安倍晋三元首相銃撃事件で殺人の罪などに問われている、山上徹也被告(45)。
18日、検察側の求刑と弁護側の最終弁論が行われました。

この記事の画像(11枚)

裁判の冒頭、代理人が朗読したのは、安倍元首相の妻・昭恵さんの意見陳述書。
その中で昭恵さんは、「突然の夫の死は衝撃的で、目の前が真っ暗になり、かなり長い間夢の中にいるようでした」「喪失感は一生消えることはありません」とつづりました。

そして、山上被告に対しては…。

「夫は国民が日本人であることに、『自信をみなぎる国にしたい』と言っていました。私は前を向いて夫の志を紡いでいきます。被告人には自分のした罪を正面から受け止め、きちんと罪を償うよう求めます」
(安倍昭恵さんの意見陳述書より)

無期懲役を求刑 弁護側「将来を失った者の絶望の果ての犯行」

裁判の中で検察側は、「宗教2世が凶悪な犯罪を起こす傾向はない」とした上で、「被告の不遇な生い立ちがあったことは否定しないが(中略)特定の団体にダメージを与えるために殺害することは、法治国家では絶対に許されることではない」と厳しく指摘、無期懲役を求刑しました。

求刑の際、表情を変えることなく、手元の資料を見つめていたという山上被告。

これに対し弁護側は、「殺人はあってはならないと理解している」とした上で、「無期懲役の求刑をしたことは、量刑としてはあまりに重すぎる」と主張。
悲惨とも言うべき境遇が犯行動機と結びつき、「自分の将来を失った者の絶望の果ての犯行だ」と強調しました。

また昭恵さんの意見陳述について…。

弁護側
「大切な命を一方的に奪われたものはどれほどかと思うし、被告人は心から受け止めるべき。しかし、(昭恵氏は)寛大にも被告人自身を責めることは言っていなかった。“今後の人生で償い方を考えて”というものと理解している。社会に生きることを可能とした判決の方が、遺族の意見に反していないように思う。最も重くとも、懲役20年までにとどめるべき」

最後に、裁判長から「何か述べることはありますか?」と問われた山上被告。
一言「ありません」と発言しました。

初公判から全ての裁判を傍聴してきたジャーナリストの西村カリン氏は、そのときの山上被告の様子について…。

ラジオ・フランス特派員 西村カリン氏:
本人から最後に言葉がなくて、それはびっくりした。何か言うと思っていましたが、何も言わなくて、あれ?って思いましたね。
(被告は)表情は余り変わっていない人なので、リアクションするタイプでもないし、(判決を)決めるって難しいです。何を思っているのかを想像するのも難しいですよね。

「無期は妥当な求刑」

検察側が求刑した「無期懲役」。元大阪地検検事の亀井正貴弁護士は、今回の裁判をどのように見たのでしょうか。

元大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
極めて妥当な求刑だと思います。
前例に照らし合わせると「永山基準」※というものがあって、殺人事件でひとりの被害者の場合は死刑というのはなかなか難しいんです。ただこれが政治テロ的な、民主主義に対する攻撃であると死刑の判決はあり得るのですが、本件ではそこまでいっていない。他方で、これは非常に悪質な犯行でかつ被告人には人命軽視な傾向もみられます。そこから有期懲役はあり得ないというのが検察の発想ですから、無期というのはまさにピンポイントの求刑であると。
検察側として、山上被告は政治的な影響というのを目的とはしていないが、おそらく認識はしていたという面がありますから、政治テロ的な面はあるのではないかと。
政治テロなのか準ずるものなのか考えたんだと思うんです。その上で、単純に死刑を求刑するのではなく、色々なことを合理的に判断したんだということを示したいと。

※「永山基準」
最高裁が1983年に死刑判断基準を示したもの。殺害された被害者の数など9項目を総合的に考慮するとされている。

――裁判の最後を「ありません」と締めた山上被告ですが
元大阪地検検事 亀井正貴弁護士:

一般的に重大事件を起こすと、「世間に迷惑をかけてすみません」とか、被害者の方に陳謝するというのが一般的ではあるのですが、おそらく今回の件は山上被告にとって政治テロにならないように、色々なことを考えながら、慎重に答えてきたのだと思います。
おそらくその過程の中で「やりきった」という思いがあるのだと思います。だから、これ以上言うべきことがない。そうしてやってきたのに、今の段階で変な話を出して悪い心証を与えるのもいやだということで、思いつかなかったのではないか。

――裁判員裁判の本件、今後どうなっていくか
裁判員裁判の心証形成というのは非常に難しいんです。検察官とプロの裁判官の見方というのは明確なんです。生い立ちなどはほとんど影響しない、ただ今回の場合は生い立ちは本件犯行と結びつけていますから、一体的なもので、若干違う可能性がありますが。
一般の人に聞けばこの事例について「刑」というのは、千差万別分かれてくると思います。裁判員はそういうものなので、読めないところがあります。
(「サン!シャイン」 12月19日放送)