島根・浜田市と江津市にまたがる水族館「しまね海洋館アクアス」では、2024年に誕生した2頭のシロイルカの赤ちゃんが順調に成長し、現在一般公開されている。
母親のアンナから産まれたことから「アンナ子」と仮の名前が付けられている子イルカと、誕生直後に母親のアーリャを失った「アーリャ子」の成長の記録と、アクアスのスタッフによる懸命な育成の努力の詳細が明らかになった。
2頭の赤ちゃんシロイルカ誕生の経緯
しまね海洋館アクアスでは、2024年6月24日にアンナの子ども誕生、続いて7月1日にアーリャの子どもが誕生した。
スタッフは、アーリャとアンナが産んだ子イルカをそれぞれ「アーリャ子」、「アンナ子」と名付けて見守っていたが、アーリャが出産から10日後の11日に突然死んでしまい、これにより「アーリャ子」は完全人工哺育での飼育が必要となった。
一方、「アンナ子」は授乳で成長していたが、4月頃に突然授乳を受け付けなくなり、このままでは栄養がとれない状態になるという事態が発生した。
母親を失った子イルカ…困難な人工哺育への挑戦
「アーリャ子」の人工哺育は、スタッフにとって大きな挑戦だった。
特殊な設備を使用し、チューブを使った強制哺乳から始まり、徐々に自力哺乳へと移行していった。
「アーリャ子」の哺育では、専用のミルクと犬用のミルクを混ぜ、サーモンオイルやニシンの切り身を加えた特製の配合ミルクを使用。
当初は激しく泣きながら強制的に哺乳させられていた「アーリャ子」だったが、工夫を重ねた結果、自分でミルクを飲めるようになったという。
アクアスのスタッフは「最初は4人がかりでチューブを口から入れて、強制的にミルクを与えていました。0時、3時、6時、9時という感じで、休むことなく哺育を続けました」と振り返る。
この困難な作業は、「点滴のようにゆっくりミルクが入る重力式の強制哺乳」という工夫により、3人で対応できるよう改良された。
さらには、アーリャ子が自らミルクを飲むように訓練を重ね、最終的には誰も押さえつけることなく、深いプールでも自分からミルクを求めるようになった。
ミルクから魚へ…新しい経験の連続
次の課題は離乳だったという。
液体のミルクから固形の魚への移行は、アーリャ子にとって全く新しい経験だった。
スタッフはミルクと一緒に小さな魚を与えることから始め、徐々に魚の量を増やしていった。
「普通なら強制給餌として、魚を無理やり喉の奥に入れる方法がよく取られますが、アーリャ子の場合は自分でミルクを飲む行動ができていたので、ミルクと一緒に小さな魚を飲み込んでもらう方法を取りました」と説明する。
成獣から攻撃されけがも…同じプールで泳ぐためにトレーニング
アーリャ子は4月頃から、成獣のナスチャとの同居トレーニングを開始した。
浅瀬を安心できる場所として認識し、そこから少しずつナスチャのいるエリアへ出ていく練習を繰り返した。
しかし、この過程で一度ナスチャから攻撃を受けてけがをしたため、同居トレーニングは一時中断することもあった。
「アンナ子」の体調不良と母子分離の決断
アンナ子は、母親との自然な関係で成長していたが、4月に突然授乳を受け付けなくなり、魚も食べなくなるという状態になった。
スタッフは、毎日営業後に15人以上の体制でプールの水を抜き、アンナ子に強制哺乳や投薬治療を行った。
「本来なら親子は一緒にいる方が精神的にも安定しますが、7月23日に治療用プールへ『アンナ子』だけを移動するという苦渋の決断をしました」と振り返る。
ただ、この決断は結果的に正しく、「アーリャ子」と同じプールで治療が行えるようになり、お互いに良い影響を与え合いながら成長している。
順調な成長…ついに一般公開へ
10月17日に2頭とも展示プールへの移動練習を開始し、わずか2日後には順調に進展したことから終日公開が始まった。
12月2日の体重測定では、両方とも健康で、アンナ子は生まれた時から4倍、アーリャ子は3倍の大きさに成長していることが確認された。
「これはオスメスの差もあるのでしょう。単純に人工哺育だから小さく育ったというわけではないと考えています」と成長ぶりに一安心のようだ。
アクアスでは、この2頭シロイルカの名前を募集、2026年1月5日に命名式を予定している。
困難に直面しスタッフ団結 1月に命名式
館内では困難に直面するたびに、スタッフ全員が集まり、様々な意見を出し合って次の対応を決定していった。
「想定外の状況でしたが、皆で一緒に決めたことを確認し合いながら進めていくことで一体感が生まれました」と話す。
今後は2頭のシロイルカが成長し、より大きなプールで泳ぎ、場合によってはパフォーマンスを行うという期待感も広がっている。
「来館者が期待していることをしっかり受け止めながら、次の展開へのハードルを一つ一つ超えていきたい」という展望が語られた。
2頭のシロイルカの赤ちゃんの成長は、多くの困難を乗り越えたスタッフの献身的な努力と、動物たち自身の生命力の証といえる。
特にアーリャ子の人工哺育は24時間体制の対応を要し、スタッフは「最初の2か月は寝る間もない」状態だったという。
その苦労の末に、元気に泳ぐ姿を見ることができるようになったのは、まさに「奇跡」と呼ぶにふさわしい成果だ。
シロイルカの赤ちゃんたちの今後の成長と活躍に、多くの期待が寄せられている。
(TSKさんいん中央テレビ)
