2025年、岩手県民の生活に大きな影響を及ぼしたクマについて、一年をふり返っていきます。市街地への出没が相次ぐ異常事態となりました。

内記和人記者
「クマが今フェンスを乗り越えて集合住宅の敷地内に入っていきます」

岩手めんこいテレビのカメラが2025年に県内で初めてクマの姿を捉えたのは4月2日でした。

「クマ!クマ!クマ!」記者がクマの存在に気付かない住民に注意を呼びかけました。

かつては、自社のカメラで実際に捉えることはまれだったクマ。
2024年は1件も捉えられませんでしたが、市街地で出没が相次いだ2025年は、実に14件撮影することになりました。

県のまとめによると、2025年度の出没件数は11月末時点で9079件。
過去最多だった2023年度を3000件以上上回っています。

5月には、住宅街にも近い北上市の商業施設付近に、クマが7時間とどまり続けました。
市がおりで捕獲を試みましたが、クマはフェンスを乗り越えた後、川の方向へ走り去りました。

最も出没が多かったのは10月です。県内で3084件と、2025年度の3分の1を占めました。

盛岡市本宮の原敬記念館では敷地内にクマが出没。周囲には商業施設や住宅があり緊張が走ります。

増子智絵美記者
「今クマが塀に上ってとどまっています」

約4時間居座ったクマは、吹き矢による麻酔で捕獲され、駆除されました。

その騒動からわずか3日後、今度は盛岡市の中心部・市役所裏の中津川にも出没しました。

齋藤優香記者
「クマがやぶから出てきました。辺りを見回しながら移動しています」

見守る人垣の中には内舘市長の姿もありました。
通勤時間帯の出没に周囲は騒然となりました。

盛岡市民からは「いよいよ中心部のところまで来たと思うと怖い」「怖い。安心して歩けない」など心配の声が聞かれました。

尊い命が失われる被害も相次ぎました。

増子智絵美記者
「ここから200mほど先の温泉で、クマに襲われたとみられる男性が行方不明となりました。警察が規制し、中に入れないようにしています」

北上市の瀬美温泉では、従業員の笹崎勝巳さん(60)が露天風呂の清掃作業中に行方不明となり、翌日、近くの林で遺体で見つかりました。

遺体のそばには笹崎さんを襲ったクマがいて、猟友会により駆除されました。

かつてプロレスの名レフェリーとして名をはせた笹崎さん。3月から住み込みで瀬美温泉で働いていました。

瀬美温泉 岩本和裕代表取締役
「ショックだし後悔している。言葉では表せない」

同じく10月、一関市厳美町の住宅の庭では、この家に住む佐藤富雄さん(67)と飼い犬がクマに襲われ死亡しているのが見つかりました。

警察や猟友会が集まる中、現場付近にクマが現れたため、その場で駆除されました。

2025年度、県内の人身被害は38人。このうち死者は過去最多の5人に上りました。(12月15日現在)

キノコ採りに出かけて襲われたケースもありました。

全国で災害級の被害が出る中、新たな対策が取られました。
9月、市町村の判断で銃を発砲できる「緊急銃猟」の制度がスタートしました。

自治体の担当者に対応の手順を確認してもらうため、釜石市では県による研修会が開かれました。

県自然保護課 引屋敷努統括課長
「各市町村の皆さんに見てもらい、少しでも緊急銃猟の参考になればと」

岩手めんこいテレビの取材に対し、9月中に緊急銃猟を始められると回答した自治体は4つだけと、”見切り発車”でのスタートとなりましたが、県内では11月20日、洋野町で初めて緊急銃猟を実施しました。

その6日後には釜石市中心部で木に居座ったクマに対し緊急銃猟が行われました。
これまでに県内では4件の緊急銃猟が実施されています。

被害が深刻な岩手県と秋田県に特化した取り組みも始まりました。
11月、規則の改正により、警察官によるライフル銃での駆除が可能となり、県内外の銃器対策部隊で構成するプロジェクトチームが結成されました。

チームは発足の翌週の11月18日、2日連続で2頭のクマが現れた岩泉町の柿の木に初めて出動しましたが、クマが高い位置にいて銃で狙えず駆除には至りませんでした。

このチームを含め対応に当たる岩手県警を激励するため、警察庁の楠芳伸長官も盛岡を訪れました。

警察庁 楠芳伸長官
「地域住民の安全を確保するという使命感と気概、総合力を発揮して活動しているという自負を持って任務に当たってほしい」

まさに異常事態となったクマの出没。

東北森林管理局が2025年に県内で行った調査では、ブナの実が2年ぶりの大凶作であることがわかりました。
専門家もエサ不足が出没増加につながっていると指摘しています。

森林総合研究所 大西尚樹さん
「完全にクマの生息圏が人間の生息圏に入り込んで、出会ってしまう確率は10年前に比べると各段に上がっている」

異常事態に対応するため、12月、盛岡市はこれまで県内でただ1人だった麻酔の吹き矢を扱える人材を新たに7人養成する方針を示しました。

盛岡市 内舘茂市長
「市中心部で緊急銃猟を行うことは、なかなか大変なこと。そのなかで麻酔による対応は盛岡市として中心部では有効な対策だと思う」

また県も12月24日にガバメントハンターの任用や出没を防ぐための「緩衝帯」整備にかかる費用など2億円余りを盛り込んだ補正予算案を議会に提出します。

全国的な不安の高まりを受け、2025年の世相を表す漢字にも選ばれた「熊」。
人間の暮らしを脅かす状況にどう対応していくのか。2026年以降も問われることになります。

岩手めんこいテレビ
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