大蛇の鋭い眼光「山鳥坂鎮縄神楽」
迫力ある大蛇の舞。大洲市肱川町岩谷地区に伝わる県の無形民俗文化財・「山鳥坂鎮縄神楽(やまとさかしめかぐら)」だ。
この大蛇の頭がこの冬新調され、地域の祭りに合わせてお披露目された。あたりを睨む鋭い眼光。大洲市肱川町岩谷地区で受け継がれてきた神楽で使用する大蛇の頭だ。
「神楽の里」に300年伝わる大蛇退治の舞
肱川町岩谷地区は「神楽の里」とも呼ばれていて、この地に伝わる「山鳥坂鎮縄神楽」は300年の伝統を持ち、県の無形民俗文化財に指定されている。
中でも「大蛇退治の舞」は素戔嗚尊が、八岐大蛇を酒に酔わせて退治する迫力の演目だ。長年の激しい立ち回りで大蛇の頭は傷んでいた。それを伊予銀行が行う地域の文化活動への助成制度に選定されたことから、今回晴れて新調できることになったのだ。

目にライトを仕込んだ新しい大蛇の頭
新しい頭の製作は、神楽の本場のひとつ、岩見神楽で有名な島根県の職人に依頼。保存会の会長でもある冨永さんはせっかく新調するならと、大蛇の頭にある工夫をすることに。
神楽保存会会長・冨永幸男さん:
「元のは目頭が下がって、目が真正面から見えにくかったので、目頭を上げてもらって目も明かりが点くように。これは最初出るときは点けずに、お酒を飲みだしてから、酔ったという感じの目が潤んでくる感じで点けたい。」
目の部分にライトを仕込んでより臨場感を演出する狙いだ。どんな大蛇の舞になるのだろうか?

神楽の里は…山鳥坂ダム建設予定地
この日は地元、松島神社の恵美須まつり。旧暦10月最後の乙亥の日に行われる商売繁盛、家内安全を願う祭りだ。
参拝客:
「毎年来ます。人口が少なくなったよね、昔はたくさんいましたけど」
神社氏子・新健史さん:
「商売繁盛の方を買われる方もいるんですが、見ての通り地元に店が少ないので、昔は商売繁盛で、恵比須様ですから八幡浜や長浜の方が来られていた。(松島神社は)ないです。今回のダムの工事でこちらの神社に合祀したので。残念ながら」
ここ肱川町岩谷地区は山鳥坂ダムの建設予定地で、水没地区から住民が立ち退き、いまは63人がダムより高い山間に暮らしている。(11月30日現在)
元々この恵美須まつりを行っていた松島神社も、ダムのために付け替えとなる県道の建設予定地にあった。そのため立ち退きとなり、ここ春日神社に合祀され、現在は祭りの場を変えている。

大蛇を演じるのは保存会の若手
恵美須まつりでは神楽保存会が毎年舞を奉納していて、今年は新調した頭を初披露する。大蛇を演じるのは冨永誠さん44歳、保存会の若手だ。
冨永誠さん:
「せっかくライトも点くので、今までと違った感じの壊さないように頑張ります。お酒飲むタイミングで点けようと思います。自分なりにやれることをやってみようと」
神楽もいよいよ終盤へ。冨永さんが新調した頭をかぶる。

大蛇が迫力満点に登場すると…
大蛇が迫力満点に登場すると素戔嗚尊との大立ち回り。素戔嗚尊は大蛇のスキをつくために桶に入った酒を飲ませる。
そして!動きの鈍くなった大蛇に止めの太刀を浴びせ、大蛇を討ち取る!
大蛇役・冨永誠さん(44):
「疲れますね。けっこう激しく動くんで。軽くて使いやすかったです。でも気を使いますね。新しいんで。(目を光らせるタイミングは?)自分では見えないのでよかったとは思うんですけど。」

「今までにない立派でよかった」
参拝客:
「とってもよかったです。楽しみだったんです。新しい人上手でした。前の人も上手だったんですよ。(新しい頭は)カッコよかったね、今までにない立派でよかった」
会長・冨永幸男さん挨拶:
「僕らも公演をつなげたいと思うんですが、なかなか後継者がいないんですよ。みなさん親戚の方にやってみたい人がいたら言ってください。すぐ入れてあげます。出来る限り、やれる間やってみたいと思っています。みなさんも一緒に頑張っていただきたいと思っています。」
山鳥坂ダムは現在、ダム本体の建設を前に、ダムがつくられる河辺川の流れを迂回させる工事が完了している。
変わりゆく風景の中でも流れを止めない川のように。冨永さんたちは伝統の神楽を未来へとつないでゆく。

