国土交通省は3月23日、全国平均の公示地価が6年ぶりに下落したと発表した。特に三大都市圏にある商業地の下落率が大きく、コロナ禍で訪日外国人数が大幅に減ったことが影響したとみられている。果たしてこの公示地価の下落は、マンションなどの住宅価格や日本経済にどのような影響を与えるのか。今回の放送では公示地価の下落を検証し、不動産価格や日本経済の行方を展望した。

地価が大きく下落したのはインバウンド依存エリア

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新美有加キャスター:
6年ぶりに下落した公示地価。全国の平均は2020年に比べて0.8%の下落で、大阪の繁華街・道頓堀が28.0%と最大の下落率。東京都の最大は高級クラブなどが立ち並ぶ銀座8丁目で、12.8%の下落。また名古屋を代表する歓楽街の錦3丁目も15.2%の下落。
一方、北海道の人気スキーリゾートであるニセコエリアの倶知安町(くっちゃんちょう)は、21%と過去最大の上昇率。また福岡の繁華街・天神に近い清川は15.0%の上昇。新型コロナウイルスによるインバウンド需要減少との関係は。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
インバウンドの観光客はコロナ禍でほとんどゼロに。コロナ前の数年間はかなり観光客の方が呼び込めており、小売や旅行産業で地価を押し上げていた。今回大きく落ちたところは、かなりインバウンドへの依存体質のあるエリアだという見方をしています。

新美有加キャスター:
倶知安町はインバウンドに依存する体質ではないと。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員
井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
スタートはインバウンドだが、現在ニセコにはスキーリゾートに長期滞在するオーストラリアの方が多い。そういう方向けのリゾートタウンとして「まちづくり」をしてきた。ニセコが他と違う動きをした要因。客におみやげの販売や飲食の提供をするだけか、それとも生活インフラも含めたサービスを提供する都市なのかという点にかなりの違いが出ている。

反町理キャスター:
東京・大阪・名古屋の商業地の地価下落については。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
例えば銀座では、週末の人の動きは戻ってきているが平日が止まっている。通勤が制約され、出勤のついでに食事やショッピングする機会が消えているため。ただ銀座8丁目は高級クラブが集まる特殊な地域で、ナイト経済が落ち込んでいる影響がある。銀座全体に広がっているというのは少し違う。

企業が自社ビルを手放す決定はむしろ「遅すぎる」

新美有加キャスター:
同じ商業地でも、オフィスビルが多く立ち並ぶ、いわゆるオフィス街の地価。銀座に近い地域では、丸の内は1.1%、大手町は1.3%、虎ノ門は0.2%の下落。都庁がある西新宿も2.6%の下落と、繁華街ほどは下落していません。この違いについては。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
オフィスの場合、例えば出勤率を5〜6割に制限しても、家賃に対して瞬間的には影響しない。また、オフィスの機能が今後不要になるのかどうかがまだ見えず、地価に影響しなかったと見ています。

反町理キャスター:
三井不動産、電通、エイベックスなど、都心の一等地にある自社ビルの売却を決めた企業がたくさんあるが、この決定はまだ早い?

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
むしろ遅すぎる。10年以上前から、我々は企業不動産戦略という言葉を使ってきた。つまり一般事業会社が本当にお金をかけてビルを持つ必要があるのかということ。今回のショックで経営者は不動産と正しく向き合うようになった。もう一度骨太の企業になるチャンス。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授
清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授

反町理キャスター:
個人の場合は。家とは一生のうちに何度も買えるものではない。賃貸と持ち家、どちらがよいか。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
一生に家を複数回買えるように中古流通市場を成熟させるのが政策の仕事。売って買うまたは貸して買うというチェーンが回る住宅の世界があれば、住み替えするたびに幸せになっていく。ただし今は1〜2回が現実的で、賃貸のほうが好ましい。

マンション価格が下がらない構図

新美有加キャスター:
住宅地の公示地価の変化。公示地価は全国平均で0.4パーセントの下落で、商業地に比べあまり下がりきらなかった印象ですが。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
ところがマンションの価格は一向に下がっておらず、むしろ上がっている。地価とマンション価格は、過去においても必ずしも連動してはいないのだが、それにしてもマンションの下がる動きが全然見られない。何を見て地価がついているのかがわかりにくい。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
東京の人口は今のところ転出超過と報道される。しかし入ってくる人は減っているが、出ていく人が極端に増えているわけではない。つまり東京脱出というトレンドは決して起こっていない。例えば東京で賃貸物件を出している大家さんは賃料を下げていない。そのうち戻ってくるからホールドしている。

反町理キャスター:
空き室が出て下げるケースは。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
アパートのオーナーの方には多分いらっしゃるが、ビルやマンションを経営している体力のあるオーナーさんには下げるというマインドは全然ない購入側にも東京は大丈夫だという意識が共有されている。これがマンションの市場では強く起こっているので価格が下がらないという構図。

反町理キャスター:
今のお話を伺うと、やはり富裕層が強気のビジネスをして利益をあげるシステムに聞こえます。一方でアパートを経営する人たちは心配だから値下げしても満室にしたい。政治の力でなんとかなりませんか。

山際大志郎 自民党政調会長代理:
それが行きすぎた社会はいけない。一方資本主義の中ではある程度ビジネスが回らなければ新しい富も生まれない。バランスが必要。

反町理キャスター:
東京23区で、70平米の新築マンションの平均価格は8000万円超。20代・30代の平均年収である約500万円の16倍です。適正なのか。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
東京のみならず海外の大都市も直面している問題。購入物件の適正価格は年収の5倍ぐらいと言われる。ただ、本当に東京の真ん中に住むことに意味があるのかと考えたとき、もっと違う住宅の選択肢が出てくる。

井出武 (株)東京カンテイ市場調査部 上席主任研究員:
一般の勤労者の方の手に届くような形にするには、やはり給与が上がっていかなければ。
一方で、バブル期にリゾートエリアに建てられたマンションがかなり残っているが、ほとんど空室という状況もある。これは都市の、まちづくりの問題。政治がスキームを作れば民間のお金が入っていき、価値が高まり都市が再生していくが。

山際大志郎 自民党政調会長代理
山際大志郎 自民党政調会長代理

反町理キャスター:
政治の方針は。

山際大志郎 自民党政調会長代理:
営利企業の給与が上がるためには、経済を活性化させる以外に方法はない。その妙案がないのだが、努力するしかない。まちづくりに関しては、これから我々は人口減少に伴うマイナスを抱えて日本を見なくてはいけない。そこでDX(デジタルトランスフォーメーション)など政治の負う部分が大きい。

「2045年に地価が3分の1になる」

新美有加キャスター:
人口の減少や高齢化が進む中、空き家問題が起こっている。2015年には「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されたが、2018年に全国の空き家はおよそ849万戸、空き家率は13.6%。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
建物を壊すコストが高すぎ、放置されてしまう。民間シンクタンクの予想では10年後には全国の4分の1ほどの住宅が空き家になる。空き家バンクでの需要とのマッチングにもコストがかかり、現状は非常に難しい。

反町理キャスター:
それに伴い、地価はどんどん下がっていくのですか。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
東京や大都市の地価は、集積が始まることによりむしろ上がる。しかし地方において、価値がゼロまたはマイナスになるところが増えていくと思う。全国平均で、我々のシミュレーションでは2045年に3分の1ぐらいの地価になってしまう。

反町理キャスター:
地方コミュニティの崩壊にもつながるような話なのでは。

清水千弘 日本大学教授 東京大学特任教授:
一方で、実はまちづくりにすごく成功し、地域の未来の価値を創出するような地方都市や町、村なども多い。その場合、価値はどんどん高まる。

反町理キャスター:
つまりこれから先、所有する土地の価値が上がるか下がるか全然わからないという時代に備えなければいけない。政治としては?

山際大志郎 自民党政調会長代理:
ニーズがなくなれば土地の値段は下がるが、例えば1人が使えるスペースが増え、地方都市でゆったりと生きていくことができるようになる。土地の値段下落が、すべてマイナスとなるわけではない。

BSフジLIVE「プライムニュース」3月31日放送