福岡・朝倉市に新たな名産品が誕生するかもしれない。農業を通して地元の魅力を発信しようとしている夫婦。二人三脚で挑む若き柿農家の挑戦を取材した。
きっかけは“災害ボランティア”
福岡市内から車で約1時間ほど南下。取材班が訪れたのは、自然に恵まれ県内でも有数の農業地域、朝倉市。

約60アール(約1815坪)の広大な土地で柿を栽培しているのは『重松農園』の重松良輔さん(30)だ。

「例年は11月20日頃から最盛期だったんですけど、今年は色づきが遅くて1~2週間遅れて最盛期が来ています」と話す重松さんが栽培している柿は、寒さが本格化する頃から収穫の最盛期を迎える品種の富有柿。

食感が良く糖度が高い(16度~20度)ことから『甘柿の王様』と呼ばれている。
朝倉市に隣接する大刀洗町出身の重松さん。柿の栽培に携わるようになって6年目になるが、きっかけを尋ねると「大学を卒業して会計事務所に勤めていたんですけど、その頃に災害が起きてしまって、そこから災害ボランティアで朝倉に入り込ませて頂いた」という。

2017年、記録的な大雨により朝倉市や東峰村などに甚大な被害を出した九州北部豪雨。42人にも及ぶ人たちが死亡・行方不明となった。

重松さんは朝倉市内の高校に通っていた縁もあり、休日にボランティアとして住宅に流れ込んだ土砂の撤去や炊き出しなどに参加。そこで出会ったのが現在、柿の栽培を行っている農地だったのだ。

「地主さんが高齢になって、柿の木も古くなってきたというのもあって『木を切ってしまおう』というタイミングで自分が来て『一緒にやっていこう』というところから始まりました」と当時を思い出す重松さん。思いもよらぬきっかけだった。

農業の経験はゼロだったものの、地元の農家に教わりながら柿の栽培をスタート。

会計事務所を退職して朝倉市に移住し、農業の道へ進むことを決意したのだ。

セミドライで食感を楽しめる柿
その重松さんに2025年、強力なパートナーが現れた。重松さんが紹介してくれたのは、妻の裕美さんだ。

結婚前までは福岡市内のマーケティング会社で商品開発を担当していた裕美さん。その経験を活かし、重松さんとともに栽培に携わる傍ら、柿を使った新たな商品の提案を行っている。

そのひとつが、柿をドライフルーツにしたという一品。2人で収穫した柿を使った加工品だ。甘柿の食感を残しながら糖度がアップしている。

裕美さんによると「乾燥が強いとすごく硬くなってしまうので、セミドライぐらいで食感を楽しめる」という。

試食した記者は「甘さが際立ちます。果肉感というか柿本来の食感に近いような感じもあって美味しい!」と思わず2つ3つと手が伸びる。
耕作放棄地を利用して豆栽培にも取り組む
「(ゼロからの柿農家スタートは)本当にすごいことだなと思っていて、後継者不足の農業の道を選択したことにもすごく感心していて、それで意気投合したところもあるなぁ」と柿生産者として生きる重松さんを裕美さんは見つめる。

さらに朝倉市を盛り上げるため2人が始めたのが、枝豆の何十倍もあるようなムクナ豆の栽培。インドや東南アジアなど熱帯、亜熱帯地域が原産で、国内では八升豆とも呼ばれている。

「もうそろそろ収穫時期なんですけど、まだまだ水分が含まれているので、これから枯れて真っ黒の状態になります」と話す裕美さん。大きく育った実を乾燥させて収穫し、加工品の開発にも乗り出すつもりなのだ。

朝倉の特産品である柿栽培に打ち込みながら耕作放棄地を利用してムクナ豆の栽培にも取り組む重松さん夫妻。二人三脚の歩みは始まったばかりだ。

「朝倉の良さをどんどん伝えていって、少しでも広まればなと思っています」と良輔さんは決意を新たにしていた。
(テレビ西日本)
