「古米奮闘」。
住友生命保険が毎年募集する「創作四字熟語」で、2025年を象徴した最優秀作品に選ばれた言葉だ。
政府が需給逼迫に対応するため備蓄米を放出したドタバタ劇をふまえ、「孤軍奮闘」をもじったものだという。
生産者も、流通も、行政も、消費者までもが「奮闘」を強いられた1年。
まさに“令和のコメ騒動”だった。
備蓄米放出へ 止まらぬ価格高騰
2024年秋、スーパーの店頭価格は5kg3000円を超えた。
坂本哲志農水相(当時)は、「新米が出回れば落ち着く」と説明していたものの、その後も値は下がらず、逆に高値が定着していった。
転機となったのは、2025年1月。
江藤拓農水相(当時)が備蓄米の活用方針を表明し、3月には制度開始以来初となる“災害時以外での備蓄米放出”に踏み切った。
しかし、その方法は入札方式で、高値で落札した業者が買える仕組みだったため、市場には“安い米”が流れにくく、流通の目詰まりも重なり、価格は下がらなかった。
さらに、江藤大臣の「コメを買ったことがない」という不用意な発言が批判を浴び、コメ価格問題は政治不信にもつながってしまった。
小泉大臣、異例の「随意契約」備蓄米放出
混乱のさなかで就任したのが小泉進次郎前農水相だった。
「コメ担当大臣」を自称し、省内に特別チームを発足。

わずか5カ月余りで公式・非公式含め155回ほどの会見を行うなど、異例ずくめの対応を行った。
7月の参院選を意識した政権の焦りもあり、農水省関係者は「コメ問題が停滞していない姿を示す必要があった」と話す。
そして、従来は制度上困難とされた“随意契約”による備蓄米放出に踏み切った。
小売業者に直接販売し、中間コストを抑え、安いコメを店頭に届けるスピードを速めた。
結果、7月下旬には平均小売り価格は3500円台まで下落し、目に見える効果が表れ始めた。
しかしそのころ、価格高騰の主因が農水省の需要見通しの誤りであったことが判明する。
2024年産の主食用米の需要は、農水省が当初見通していた674万トンを大きく上回り、711万トンだった。
生産量は679万トンのため、需要に対して32万トン不足していたのだ。
農水省は当初、「流通の目詰まり」が主因だと説明していたが、実際には生産量が足りていなかった。
生産者は農水省の見通しを前提に作付けしていたため、現場からは「何を信じればいいのか」との不信の声が漏れた。
需要見通しは、年間国民1人あたりの消費量や30年間の動向、人口の増減などをもとに、「減少する」とみられていた。
ところが、23年産以降は精米歩留まりの悪化やインバウンド(訪日外国人)消費の増加など“想定外の需要”を見逃していたのだ。

新米が出回り始めると、価格は再び反転上昇。
随意契約による放出は即効性こそあったが、長期的な価格安定策とは言い難かった。
新米が出ても価格下がらず 鈴木大臣は“価格コミットを否定”
高市政権で農水トップに就いたのが、地元・山形のブランド米にちなみ、“はえぬき大臣”を名乗る鈴木憲和氏だ。

小泉前大臣時代の「増産」方針を再び転換し、「政府は価格にはコミットしない」、「備蓄米放出は見直す」、「家計支援は“おこめ券”など地方交付金で対応」といった方針を打ち出した。
そして、新たに検討されているのが「民間備蓄」という方法だ。
備蓄米の放出時に問題視されたのは、速やかに全国に流通させることができなかった点だ。
政府備蓄米を保管する倉庫が東日本に多いことや、倉庫内での出し入れ作業の多さが課題になった。
これに対し、民間が「行き先を決めないコメ」を一定量保有し、緊急時には農水省が放出を要請する。
従わない場合は、事業者名公表などの措置をとるということが検討されている。
しかし、従来とはまったく異なる手法であり、自民党内や専門家から疑問の声も多く、まずは試験運用となる見通しだ。
農水省幹部は「現状、ほかに手立てはない」と語るが、これはあくまで緊急時の対応にすぎず、構造的なコメ価格の高騰を抑えられるものではない。
値下がりは来るのか
「新米が出回れば安くなる」と言われたものの、現実は逆で、価格はむしろ上がり続けている。
最近浮上しているのが「6月末に在庫が過去最大級に積み上がり、価格が一段落する」という見方だ。
新米の生産増や在庫の滞留、卸や業者の繰越が重なり、夏場には市場全体の在庫が膨らみ、業者が “売り急ぎ”に転じ価格が下がるという観測も広がっている。
ただし、“令和のコメ騒動”以前のコメはかなり安く、今後在庫が積み上がったとしても当時の水準には戻らない可能性が高い。
しかし、騒動を経て分かったことは、消費者は、4000円台でも米を買うという現実だ。
農水省が毎週公表しているコメ価格と数量調査によると、5kg4000円超えの価格が定着したあとも、販売数量は2000円前後だった2年前とほぼ変わらない。
コメは生活に根付いており、今回のような価格では需要は鈍らない。
裏を返せば、生産者の高齢化、後継者不足、耕作放棄地の拡大といった構造的な問題を解決しないかぎり、「需要に応じた生産」すら困難になり、同じことが何度でも起き得るということでもある。
問われるのは単なる価格対策だけではなく、日本の農政が持続可能なモデルを描けるのかという点に移りつつある。
需給をどれだけ精緻に見通せたとしても、担い手がいなければ生産できない。
今回の価格高騰の波をしのいでも、構造が変わらなければ、また同じ波が押し寄せてくるのだ。
“令和のコメ騒動”が問いかけたのは、主食の未来そのものだ。
農政の真価が問われている。
(フジテレビ経済部・砂川萌々菜)
