大手ビールメーカー4社の2024年の事業方針がでそろった。各社、主力のビールに磨きをかける。

「ビール回帰とニーズ変化に対応する多様化」

2023年10月の酒税改正でビールが減税されたことを追い風に、市場全体のビールカテゴリーの構成比は6年ぶりに50%を超えたと推計されている。

2024年の事業方針で4社が共通して重視していたのは減税を受けた「ビール回帰」と飲用する酒類の「多様化」。

2026年の改正ではビール、発泡酒、新ジャンル(第3のビール)の税率が一本化されるため、この2年間でより多くの顧客と接点を持っておきたいところ。24年も各社のビール注力に変わりはない。加えて、会見でよく耳にしたのは「多様化」。ライフスタイルの変化に応じ、消費者の価値観が「多様化」し、酒類の選択肢や楽しみ方が変わっているため、どこに視点を置くかが重要となる。

アサヒビール「独自の高付加価値商品を国内外で販売強化」

アサヒビールは、フルオープン缶を使ったプレミアムビール「アサヒ食彩」について、コンビニ限定だった販路を全業態の展開に増やす。また韓国で「生ジョッキ缶」が人気であることを受け、食彩を日韓同時販売するという。マーケティング担当は「世界にも飛び出していけるようなことを仕掛けていきたい」と強調した。

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 松山社長は「2024年は、税制改正はないが、流れが非常に安定していて、狭義のビールへの回帰というのは続いていく」とした上で、「単にボリュームの最大化ではなく、価値としてみとめられる商品やサービスを展開していきたい」と述べた。

アサヒビール・松山一雄社長(左)と梶浦瑞穂マーケティング本部長(右)
アサヒビール・松山一雄社長(左)と梶浦瑞穂マーケティング本部長(右)

さらに、世界で初めてレモンスライスが入ったレモンサワーを発売する。「生ジョッキ缶」と同じ形のフルオープン缶を使い、蓋をあけると本物のレモンスライスが浮き上がり、レモンスライスはそのまま食べることも出来るという。

「世界初」レモンスライスが入ったレモンサワー
「世界初」レモンスライスが入ったレモンサワー

今年のビール類の販売額は6210億円を目指す。

サッポロビール「黒ラベル」「ヱビス」の2大ブランドでビールへの憧れを創出

主力の「サッポロ生ビール黒ラベル」ではリアルの体験イベントや高品質な基準を満たす「ザ・パーフェクト黒ラベル店」を選出することで体験のレベルアップを図るなどした戦略で接点を広げていく。黒ラベルは購入者数が2014年比で約1.8倍に増えていて、「熱狂的なファン化」という施策で、支持拡大に成功しているといえる。

さらに「ヱビスビール」は8年ぶりにリニューアルし、原料のホップの最適な使用方法を追求し甘みとコクに磨きをかける。

これらのアプローチでビールへの憧れを創出し、ビール関心層の拡大を図る。

野瀬社長は「物価上昇でお客さまの消費行動も少しずつ変化している。これらを肌で実感しながら、多様性を強みとした当社ならではの事業戦略をこれからも進めていく」と強調した。

サッポロビール・野瀬裕之社長(左)と武内亮人マーケティング本部長(右)
サッポロビール・野瀬裕之社長(左)と武内亮人マーケティング本部長(右)

2024年4月には35年ぶりに東京・恵比寿で、ビールの醸造施設を伴ったブランド体験拠点「YEBISU BREWERY TOKYO」を開業し、唯一無二のビール体験を提供する。

2024年4月開業の「YEBISU BREWERY TOKYO」イメージ図
2024年4月開業の「YEBISU BREWERY TOKYO」イメージ図

今年のビール類は3969万ケースを目指す。

キリンビール「一番搾り」に次ぐビールの新ブランドを17年ぶりに投入へ

キリンビールは17年ぶりにビールの新ブランドを投入すると発表した。年内にも公表するという。新ブランドは「一番搾り」に次ぐブランドとして育てる。

キリンビール・堀口英樹社長(右)と今村恵三マーケティング部長(左)
キリンビール・堀口英樹社長(右)と今村恵三マーケティング部長(左)

クラフトビールについては、認知度や市場は伸張しているものの「失敗したくない」などの理由から安心出来る物を選ぶ消費マインドがあり、ビールユーザーの約8割は飲用がないという。

クラフトビールを身近に感じてもらうため、気軽に楽しめるよう東京・代官山にある「スプリングバレーブルワリー東京」もリニューアルするほか、「SPRING VALLEY」ブランドは質の良い苦みを実現し、手に取りやすいパッケージにするなどのリニューアルを行う。

 堀口社長は「環境の変化により、お客さまの消費マインドが大きく変化し、そこに柔軟に適応していくことが酒類業界にとっても大変重要になってくる」と語った。

今年のビール類の販売数量は1億1680万ケースを目指す。

サントリー「いよいよ飲食店向けに『サントリー生ビール』を」

2023年に発売してから好調な「サントリー生ビール」を24年3月から業務用に樽・瓶で展開する。そのため、供給体制強化に向けて、現在2工場で行っている製造を、さらに九州熊本と東京・武蔵野を加えた計4工場にして10億円の設備投資を行うという。

 サントリービールカンパニー多田社長はサントリー生ビールの業務用の展開について「2024年の取り扱い店は1万5000店を目指す」と意気込む。

 また「サントリー生ビール」が好調な理由については「あえてビールをあまり飲まない若い方に向けたことが何より良かった」と分析。「サントリー生ビール」は20~40代の構成比が41%と若年層のユーザーが多い。

一方で、一部から出た意見を反映し、発売1年を待たずに2024年2月製造分から味やパッケージをリニューアルするという。これについては「若い方たちに向けたこれからの生ビールという意味では、早く反映した方がお客様との接点があるのではということでリニューアルに踏み切った」としている。

1993年にビール類73%だった日本の酒類市場は、2023年ではビール類が56%にとどまり、RTD(蓋を開けてすぐにそのまま飲める飲料)やウイスキー、ワインなどの構成比が増えたと推定データを示した。

サントリーの鳥井信宏社長は「お客様の価値観が多様化を増して、幅広いカテゴリー、商品を楽しまれるようになったことが影響している。多様化する消費者のニーズをいかに早く正確につかむかが重要」とした上で、2023年に約7800億円の国内酒類の売上高を、2030年には1兆円規模まで拡大する方針を明らかにした。

サントリー・鳥井信宏社長(左)と多田寅ビールカンパニー社長(右)
サントリー・鳥井信宏社長(左)と多田寅ビールカンパニー社長(右)

今年のビール類の販売数量は6000万ケースを目指す。

酒税一本化で「ビール回帰」が追い風になると見られるものの、消費者の趣向の多様化で従来のマスに向けたマーケティングは難しい。

各社の戦略差別化がどうつながるのか目が離せない。

(フジテレビ経済部 砂川萌々菜)

砂川萌々菜
砂川萌々菜

フジテレビ報道局経済部記者。2023年7月から記者として活動開始。
農水省・食品・飲料・外食担当。2023年10月の酒税改正時にはビールメーカー各社の動向など取材。