警視庁で長年捜査に貢献してきた10歳の警察犬「オト」が引退を迎え、史上初となる退官式が行われた。引退後は元パートナーの家庭に引き取られ、第2の人生を歩み始めている。現役時代の訓練による習慣も、温かい家庭環境の中で徐々にリラックスした様子へと変化しているという。
能力衰え…警察犬「初の退官式」
警察犬は人間の4000倍といわれる嗅覚で、犯罪捜査に欠かせない。「鼻の捜査官」とも呼ばれる彼らのセカンドライフを取材した。

黒色のラブラドールレトリバー、愛称は「オト」だ。専門は薬物や銃の捜索、鋭い嗅覚で何度も犯人検挙に貢献してきた。
そんなオトも今や10歳、人間に換算すると約70歳の大ベテランだ。
東京・東大和市にある警視庁・警察犬第2訓練所では、十数頭の警察犬が管理されている。オトもここで厳しい訓練を積んできた。

その実力を見せてもらう。ティッシュにわずかに付着した違法薬物の成分を汲み取る訓練だ。
並べられた6つのケースの中で、正解は1番端の箱。順番ににおいを嗅いでいき、見事正解した。かかった時間は13秒だった。
一方、同じ訓練でも6歳の警察犬はわずか4秒、その差は歴然だった。
その後もオトは挑戦を繰り返したが、集中力が途切れてしまった。
警視庁刑事部鑑識課 警察犬係・流茂紀主任:
5往復くらいしても発見できないこともある。犬にとっては負担が大きいのかなと。
オトの今の能力では、厳しい捜査は任せられない。警察犬は生き物といえど、あくまで警視庁の“備品”だ。現場で活躍できなくなると、通常残りの生涯は犬舎で過ごすことになる。

そんな中、2025年12月、異例のセレモニーが行われた。
警視庁刑事部鑑識課長・畑孝博警視:
長年にわたり警察犬として、鑑識課の一員として様々な業務に従事していただきまして、改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
正式名は「アルビラ号」。シニア警察犬オトの退官式だ。警視庁で警察犬の退官式が行われるのは初めてのことだという。

警視庁刑事部鑑識課 警察犬係・流茂紀主任:
オトちゃんとコンビを組んで3年2カ月、楽しい思い出しかありません。オトちゃん、長い間ありがとうございました。
オトの卒業を家族で見守っていたのは、夫婦共に警察官の安部貴之さん(48)と妻のあいさんだ。
夫の貴之さんは、現在鑑識の担当として勤務しているが、3年前まではオトのパートナーとして数々の現場で共に捜査をした戦友だ。

オトを思う気持ちは今も変わらないようで、スマートフォンの待ち受け画面はずっとオトの写真だ。
安部貴之さん:
子を思う親と一緒ですかね。元気にやっているんでしょうけど、どうなんだろうなって。オトにも、のんびりした生活をしてもらいたい。
残りの生涯、幸せな日々を送ってほしいと、オトを自宅に引き取ることを決意した。
“警察犬の癖”抜け穏やかな新生活
そうして、オトの新生活が始まった。

妻・あいさん:
におい嗅いでいる。それゴミ箱ね。
家に入るやいなや、部屋のにおいを嗅ぎ回る。
妻・あいさん:
興味がね、周りが気になって、お水どころじゃないですって。
オトにとって、家の中といえば捜索。警察犬ならではの癖だ。
そんな習性は、散歩の時にも出ていた。
取材班:
トイレは?
安部貴之さん:
してほしいくらいしないですね。彼女(オト)はしないんですよね、まったく。

警察犬は1日に6回、決まった時間と場所でトイレをするよう教え込まれている。捜査の現場で支障をきたさないためのものだ。
安部貴之さん:
(引退した今は)家でも(トイレの)時間を決めずにやってほしいんですけど。
さらに、オトは何度も安部さんの顔を確かめる。
(Q.安部さんの顔を確かめるオトの行動は?)
安部貴之さん:
指示待ち。エサ待ちか、指示待ちか。「何するんですか?」って。
さながら、かつての上司と部下のような関係で初めての散歩を終えた。
2週間後、妻のあいさんが撮影した映像だ。
新しい環境に慣れたのか、穏やかな表情で今にも眠りに落ちてしまいそうな様子だった。
安部貴之さん:
上司と部下の関係じゃなくなりましたね。自分で居場所を見つけて、リラックスしてくれています。
散歩でも、初日に比べて自由気ままな様子だ。トイレも散歩中にできるようになってきたという。

安部貴之さん:
ゆっくり歩くと年寄りに見えません?後ろ足もすっちゃったり、爪をすっちゃったりするんですけど。
安部さんは、オトの老いを感じていた。
安部貴之さん:
今(オトは)10歳なので短いかもしれないですけど、だから1日1日を大切にしたいなって。家族で支え合っていければと思っています。
オトのセカンドライフは、始まったばかりだ。
(「イット!」1月29日放送より)
