皆さんは救急車を呼ぶかどうか、迷ったことはないだろうか。
札幌市の救急車の出動件数は、2024年、約11万5000件だった。
過去2番目の多さだったが、2025年はすでに2024年の同時期を1000件以上、上回っている。一方で実は、救急搬送される人の半分は軽症だった。
しかし、突然家族の体調が悪くなった時、救急車を呼ぶべきかどうか迷ったら―。
解決策の一つとしてデジタルの活用が始まっている。
「熱を出して寝ていて急に起きてキッチンまで走って行った。嘔吐でもするのかと思ったら止まって大泣きし始めて」(UHBカメラマン粟生修市さん)
インフルエンザによる我が子の異常行動。
「普段泣くような泣き方じゃなくわんわん泣いていて」(粟生さん)

UHBでカメラマンを務める父親の粟生修市さんはその夜突然、救急車を呼ぶかどうか判断を迫られた。
「夜中だったので病院はやっていないですし、とりあえず朝まで待って病院に行こうかと」(粟生さん)

救急車を呼ぶ目安がわかる「こどもの症状受診の目安ナビ」
翌朝、息子の章斗くんは病院を受診。
インフルエンザと診断された。
熱はその日のうちに下がり、今は元気に過ごしている。
「1人だったら不安だったでしょうね」(粟生さん)

不安のなかで突然、迫られる判断。
それを支えようと札幌市が行っている実証実験が『こどもの症状受診の目安ナビ』である。
ウェブサイトにアクセスし、症状を選択することで救急車を呼ぶ目安が表示される。
「41℃を超えていない」(粟生さん)

出た結果が心配ならタップ1つで直接相談電話につながり、24時間いつでも看護師に相談できる。
「1人で考え込むと自分だけの判断になる。こういうのがあると救急車を呼んだ方がいいというのがすぐ分かるので、ありがたい」(粟生さん)
対象は札幌市内の15歳以下の子どもの保護者で、期間は2026年2月末日までだ。

デジタルによる仕事や社会の転換「医療DX」
「11月までで約3千件の利用があり特にインフルエンザが流行した11月には、1カ月だけで1600件を超えた」(札幌市保健福祉局 加藤孝典担当課長)
『受診の目安ナビ』は国が進める「医療DX」のひとつである。
「DX」とは「デジタルによる仕事や社会の転換」のこと。
患者と医療機関をデジタルでつなぐことで、より良い医療の提供を目的としている。

「血中酸素濃度を測っています。測った後センサーにかざすと数値が入力される」(札幌秀友会病院 看護師 川村美夕さん)
2024年9月、「医療DX」機器を導入した病院である。脳神経外科を中心に病床は130床以上。
全てのベッドにタブレット端末が設置されている。

これまではパソコンを大きなカートに載せていたが―。
「狭い道を通るには少し大きいので通りにくい。測定する機械だけを持って枕元に行けばいいのですごく便利」(川村さん)

画面に表示される看護上の注意点や診察スケジュールは職員と患者の両方で共有できる。
「患者のためになるか患者の満足度が上がるかが一番」(札幌秀友会病院 藤原雄介理事長)
導入に手ごたえを感じているのは、脳神経外科医の藤原雄介理事長。

「来院前AI問診」も導入されている
「医療には診察やケアなど直接的な医療のほか書類やカルテ書き込み、会議が多い。医療DXを入れ その時間を減らすことができれば直接患者と触れ合える時間が増える」(藤原理事長)
この病院では『来院前AI問診』も導入。24時間、院外からも操作できる。
「看護師も経験年数によって聞くことが変わる。AIが自動的に質問をするので経験に関係なく統一した問診ができる」(札幌秀友会病院 佐藤朋子外来師長)

一方、厚生労働省のまとめでは、外来診療への不満で最も多かったのが「待ち時間」。
「紙の問診の代わりにAI問診を入れるだけでは待ち時間の改善にはつながりにくい。外来システムを変えることなどで待ち時間の短縮につながっていくと思う」(藤原理事長)

北海道医療大学では医療データを扱うプロを育てるために、2026年から専門のコースを開講する。
「札幌市に医療が集中し、医療過疎のところもたくさんある」「ただでさえ不足している医療人材のなかでデータサイエンティストを養成することで医療従事者が患者の為に時間を割ける。患者も満足度の高い医療が受けられる」(北海道医療大学 三国久美学長)
医療DXは病院の効率化だけでなく、患者側が抱える『命の不安』に寄り添い、適切な医療へ繋げる取り組みでもある。
