福島県会津美里町で偶然発見された戦時中のフィルムには、花見客から出征兵士まで「軍都」会津若松の姿が記録されていた。撮影者の須藤喜代志さんは出征できなかった悔しさを抱えながらも、カメラを通じて歴史の証言者となった。戦後80年…息子の勝衛さんが見つけたこの貴重な映像は、戦争の記憶と平和への願いを現代に伝えている。

父親が残した映像記録

福島県会津美里町の須藤勝衛さん(83)が、2022年に自宅の倉庫で偶然見つけたフィルム。そこには鶴ヶ城で花見を楽しむ人々や笑顔の子どもたち、そして戦地へと向かう兵士の姿が記録されていた。

父・喜代志さんが撮影した映像(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)
父・喜代志さんが撮影した映像(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)
この記事の画像(6枚)

このフィルムを撮影したのは、勝衛さんの父親で「写真館」の2代目だった喜代志さんだ。父のことを「ハイカラだよね」と勝衛さんは振り返る。

映像に記録された「軍都」会津若松

喜代志さんが映画用のフィルムカメラで撮影した映像には、現在の会津若松市を拠点としていた旧日本陸軍歩兵第29連隊の出征の様子が映し出されている。
多くの市民に見送られ、戦地へと向かう兵士たち。
福島県立博物館の学芸員・栗原祐斗さんは「着ている軍服などから考えると、満州事変が起こって割と早い時期なのかなと推測をしています」と話す。

旧日本陸軍 歩兵第29連隊(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)
旧日本陸軍 歩兵第29連隊(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)

2025年の夏に開催された企画展では、この貴重なフィルム映像が上映された。
栗原さんは映像の特徴について「例えば連隊長と思われる人物をクローズアップして映していたり、何か歌を歌って見送っている市民の様子や、客車に乗っている出征していく皆さんの顔を映していたり。かなり須藤さんが見せたい部分を、よく映してそれを編集でうまくつないでいる」と語る。

フィルムに残された戦時下の様子(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)
フィルムに残された戦時下の様子(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)

当時の若松市は「軍都」の一つだった。明治時代の終わりから旧日本陸軍の歩兵第65連隊が駐屯し、大正時代には仙台から歩兵第29連隊が移されてきた。
福島県内出身者が多かった第29連隊は、満州やガダルカナル島などの戦場で戦い、多くの若者が命を落とした。フィルムには戦死した兵士を迎える様子も記録されている。

出征できなかった父親の思い

喜代志さんは出征を志願したものの、背中のケガなどからそれが叶わなかった。そして戦地へと向かう多くの知人や友人を見送ることになった。
勝衛さんは「出征できなかった親父が、悔しさを本当に身にしみて分かる。自分が行けなかったから賊軍って言われて、自分が何か足しにしたいと音楽団を作って兵を見送った。何かしたという親父の気持ちも分かってきました」と父の心情を語る。

戦死した兵士を迎える様子も記録(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)
戦死した兵士を迎える様子も記録(映像:個人蔵 福島県立博物館寄託)

勝衛さんは映像の持つ意味についてこう語る。「やはり戦争はやっちゃだめ。どこの国でもそうだけど絶対だめですよ。だから名誉とか出征するのが誇りに思っていたみたいだけど、その裏では本当に切ない家族がいっぱいいたと思う。だから、この映像で少しでも昔こういうことがあったと思い出してもらえれば本当ありがたい。親父もそれを訴えていたのかなと思います」

撮影した須藤喜代志さん
撮影した須藤喜代志さん

偶然発見された戦時下の映像。そこに映し出された一つひとつの場面が、平和の尊さを現代に伝えている。
(福島テレビ)

福島テレビ
福島テレビ

福島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。