JR長野駅前で男女3人が死傷した事件から1月22日で1年。殺人の罪などで起訴された矢口雄資被告(47)は、当初、黙秘していたが、その後「無罪」を主張しているという。裁判の争点などを絞り込む公判前整理手続きが1月20日から始まったが、裁判がいつ始まるかは見通しが立っていない。
「恐怖感がある」事件から1年
事件から1年がたった1月22日朝のJR長野駅前。通勤や通学などで多くの人が行き交っていた。
普段と変わらない光景だが、事件による衝撃や恐怖は今も多くの人の脳裏に焼きついている。
駅前でバスを待っている人:
「あれ以降、駅前で並んだり人の多いバスに乗ったりするときは怖い。いつどこで何があるかわからないので」
「やっぱりここを通ると思い出すし、恐怖感がある。本当のことを、真実を知りたい」
正午過ぎには、花を手向けて、手を合わせる人の姿も。
花を手向けた人:
「前に亡くなられた時にも献花に来た。二度と起きてはいけないと思う。ちゃんと(被害者の)家族に謝罪の言葉くらい言ってもらいたい」
男女3人が襲われ死傷、現場から逃走
事件は2025年1月22日午後8時頃、発生した。
JR長野駅前で刃物を持った男に男女3人が相次いで襲われた事件。バス待ちの列に並んでいた長野市の男性(当時49)が死亡し、30代の男性と40代の女性が重軽傷を負った。
第一通報者(当時):
「バス停から女性の悲鳴というか声が聞こえてきて、バス待ちの集団から犯人が出てくるのを見て刃物を持った状態で。刃物を持ったまま右往左往していたので、逃亡というよりも次のターゲットを探してさまよっているような状況」と話していた。
3人を襲った男は現場から逃走。
市内には10都県から応援の警察官が派遣されるなど厳戒態勢に。
小中学校では欠席が相次いだ他、飲食店でも予約キャンセルの動きが広がった。
4日後、容疑者を逮捕
県警は、防犯カメラの映像や市民から寄せられた情報などから足取りを追うリレー捜査を展開。
そして、事件発生から4日後の1月26日―。
県警・吉沢敏 刑事部長(当時):
「本日、被疑者を殺人未遂罪で通常逮捕しました。氏名、矢口雄資」
県警は、無職の矢口雄資容疑者を女性への殺人未遂の疑いで逮捕。
その後、男性への殺人の疑いでも再逮捕した。
矢口容疑者と被害者3人はいずれも面識はなかったという。
中学校時代は明るい性格だったが…
中学校ではバスケットボール部に所属し、明るい性格で運動神経も良かったという矢口容疑者。市内の高校に進学し、卒業後は首都圏の大学へ。
ただ、近所の住民などによると、ここ10年ほどは周囲との交流がほとんどなく、実家から少し離れたアパートの一室で1人で暮らしていたとみられる。
捜査関係者によると、矢口容疑者は生活保護を受給していて、部屋は電気と水道が止められていたという。
当初は「黙秘」その後「無罪を主張」
矢口容疑者は逮捕当初、事件について「分からない」などと黙秘していた。
しかし、その後は「無罪を主張します」「社会に復帰したい」などと供述しているという。
逮捕の後、長野地検は約5カ月間にわたり事件当時の精神状態や責任能力の有無などを調べる鑑定留置を実施した。
その結果、「刑事責任が問える」と判断。2025年8月、丸山さんを牛刀で刺して殺害した罪などで矢口容疑者を起訴した。
事件から1年を前にした1月20日、長野地裁では、裁判の争点や証拠を絞り込む1回目の公判前整理手続きが行われた。
ただ、手続きの内容は明らかになっておらず、裁判がいつ開かれるのか見通しはたっていない。
争点は「犯人性」か「責任能力」
男女3人が無差別に襲われ1人が犠牲となった事件。刑事法の専門家は、裁判について、被告の「犯人性」か「責任能力」が争点になるのではと話す。
法政大学 法科大学院・水野智幸教授:
「非常に重大な事件で近くの地域の方は不安になっているだろう。これからの裁判が注目されていると思うので、順調に進んだらと思っている」
元裁判官で刑事法が専門の法政大学法科大学院の水野智幸教授。
事件から1年がたち、ようやく公判前整理手続きが始まった状況を次のように推察している。
法政大学 法科大学院・水野智幸教授:
「少し(進みは)遅いような気がする。被告人の供述がないのであれば、弁護人が方針を立てられない。方針を立てるためには検察官がどのくらいの証拠を集めているか見る必要があるので、そこに時間がかかっているのでは」
矢口被告は逮捕当初、黙秘していたが、その後「無罪を主張します」とも供述しているという。
検察側は鑑定留置の末、「責任能力があった」として起訴したが、水野教授は今後、弁護側が精神鑑定を請求する可能性もあると話す。
法政大学 法科大学院・水野智幸教授:
「弁護人の方針が決まれば進むと思うが、概してこういう事件では弁護人が検察官が起訴前に行った精神鑑定が問題ある、もう一回、鑑定してほしいと裁判所に請求する場合もある。(裁判まで)また数か月くらいかかることが多く、さらに延びることも予想される」
開始時期が見通せない事件の裁判。
水野教授は、被告の「犯人性」か「責任能力」が争点になるのではと話す。
法政大学 法科大学院・水野智幸教授:
「本当に被告人が何も話さないのであれば、客観的な証拠、防犯カメラ映像や目撃者の証言、被告人を確保・逮捕・検挙するときに至る警察の捜査の状況などから(検察は)被告人が犯人で間違いないですと立証するのでは。犯人性が間違いないとなれば、この事件では責任能力が問題となるのでは」
