アメリカのトランプ政権によるベネズエラへの軍事作戦。

3日、アメリカ軍の軍用機がベネズエラ軍のレーダー基地などを攻撃した裏で、特殊部隊によってマドゥロ大統領夫妻が拘束されました。

この軍事作戦により、「民間人を含め少なくとも80人が死亡した」などと報じられています。

拘束されたベネズエラのマドゥロ大統領は、日本時間6日午前2時頃、ニューヨークの連邦地方裁判所に罪状認否などのために初出廷し、長年にわたる麻薬密売や機関銃の所持など4つの罪で起訴されていることについて「私は潔白、私は無実だ」と主張しました。

ベネズエラ国内でも今後への不安が広がる中、今後のベネズエラの国家運営に関して記者に聞かれたトランプ大統領は…。

トランプ大統領:
我々が統治に責任を持つ。大手石油会社が参入し、インフラを整備し、資金を投資することになるだろう。あらゆることへアクセスすることが必要だ、石油や国の再建に必要なことについて。
国の再建に言及したほか、世界一の埋蔵量とされる「石油利権」への関与についても口にしました。さらに、ベネズエラだけでなく他の国々への対応にも言及。

トランプ大統領:
コロンビアは非常に病んでいる。コカインを作りアメリカに売るのが好きな病んだ男によって統治されている。いつまでもそんなことはできない。
メキシコに対してもなんとかしなければいけない。薬物がメキシコを通ってくるのを一緒に対応しなければいけない。我々は行動する必要がある。
それは、同盟国であるデンマークの自治領であるグリーンランドに対しても…。

トランプ大統領:
国家安全保障の観点からグリーンランドが必要であり、EUもそれを望んでいる。彼らはそれを理解している。

この発言に対して、デンマークのフレデリクセン首相は、「アメリカに併合する権利がない」と強く反発しています。
なぜ“人権侵害”ではなく“麻薬密売”を強調するのか
トランプ氏はなぜ突然の軍事作戦に打って出たのか。さらに他国への過激な発言の意図はどこにあるのでしょうか。

ベネズエラ専門家で、アジア経済研究所の主任研究員である坂口安紀氏は、まず根底として、マドゥロ政権の元で多くの人権侵害が行われている現状があると話します。

アジア経済研究所 坂口安紀主任研究員:
彼(マドゥロ氏)の元で多くの人権侵害が行われていて、常時1000人弱の政治犯がおり、これには未成年者も含まれます。多くの人が命を失い、拷問を受けています。これに関してICC(国際刑事裁判所)でも本格的な捜査対象になっています。
――今回、麻薬密売を大義名分として行動したとなっていますが、なぜ人権侵害などを強調しなかったのですか?
今までも、アメリカ政府またトランプ大統領自身も、民主主義をマドゥロが消滅させて独裁政権にしたことや、人権侵害について非常に厳しく批判してきたにもかかわらず、なぜ今回の作戦ではそれを言わないのか。それは、民主主義や人権侵害をトランプ氏が口にしてしまうと、「内政干渉」になってしまうからです。
「ベネズエラの民主主義のため」と口にしてしまうと、ますます国際法で問われる。あくまでもアメリカ社会に対して大きなリスクであると主張する、麻薬問題、その犯罪グループのトップを拘束・逮捕する。“アメリカの問題である”と意識づけるために、民主主義や人権問題は触らないと。

ベネズエラの今後について、「石油利権」についても言及していたトランプ大統領。
キヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏は、トランプ氏がベネズエラの石油利権にこだわる理由として、“かつてはアメリカが事業に参入していた”という歴史が関係しているのではないかといいます。

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司氏:
トランプ氏の行動を見るときに大事なことは、被害者意識、特に「奪われた」という言葉に対して過反応するんです。そこにさらに、石油はトランプ氏がすごく重要視しているもので、選挙の時も「掘って掘って掘りまくれ」みたいなことをやったりしましたよね。
その2つ重要なものがあったと。奪われた物を取り返すと。
しかも今回問題なのは、その奪われた石油がどこに行っているかというと、85%が中国に行っていると。ライバルである中国に「取られている」と。これをなんとか取り戻さなくてはいけない、しかも、ある意味アメリカの“裏庭”であるベネズエラの石油を取り戻すということが、トランプ氏の中で非常に強く意識としてあると思います。

――トランプ氏はアメリカがベネズエラを「運営する」といった趣旨の発言をしていましたが、4日にはルビオ国務長官が「方向性を管理する」といった言葉に修正しました。この意図は?
峯村健司氏:
これは、トランプ政権の関係者に聞いたところ、「運営する」、トランプ氏は「run」という言葉を使っているのですが、これはちょっと踏み込みすぎたと。実質的にルビオ氏が軌道修正をしたと。
なぜ「直接統治」という言葉を避けているかというと、今回は「体制転換」ではなく「軍事作戦」、あくまでトップだけを捕まえたというところがひとつと、過去の歴史を見ても、体制を転換して例えば民主化するというのは、結構うまくいっていないんです。
紆余曲折がありうまくいっていない、混乱になっているということから考えると、それはできればやりたくないというのが本音ですよね。ソフトランディング、穏やかな形で体制転換なりをしていくことを、トランプ政権としては望んでいると。
同盟国に対する“けん制”も…トランプ氏の思惑は?
今回、ベネズエラ以外の中東諸国に対する言及だけでなく、グリーンランドの領有についても改めて意欲を示したトランプ大統領。

――トランプ大統領の思惑は様々あると?
峯村健司氏:
このグリーンランド発言とかは、結構驚きではあるんです。同盟国であるデンマークへのプレッシャーなので、これはある意味、額面通りに受け取ると言うより、「おどし」ですね。今回、ベネズエラで実行したことで、周辺は“びびっている”わけです。そこで自分の言うことを聞かせていくということでは効果があったと見ています。
特にコロンビア、一番麻薬を密輸している国という意味では、ベネズエラよりむしろコロンビアになりますので、コロンビアに対する抑止にもなると。
そういう意味では、トランプ氏は予測不可能ではあるのですが、ある意味“緻密”に計算してやっていると見ていいと思います。

――その先にある、中国などの国を見据えているようにも思えるのですが
そうですね。今回のベネズエラの件も、トランプ氏の目線の先には中国の存在があると。
今トランプ氏の頭の中には今年の4月に訪中して習近平氏と対談をすると。そこで色々な交渉をする上でのひとつの材料になるわけです。ベネズエラに対して中国の投資が一番多いですから、この投資した物をどうするのかということで、ある意味トランプ氏のカードが1枚増えているわけです。中国としても、これはしてやられたと。対中でいうと、非常にいい武器を持ったというのがひとつあると。
佐々木恭子アナウンサー:
そうなると不安になるのは、世界の中でどこが「ブレーキ役」になれるのかと。

鈴木おさむ氏:
僕らから見ても、明らかに力ずくだと分かるわけじゃないですが。これがもし、(アメリカ国内に)賛同している人が結構いたら怖いなと。
峯村健司氏:
結構いると思います。ここでいういわゆる戦争で犠牲を最小限に抑えて、ある意味アメリカの国益にプラスになったと見れば、そこは一定の支持はあると。
「歯止めがない」という意味で行くと、本来なら国連なりが歯止めになってきたのですが、2022年ロシアによるウクライナ侵攻を始めたのは、国連の常任理事国、番犬であるロシアが始めて、アメリカも今こういうことをやったとなると、かなり今、誰も止められない世界になっているというのは自覚した方がいいです。
――視聴者からは、「強く非難している国が少ないことが怖い」という意見もありますが
峯村健司氏:
そうですね、例えば日本なんかその例ですけど、なかなか強く言えないと。こういう国連とかが頼れない時に何が頼れるかというと、やはり同盟関係になってくる。ある意味日本は矛盾を抱えているんです。同盟国で一番頼りになるのがアメリカなんだけど、そのアメリカが国際法違反をしている中でどうするのかと。同盟関係や日本の外交、立ち位置を問われる事件のひとつだと見ていいと思います。
谷原章介キャスター:
やはり、反戦や平和を強く打ち出してきた日本じゃないですか。アメリカが出したこういう行動に対して、どういうメッセージを発信するかは、とても今後の日本に対して大事ですよね。

峯村健司氏:
そうですね。ひいては、日本の周辺における、例えば台湾有事も含めた、そういうところの対応にも関係してきますので、ここは本当に政権の中でも頭を抱えているところだと思います。
(「サン!シャイン」 1月6日放送)
