岡山・香川の1年を振り返る年末回顧。第5回は、ふるさと納税制度を巡る自治体のルール違反で、指定の取り消しが相次いだ問題です。
今、自治体に求められることとは。
◆農家支援という名目で生産者に支払っていた「奨励金」がルール違反とされた吉備中央町
(吉備中央町協働推進課 大月道広課長)
「これが吉備中央町のパンフレットだった。指定団体取り消しを受けて使えなくなった。自信を持って町の紹介から色々なものがあると一覧にしていた。捨てるに捨てられないので倉庫に保管する」
岡山県吉備中央町は2025年6月、国から制度の指定を2年間取り消されました。
納税者が応援したい自治体を選んで寄付すると、税金の控除を受けられるこの制度。寄付した人には返礼品として自治体の特産品などが送られます。
吉備中央町では、コメを返礼品にしていましたが、調達を巡ってルール違反がありました。違反が指摘されたのは、農家支援という名目で2018年度から返礼品のコメの生産者に支払っていた「奨励金」。60キロ当たり1万3000円から1万円4000円の買い取り代金に上乗せする形で、7000円から1万1000円を支払っていました。
奨励金を含めたコメの調達額は、寄付金の47%から57%に膨らんでいて返礼割合を30%以下と定めたルールに違反していたのです。
◆吉備中央町・山本町長 毎年できていた奨励金が「急に駄目」に半ば納得いかず…「農家支援を誰がやるのか」
(吉備中央町 山本雅則町長)
「農家と農業関係者と協力してやっとここまでの体制をつくりあげた。(奨励金は)ずっとやっていることで、その都度(国から)毎年いいですよと(言われ)、自信を持ってやってきた。令和7年(2025年)に急に駄目ですよとなったので、それはどうかなと思いはある。農家支援を誰がやるのか」
岡山県内では、コメを返礼品にしていた総社市も同じ調達を巡るルール違反で、2025年9月に指定を取り消されました。コメの価格高騰を受け、足りない費用を補填するなどした結果、返礼割合が30%を超えました。
◆税収が厳しい地方の自治体にとってインパクトのある「ふるさと納税」は獲得競争が激化
なぜ、ルール違反が起きたのか。
2008年度にスタートしたこの制度は年々、寄付が増え、2024年度の受け入れ額は、全国で1兆2000億円を超えました。
吉備中央町でも2024年度、約11億1600万円の寄付があるなど税収が厳しい地方の自治体にとっては、大きなインパクトを持ち、寄付の獲得競争を激しくさせています。
◆フェアな競争のはずが…数十万点といわれる「返礼品」をちょっとでも魅力的に見せたい自治体同士の“攻防”
そのツールとして返礼品が使われていて、その数は数十万点とも言われています。専門家は返礼品の「存在感」が想定以上に大きくなっていると指摘します。
(ふるさと納税制度に詳しい 慶應義塾大学総合政策学部 保田隆明教授)
「各自治体にとって貴重な財源。一方で返礼品の競争の差別化が難しい状況で、国はフェアな競争を重視しているが自治体はちょっとでも魅力的に見せたいということで(返礼品の)攻防が続いている」
◆専門家「返礼割合の3割の“解釈の余地”を与えてしまうと競争が不公平に」
違反の理由について、吉備中央町は農家の支援、総社市はコメの価格高騰としていますが。
(慶應義塾大学総合政策学部 保田隆明教授)
「(返礼割合の)3割を拡大解釈し始めた途端に各自治体で解釈の余地が出てしまう。解釈の余地を各自治体に与えてしまうと競争が不公平になる。3割と定められているのならルール内でフェアに競争しないと制度がもたなくなる」
◆再発防止の検討に入った吉備中央町だが…町長「国がルールを明確に言わなかったからこういうことになった」
吉備中央町は2025年10月、有識者などでつくる「検証会」を立ち上げて、2年後の復帰に向け再発防止の検討を始めています。
ただ、納得していない部分も。
(吉備中央町 山本雅則町長)
「はっきりと言われたので奨励金はやめる。国が言われたルールを守るのは大前提。ただ今までは、国がルールを明確に言わなかったからこういうことになったと私は捉えている」
◆専門家「ルール違反をなくすには「推し活」で寄付者を獲得するアプローチが必要」
ルール違反をなくすには何が必要か。専門家は、制度が自治体を応援するためのものだという原点に立ち返る必要があると指摘します。
(慶應義塾大学総合政策学部 保田隆明教授)
「返礼品は重要だが、50万点60万点という中で選んでもらうのは至難の業。返礼品ではなく地域そのもので「訴求力」によって差別化し、応援したいという「推し活」で寄付者を獲得するアプローチが重要」
◆瀬戸内市では「養殖カキ大量死」によって被害を受けた生産者への支援に「ふるさと納税」を活用
制度は、災害の時に返礼品を設定せず支援を呼びかけるツールとしても広く使われています。
現在、養殖カキの大量死が問題となっている瀬戸内市でも活用されています。制度により寄付の文化が広く根付いたとも指摘されていて、寄付を集められるかは、自治体トップの手腕次第とされています。
◆専門家が自治体トップに求める「ふるさと納税」の戦略
(慶應義塾大学総合政策学部 保田隆明教授)
「地域にどういうストーリー性があるか。ストーリー性をもって他の地域の人にも魅力的に感じてもらうことが必要。首長はお金を集めることは重要だが、地域がどう素晴らしいか、自分の口で語れる首長がいるかいないか。語れた上でふるさと納税の戦略を立てていけば寄付は集まる」
地域の活性化に欠かせなくなったふるさと納税制度。それを生かすために自治体は襟を正す必要があります。