、ためらいが大きいと思う。ほんの数カ月から1年ぐらいの間に突然そういう責任を負わされたとき、世論や意思決定者は簡単にはついていけない。

反町理キャスター:
第2次世界大戦の敗戦国としての立場からの脱却をドイツが図っている、というイメージは。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
敗戦国ゆえに国内にビルトインされた平和主義。アメリカの圧倒的な力を背景としていたが、その力が動揺する中、地域でリーダーシップを発揮しなければいけなくなった。それが経済・政治的なものにとどまらなくなったとき、大きく一歩を踏み出すのは難しいと思う。あまり他人ごととして批判はできない。

東野篤子 筑波大学教授
東野篤子 筑波大学教授

東野篤子 筑波大学教授:
今のドイツのような大転換点に日本が直面することはそうないとは思う。例えば台湾有事で、日本の手で戦況を大きく変える状況は思いつかない。だがギリギリの選択の中での決定は、そうそうできない。「いつショルツが日和るのをやめるか」と面白おかしく見るのではなく、日本ならどう動けばいいか考えておかなければ。

反町理キャスター:
日本のウクライナ支援は、発電機、ランタン、食料、防寒具、ヘルメットや防弾チョッキ。復興支援もやるだろうが、これは極東有事の際に支援を受けるため、同調の国際世論を期待してのことと聞く。この効果をどう考えるか。

東野篤子 筑波大学教授:
支援の中にぜひ地雷除去も数えていただきたい。非常に重要なこと。日本が出していないと言われればそうだろう。しかし、日本にとって武器の輸出が非常に難しいことは、知識人や政策関係者はちゃんと把握しており、その中での支援に対して相当強く感謝されてはいる。

新美有加キャスター:
視聴者の方からのメール。「日本の支援は湾岸戦争時のような評価にならないか」。

東野篤子 筑波大学教授:
よく言われるのは、アジアで最初に躊躇なく対ロシア制裁を行ったこと。ある程度感謝されており、同じにはならないと思っている。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
湾岸戦争時の批判は、日本が石油の7〜8割を依存していた湾岸・中東で起こった戦争に金しか出さなかったため。日本はウクライナや東欧に何か依存しているわけではなく、文脈が違う。同様の批判はないと思う。

(BSフジLIVE「プライムニュース」1月24日放送)