「北京でもロックダウンがあるのかもしれない……」4月24日の夜、北京市朝陽区のあるマンションに住む日本人の間では、こんな会話が飛び交っていた。

PCR検査を受けるために並ぶ朝陽区の人達(4月25日)
PCR検査を受けるために並ぶ朝陽区の人達(4月25日)
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数時間待ちのPCR検査 食料も一部売り切れに…

人口約345万人の朝陽区は日本大使館があり、また多くの日系企業の拠点が集まる日本人が多く住む地域だ。北京市では4月22日から新型コロナウイルスの感染者が徐々に増え始めて24日までの3日間で70例の感染が確認され、その半数以上は朝陽区から出ていた。これを受けて朝陽区は25日から住民と区内で働く全ての人に、1日おきに合計3回のPCR検査を急きょ義務付けた。上海のロックダウンに関する報道や、連日SNSに投稿される上海市民の悲痛な声を聞いていた一部の住民は、すぐにスーパーへと向かった。その多くは「万が一のロックダウンに備え外出ができるうちに食料品を買っておこう」というものだった。

一夜明けた朝陽区では、至る所でPCR検査が行われていた。当局から出勤する前に検査を受けるように指示が出ていたため、一部の検査場では早朝から大行列ができていた。検査を受けるには中国人は身分証の提示、外国人の場合はパスポートの確認が必要で、担当者はこの情報を1人ずつ端末に打ち込むため検査はスムーズには進まない。その結果、並び始めてから検査が終わるのに数時間掛かった人もいた。また一部のスーパーでは開店前から多数の住民が並び、買い物に来た女性は「野菜はほとんど売り切れていてパスタや調味料も無くなっていた。非常食として保存が効く食材は全てなくなっていた」と話した。

開店前のスーパーに並ぶ北京市民(4月26日)
開店前のスーパーに並ぶ北京市民(4月26日)

北京市民の約2000万人が対象に…行動制限の通達も

4月25日に急きょ始まった、朝陽区でのPCR検査。しかし、住民が感じていた“嫌な予感”はさらに近づいてくる。北京市当局は25日の夜に、朝陽区の住民限定で行っていたPCR検査の範囲を拡大して、北京市のほぼ全域(11の区が対象)の住民約2000万人に実施すると決めた。また、4月30日からの連休期間は北京市から出ないよう求め、合わせて人が多く集まる活動の規制も強めた。これにより連休中に予定されていた大型のスポーツイベントや展示会の開催なども中止が決まった。

封鎖された房山区の一部地域 自由に出入りができないようにフェンスが設置された
封鎖された房山区の一部地域 自由に出入りができないようにフェンスが設置された

北京市では、感染者が増え始めた4月22日から30日までに確認された市中感染者は300人を超えた。今のところ恐れていた程の広がりはなさそうだが、北京に住んでいると楽観的に考えることはできない。実際、一部の地域ではすでに外出制限が実施され、感染者が多く出ている地域の小学校や中学校では一斉休校となった。またある病院では救急外来だけでなく通常の診察も一時停止となっている。朝陽区に住むある日本人の母親は「静かに混乱の足音が近づいてきた」と話す。

北京で“ロックダウン”は起きるのか?

北京は首都であり、習近平国家主席ら共産党最高幹部が居を構える中国政治の中心だ。仮に北京が上海と同じように“ロックダウン”となれば、経済的影響だけでなく、これまで習主席が抑え込みと経済のいち早い回復を内外に誇示してきたゼロコロナ政策への失墜は免れず、秋に開催される見通しの党大会への影響も避けられないだろう。

このため、習主席が北京市全域のロックダウンはさせないとする見方は強く、今のところ北京市で大きな混乱や市民の不満などがSNSに投稿されるという事は確認できない。当局は市民の混乱が広がらないよう情報統制を行っているとみられる。

また、物資の安定供給に力を入れていて、スーパーやネット販売で一時的に売り切れになった食料品も翌日には補充されている。しかし上海の経緯を見ているので、その日が突然やってくるかもしれないという不安は拭えない。今はただ“混乱の足音”が静かに過ぎ去ることを願うばかりだ。

【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】

河村忠徳
河村忠徳

「現場に誠実に」「仕事は楽しく」が信条。
FNN北京支局特派員。これまでに警視庁や埼玉県警、宮内庁と主に社会部担当の記者を経験。
また報道番組や情報制作局でディレクター業務も担当し、日本全国だけでなくアジア地域でも取材を行う。